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8 大捕り物?

「ほかに欲しいものなどあるか?」


「リリアンヌさんが教えてくれたおいしいお菓子屋さんに行きたいです。お土産を買いたいと思うのですが」


私が言うとヴォルフ様は頷いて私の肩に手をまわして歩き出す。

腕を組んだりして歩くのではダメなのだろうか。

待ちゆく人たちが私たちを見て噂話をしているのが見えた。

主にヴォルフ様を見ているのだろう。


「そのお菓子屋はどこにあるんだ?」


「地図を描いてもらいました」


リリアンヌさんに書いてもらった地図を広げてヴォルフ様に渡す。


「あぁ、ここか」


どうやら場所を知っているようで、私に紙を返してきた。


「ご存じでした?」


「町のことは裏道まで知っているからな」


「なるほど」


自分の領地のことは詳細に知っているだろう。

私の肩を抱いて歩き出したヴォルフ様。


下から見上げて顔を見るが、完璧で美しい顔に惚れ惚れして見ていると視線が合った。


「なんだ?」


「いえ、・・・かっこいいなぁと思って」


後半は本当に小さく呟いたがヴォルフ様はしっかり聞こえたようで嬉しそうに目が細められた。


「クレアに言われると嬉しい」


ギュッと片手で抱きしめられて頭にキスを落とされた。


「ひえぇ、こんな街中で。人が見ていますけど」


恥ずかしくて縮こまる私にヴォルフ様は軽く肩をすくめた。


「他人などどうでもいい」


「ひえぇぇ。私は構うんですけど」


これでは、リリアンヌさん達みたいではないか。

バカップルのようにはなりたくないと思っていたがまさか自分がそう見られる立場になるとは思いもよらなかった。

恥ずかしがる私が面白いのかヴォルフ様の腕の拘束は強くなっていく。


「ちょっと、クレアさん!ヴォルフ様から離れていただけます?」


突如現れた、ジュリアが道の真ん中で私に指をさしている。


なぜここに居るのという疑問がわくが、ヴォルフ様は綺麗に無視をして私を伴い彼女の横を通り過ぎた。

視線すら向けないヴォルフ様に一瞬傷ついた顔をしたジュリアだったが、気を取り直して私たちの前に回り込んでくる。

今日も相変わらず青い色のワンピースドレスを着ている。


「無視しないでください。ヴィルフ様から離れてください!」


「お前に言われる筋合いはない。どこをどけ邪魔だ」


冷たく言われているにもかかわらず、ジュリアは全く気にしていない様子でヴォルフ様をキラキラした瞳で見上げている。


「邪魔だなんて酷いですわ。どちらへ行かれるのですか?私もご一緒します」


私に対してあれだけ敵対心を持っているのにも限らず一緒に行くなどどの口が言うのか。

驚いている私には目もくれず、ジュリアはヴォルフ様の腕に触ろうとする。


「触るな、不愉快だ」


手を振り払われてもジュリアはまだニコニコと笑ってヴォルフ様を見上げている。

流石に、ジュリアが恐ろしくなってきた。

これだけ冷たくあしらわれても、めげない精神力は凄いが少し異様だ。


「あー!本当に居たわ!あの女、クレアちゃん達に絡んでいるわよ」


道を挟んだ向かい側でコーディさんと並んで立っているリリアンヌさんが私たちを指さしている。


「ね、臭いんだもん。あの人の香水。どこに居るかすぐわかる」


顔をしかめているコーディさんとリリアンヌさんが道を渡って私たちの所まで歩いてきた。


「クレアちゃん大丈夫?酷いこと言われなかった?」


リリアンヌさんが聞いてくれるが、酷いより恐ろしいですと言いたいが本人を前に言えるはずもない。


「本当に、香水が臭いな」


ヴォルフ様が顔をしかめてジュリアさんから体を遠ざけた。


「臭いなんて・・・酷いですわ。私に合わせて調合した世界に一つだけの香水ですのよ」


なぜか香水を臭いと言われたことにショックを受けているジュリア。

大好きなヴォルフ様に邪見にされる方が私ならショックを受けるが落ち込むポイントも不思議だ。


「私は良い匂いだと思いますよ」


少しスパイシーな匂いは気が強いジュリアに会っていると思う。

ヴォルフ様から離れてジュリアの香水の匂いを嗅いだ。


「私もいい匂いだと思うわ。香水だけは」


リリアンヌさんもジュリアの傍によって香水を嗅ぎだした。


「ウチの旦那香水嫌いじゃない?私、香水大好きなのにそれだけはちょっと納得いっていないのよねぇ。その代わり、生花をプレゼントしてくれるのよ。おほほほほほっ」


「知らないわよ!そんなこと。匂いをかがないでくださるかしら」


自慢げに笑うリリアンヌさんと私を気味悪そうに見ているジュリアが言った。

呆れたように私たちを見ていたコーディさんとヴォルフ様が突然険しい表情であたりを見回した。


「クレア、こっちへ」


ヴォルフ様に呼ばれて行くと力強い腕がお腹に回されて片手だけで抱きしめられた。


「なんですか?」


険しい表情のヴォルフ様は口の端を少し上げる。


「どうやら事件らしい、警備隊が犯人を追いかけていてここを通りそうだ」


「え?なんでわかるんですか?」


辺りは平穏そのもの、騒ぎも無ければ、争っている声すらしない。


「耳がいいから。僕達。リリアンヌもヴォルフ様の後ろに隠れてて」


コーディさんが、腰の剣に手を置いていつでも抜けるようにしながら言った。


「解ったわ。気を付けてね!ダーリン」


ヴィルフ様の後ろに隠れながらもリリアンヌさんが投げキッスを送る。

いつか私とヴォルフ様は、リリアンヌさんたちみたいに投げキッスをするような中になるのかしら。

想像をするが、ヴォルフ様は絶対にやらないだろう。


状況が解っていないジュリアはおろおろと私たちを見てヴォルフ様に近寄っては追い払われている。


「酷いですわ。ヴォルフ様。一体何なんですの?なんで道の端で抱き合っていますの?」


私を睨んでからヴォルフ様に笑みを向けて話すジュリアの器用さに感心していると、遠くから男の人たちの声と足音が聞こえてきた。


「まてー!」


「捕まえろ!」


一人の男とその後ろを警備隊の人たちが走っている。

一番先頭の人が何かの犯人なのだろうが、距離が開いておりとても捕まえられそうにない。

警備隊の人たちが、私たちを見て遠くから叫んだ。


「狼将軍!その男を捕まえてください!生け捕りです!殺さないで!」


「殺すなだと」


ヴォルフ様が言うとコーディさんが頷いて剣を抜いた。


犯人らしき男も剣を抜いて走ってコーディさんに斬りかかった。

犯人の剣を弾いて、コーディさんも斬りかかるがひらりとかわされてしまう。


「狼部隊か。分が悪いな」


犯人の男はそう呟き、コーディさんに剣を振り下ろす。

男の剣を受け止めてコーディさんは素早く腰の後ろの短剣を抜いて男の腹に刺した。


「グッ」


男は低く悲鳴を上げて、地面へと膝をついた。

男の腹から出る赤黒い血に私の体が震える。

幼少期に狼に殺された男性を思い出し息が苦しくなった。


「クレア?」


私の異変を察して、ヴォルフ様が顔を覗き込んでくるが答えることができない。

浅く息を吸う私はきつく抱きしめる腕にしがみついた。


「ありがとうございますー!」


男を追いかけていた警備隊の人たちが、息を切らせて追いついてきたが、お腹から血を流して膝をついている男を見て声を上げた。


「ありゃー、殺さないでって言ったじゃないですぁ!」


「まだ生きてるよ!」


コーディさんが言うが、警備隊の人たちは慌てている。


「瀕死でしょ!どうして、死にそうなところを刺すんですか。医者呼んで!」


「しょうがないでしょ。急所を突く!訓練のたまものだね」


カッコよく言っているコーディさんを無視して、警備隊の人たちは血を流している男に集まった。


膝をついている男はとうとう意識を失ったようで倒れてしまった。


腹から出た血が地面へと広がっていく。


「クレア?」


見てはいけないと思うのに、その男を見てしまう。

だんだん息が苦しくなって、目の前が真っ暗になった。

心配そうに私の名を呼ぶヴォルフ様と、リリアンヌさんの声が遠くで聞こえた気がしたが私の体は重く動かない。





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