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7 町へおでかけしました

翌朝、アンソニーさんに見送られて馬車に乗り町へと向かう。


豪華な黒塗りの馬車は室内も広い。

私が今まで乗ったどの馬車よりも豪華で椅子もフワフワで乗り心地がとても良い。

前に座るヴォルフ様は微笑んで私を見つめており、まだ彼に慣れていない私はちょっと恥ずかしい。

休日だというヴォルフ様であるが、今日も軍服姿だ。

銀色の剣は腰から外してすぐそばに立てかけてある。


「いい天気で良かったですね」


何となく会話がないので天気の話を振ってみると、ヴォルフ様は微笑んだまま頷いた。


「そうだな。一緒に服を選べるなど幸せなことだな」


しみじみ言うヴォルフ様に私の顔が赤くなった。

そんな嬉しそうな顔をされると私の心臓がもたない。

ヴォルフ様の完璧なお顔から目を逸らして馬車から外を見る。

いつの間にか馬車は町を走っており、大きな店が並んでいた。

馬車が止まり、御者がドアを開いた。

ヴォルフ様が先に降りて私に手を差し出してくれる。

その大きな手を掴んで外に出た。


「大きな町ですね!」


周りを見ると、私が住んでいた村よりもかなり栄えている。

人も多く行き交っており、ヴォルフ様の姿を見て数人の女性が足を止めて見ている。


「狼将軍だ。町に居るのはめずらしい」


「傍にいる女性は噂の婚約者様かしら・・・普通の方ね」


町の人たちがヒソヒソ話している声が遠くから聞こえてきてやはり有名人なのだなと納得する。

狼将軍と呼ばれているだけあって婚約者である私にも興味があるようで、人が集まってきてしまった。

ヴォルフ様にエスコートされて大きな店の中へと入る。


店の中には綺麗なドレスが飾ってあり、とても豪華だ。


「今日は、冬物の洋服を買いに来たんですよね?」


ドレスを買いに来たんだったかしらと思い念のために聞くと、ヴォルフ様は頷く。


「もちろん」


すると、綺麗な女性の定員が私たちの前にやってきた。


「いらっしゃいませ。我が店を選んでいただき光栄でございますわ。ヴォルフ様と婚約者のクレア様。オーナーのドロシーですどうぞよろしく」


綺麗なお辞儀をする女性はむっちりとした魅惑的な体に黒い髪の毛を横に流している。

美しい顔をしており化粧がかなり濃いのが印象的だ。


「彼女に冬服をプレゼントしたいのだが」


無表情に言うヴォルフ様は少し怖いが、ドロシーは気にした様子もなく頷いた。



「畏まりました」


私たちは2階の特別室へと案内されソファーへと座る。

特別待遇に落ち着かずキョロキョロと部屋を見回す。

やはり飾られているのは豪華なドレスばかりだ。


「ここに私が着るような洋服ありますかね。豪華なドレスばかりで気後れするんですけど」


隣座るヴォルフ様に小声で話すと少しだけ眉を上げて周りを見た。


「リリアンヌがここなら間違いないと言っていたから大丈夫だろう」


「ドロシーさん魅力的で綺麗な方ですね」


ヴォルフ様は首をかしげて私を見た。


「そうか?感覚的にいけ好かない雰囲気が漂っているが」


「いけ好かないってなんですか?」


「犯罪者の匂いがする」


私に顔を寄せて囁いて言うヴォルフ様驚いて声が出そうになってしまった。


犯罪者の匂いってなんですか。

怖い。


笑みを浮かべて洋服をもって部屋に入ってきたドロシーさんをまともに見ることができない。


机に並べられていく洋服はどれも可愛くて清楚だ。

冬物のワンピースとコートを手に取ってみるが値札が付いていない。

これはかなりお高いのでは・・・と悩んでいるとヴォルフ様が笑みを浮かべて私を見る。


「どれも似合いそうだ。すべて貰おう」


「えっ!」


この中の数枚で十分だと思っていたのに、全部?

驚いているのは私だけで、ドロシーさんは微笑んで頭を下げた。


「ありがとうございます。こちらのコートもクレア様にお似合いになりそうですけれど」


「それも貰おう」


青い色は買わないと言っていたが、ドロシーさんが手に持っているのは青色のコートだ。

確かに可愛いけれど、ヴォルフ様は即答で買うことが決定してしまった。


「も、申し訳ないです。こんなに洋服を買ってもらうなんて」


慌てて言う私にヴォルフ様は不思議そうに首を傾げた。


「俺ができることをしているまでだ。気にすることはない」


さらりと言われてしまい納得する。

美形で、金払いも良くて、私に優しいなんてすばらしい婚約者だ。

こんな人が存在するなんて、生きていてよかった。

私は密かにヴォルフさまを拝んだ。


「もっと買ってもらえばいいのに。節度がある婚約者で羨ましいな」


ドロシーの後ろから顔をだした男の人はニコニコ笑って私を見た。


ヴォルフ様が睨みつけると、男の人はおどけた様に頭を下げた。


「ご来店ありがとうございます。オーナーのザールです。ドロシーと共同でやっている店ななんですよ。あ、ドロシーとは夫婦でも恋人でもないから安心してね」


そう言って私に握手を求めてきたザールの右手をヴォルフ様が叩いた。


「気安く婚約者に触らないでもらおう。何が安心してね、だ」


冷たく言うヴォルフ様にザールが肩をすくめる。


「もし、クレア様が僕の事を気に入ることもあるかもしれない、僕はフリーだと知っておこうと思いまして」


「永遠にそんな時はこない」


「まぁ、ヴォルフ様は素敵ですからね。こう見えて僕も女性にモテるんでよ」


ザールがまた私を見てウィンクをした。


ヴォルフ様ほどではないが、整った顔をしているような気がする。

もう、ヴォルフ様という規格外の人を見てしまっているので基準が解らなくなってしまっているが、私の住んでいた村に居たら女性が群がるだろうなというような容姿だ。

黒い髪に黒い瞳、愛想も良い。

なぜ、私に興味を持っているのか謎だが愛想笑いをしてごまかす。


「すべて屋敷へ届けておいてくれ」


ヴォルフ様はそう言って私の背を押し歩き出した。


「畏まりました」


頭を下げるドロシーと隣に立っているザールは私に手を振った。


「また会おうね」


外に出るとヴォルフ様が私に囁く。


「あの男も犯罪の匂いがするな。あまり近づくな」


「も、もちろんです」


少し胡散臭そうな人だなと思ったが、まさか二人とも犯罪臭がするとは驚きである。


「でも洋服は素敵でした」


私が言うとヴォルフ様も頷いた。


「センスは悪くないな」


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