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5 お嬢様が乱入してきました

「行ってらっしゃいませ」


執事のアンソニーさんと朝のお見送りをする。

私がこのお屋敷に来てから数日経っていた。


朝のお見送りと、帰りのお迎えを毎日行い、昼以外はヴォルフ様と共に食べる。

そんな日々を過ごして、ヴォルフ様にもだいぶ慣れてきた。

玄関ホールで黒い軍服に身を包んだヴォルフ様は深い青に近い灰色の髪の毛を三つ編みにして前に垂らしている。

美しさに惚れ惚れ見ていると、ヴォルフ様が近づいて私を抱きしめ私の頭に唇を落とした。


「行ってくる」


毎回、このヴォルフ様の行動だけは慣れずに抱きしめられるたびに心臓が爆発しそうになり健康に悪い気がする。


ヴォルフ様が仕事に行った後は特に私もすることがなく、読書をしたり刺繍をしたり過ごし、窓の外に見える森を見てぼーっとしていたりする。

こんな暮らしでいいのだろうかと不安になるがきっと結婚したらすぐに子供ができてお世話することになるから忙しくなるのだと思って一人で恥ずかしくて見悶えた。


「こんにちは!クレアちゃん、困ったことはない?」


リリアンヌさんが久しぶりに訪れてくれた。


「お久しぶりです」


「ちょっと気を使ってお邪魔するのを控えてたのよ!これ、流行りのお菓子一緒に食べましょう」


可愛らしくラッピングされた箱をアンソニーさんに渡してリリアンヌさんは微笑んだ。

相変わらず年齢不詳で可愛らしい方だ。


「それで?どう?仲良くやっている?」


リリアンヌさんのお土産のケーキを食べながら、興味深々という風に聞かれ私は照れ笑いをする。


「良くしていただいています」


「そうなのね!良かったわ。今日はコーディがヴォルフ様と一緒にここに帰ってくる予定だからそれまでお話していましょうね」


「はい、ところで今度ヴォルフ様と洋服を買いに行くことになったんですけど、二人で買い物とか慣れていないので一緒に来てくれませんか?」


「二人の邪魔をするなんてぇ、無理よ!ヴォルフ様に殺されるわ」


あんな美形と一緒に町に出るなど精神的に無理だ。

リリアンヌさんが居てくれれば心強いと思ってお願いしたが、断られてしまった。

ショックを受ける私にリリアンヌさんが顎に手を当てて言う。


「私の旦那もそうなんだけど、狼一族の血は嫉妬深くて独占欲が強いのよ!ヴォルフ様に誘われなければ行きたくもないわ!」


「そんなぁ、あんな美形な人と一緒に居るだけで私の心臓が持たない気がするんですぅ」


弱音を吐く私にリリアンヌさんは頷いてくれる。


「気持ちは理解できるけれど、これから夫婦としてやっていくんだもの慣れないと!」


リリアンヌさんの言葉に確かに慣れないといけないなと納得していると、客間のドアが乱暴に開いた。

狼かと思い身構えるが、立っていたのは金髪の髪の毛を見事にウェーブさせた綺麗な女性だった。

深い青い色のドレスに身を包み、蒼い大きな瞳で私を睨みつけるとヅカヅカと部屋へと入ってくる。


「あなたが、ヴォルフ様の婚約者?」


私を睨みつけながら威圧して言う女性にうなずいた。


「えぇ、そうですけれど」


私が答えるより早くリリアンヌさんが私を守るように私と女性の間に入った。


「呼ばれても居ないのに、ここに来るなんて非常識ですわね」


リリアンヌさんが女性を睨みつけながら言う。


「非常識はどちらかしら。ヴォルフ様を騙して婚約者になったのでしょう?」


女性が言っている意味が解らず首をかしげる。


「騙してとは?」


「とぼけるのもいい加減にしてくださいな。私がヴォルフ様と結婚しますのよ。だから貴女は出て行ってください!」


「はぁ?」


ヴォルフ様と結婚する?

この女性が?


ますます首をかしげると、リリアンヌさんが信じられないと言う風に首を振った。


「何度も言うけれど、ヴォルフ様は貴女とは結婚されないそうよ!」


リリアンヌさんの言葉に女性はにっこりと頬笑みを浮かべる。


「照れているんですわ。ヴォルフ様は恥ずかしがり屋ですから」


女性の言葉に首をかしげながらも、もしかしたらヴォルフ様とこの女性は付き合っているのではという疑問がわいてくる。

よく考えてみれば、ヴォルフ様とはまだ共に過ごしたのはほんの数日。

私は彼のことを知っていると言えない。

この女性はヴォルフ様のことを良く知っているようだ。

私の考えを察してかリリアンヌさんが顔色を変えて振り返った。


「違うわよ!この女は頭がおかしいだけだから!勝手に結婚するとか言っているだけだからぁ」


リリアンヌさんが叫ぶと女性は私たちをますます睨みつけた。


「可笑しいのはあなた達よ!勝手にヴォルフ様の家に居座って!出て行きなさい!目障りよ!」


言い切った女性に、後ろから冷たい声がかかった。


「出ていくのはお前だ!」


ヴォルフ様が部屋へと入ってきてリリアンヌさんの前に立った。


「ヴォルフ様!」


女性はうっとりとヴォルフ様を見つめて呟いている。


「何度も言うが、我が家に来るな。俺の前に現れるな。迷惑だ」


ヴォルフ様の背中しか見えないが、聞いたことがないほど冷たい声で言った。

女性はまったく気にする様子もなくヴォルフ様を見て微笑んでいる。


「酷いですわ。ヴォルフ様。お父様から結婚の申し込みをしてもらったのよ。断れるはずないもの」


自信をもって言う女性にヴォルフ様は鼻で笑った。


「宰相の娘だからか?権力で俺と結婚できると思っているのか?」


「そうですわ」


当たり前のように頷く女性にヴォルフ様は呆れて言葉が出ないようだ。

私の隣でリリアンヌさんが囁いた。


「あの女の人、この国の宰相娘なのよ。ヴォルフ様に一目ぼれして追っかけてきてこの町に来たの。あの女の父親がまぁ~娘に甘くてねぇ、ヴォルフ様と結婚しろって迫っているのよ」


「なるほど、ヴォルフ様はお断りできないのですね」


まさに権力に屈することができずの状況なのかしら。

と、いう事は本当のお邪魔虫は私で、宰相の娘が本気を出したら私を排除することなど簡単だろう。

むしろ一家滅亡するかもしれない。


絶望的な気分になっていると、ヴォルフ様が犬を追い払うように手の平を動かして女性を部屋から追い出そうとしている。


「バカバカしい。俺を権力で何とかできると思うな」


ヴォルフ様の言葉に女性はますます私を睨みつけた。


「絶対におかしいわ!あなた、ちっとも可愛くも美しくも無いじゃない。髪の毛も茶色で平凡な顔をして、ヴォルフ様が気に入るはずがないわ!」


女性が言う事はすべて本当の事なので何となく頷いてしまった。

確かに私は可愛くはない。

すると、ヴォルフ様が大げさに驚いて両手を広げて振り向いた。


「クレア!なぜ頷くのだ!」


「え?だって、その人より私は可愛くないのは事実ですから。実家も貧乏男爵で権力もありませんし」


遠い目をして言う私にヴォルフ様が怒ったように近づいてきた。


「クレア!俺から見たら世界で一番美しいと思うし、一番可愛いと思う。俺が愛しているのはクレアだけだ」


そう言いながら私をきつく抱きしめて頭に頬ずりをしてくる。


「く、苦しいです」


感激するような言葉だが、強い力で抱きしめられて痛みのほうが勝ってしまう。

顔をしかめる私を見てヴォルフ様が慌てて拘束の手を緩めた。


「悪かった。しかし、わかってほしい。俺が生涯伴にと願っているのはクレアだけなのだ。クレアも結婚を了承してくれたではないか」


懇願するヴォルフ様に私は頷いた。


「確かに、私も結婚はできればしたいですけど・・・身分とか合わないような・・・」


口ごもる私にヴォルフ様はまたきつく私を抱きしめた。


「身分などそんなくだらないことは全く関係ない!こんな女のいう事など気にする必要はない!」


「く、苦しいです」


ヴォルフ様に抱きしめられている私を見ていた女性が、顔を真っ赤にして鬼のような形相で私たちを指さした。


「あ、貴女!いい加減ヴォルフ様から離れなさいよぉ!」


「離れるもなにも・・・拘束力が凄くて・・く、苦しいです」


私もできることならヴォルフ様に放してほしいが身動きが全く取れない。

もぞもぞ動いている私を見て、女性はますます怒り出してしまった。


「絶対に許しませんわよ!ヴォルフ様と結婚するのはこのジュリア・アルデンヌよ!覚えていなさい!」


私を指さして、ジュリアは走って出て行ってしまった。


「一体何だったんですか・・・」


抱きしめられながら呟くと、ヴォルフ様はため息を付いた。


「頭の可笑しい女だ。数年前から俺の前をウロウロしていて目障りなのだ。いつか狩ってやろう」


ニヤリと笑うヴォルフ様は野生動物の雰囲気を一瞬感じて体が硬直してしまった。

これが狼一族の血という奴だろうか。

狼怖いです。


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