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35 永遠の愛を誓う

「クレアちゃん綺麗よー」


リリアンヌさんがウエディングドレス姿の私を見て涙を流して褒めてくれる。


「ありがとうございます」


照れくさくて、はにかんで笑う。

今日は私とヴォルフ様の結婚式だ。

王都の豪華な教会で行いたいと言うヴォルフ様とリリアンヌさんだったが、私はヴォルフ様の領地でささやかな結婚式をしたいと希望した。

これから先この地で生きていくのだから。

王都の王族たちも結婚式を挙げた同じ場所でなど恐れ多くてできるはずもない。

私の家族よりも感動をしているリリアンヌさんに母も弟も一歩引いて様子を見ている。


「豪華なドレスを作ってもらって良かったわね」


母いつもと変わらず、扇子を仰ぎながらドレス姿の私を上から下まで見て褒めてくれた。

リリアンヌさんが居るから言わないが、高いドレスで良かったわねと聞こえてくるような気がする。

ヴォルフ様とリリアンヌさんが必死に探したウエディングドレスはとても豪華で私をいつもより綺麗に見せてくれる魔法の様なドレスだった。


「狼陛下と上手くやっているようで安心したよ」


弟のヘンリーもブーケ用の花をプレゼントしてくれ祝ってくれた。

ヘンリーは部屋の中や外を落ち着きなく見て回っている。


「ねぇ、ヘンリー。狼は来ていないから安心して」


朝から何度も言ってあげているが、ヘンリーは信用していないらしく窓を開けてまで外を見ている。


「狼陛下が狼を連れていないことなんてある?」


いかなる時も狼を連れて歩くという噂をヘンリーは信じているようで落ち着いて座っていない。

私が怪我をしたのも狼のせいだと思っているようで、彼の狼に対する恐怖心は最高レベルまで上がっているようだ。


「今日はヴォルフ様にお願いしたから狼は居ないわよ」


何度も同じことを言い聞かせているが私の言う事を彼は信用していない。


「クレアちゃん以上に狼恐怖症なのね・・・可哀想」


私のドレス姿を見て泣いていたリリアンヌさんが涙を拭きながらヘンリーを見ている。


「すいません、落ち着きがない弟で」


「いいのよ。可愛いもの。そろそろお式が始まるわね」


リリアンヌさんが言うと部屋の隅で存在感がない父親が緊張しながら立ち上がって私の隣にきた。

ヴァージンロードをともに歩くのだが、私より緊張している様子に大丈夫だろうかと心配になる。


教会のドアが開き、父と私はヴァージンロードを歩く。

拍手をして祝福してくれる招待客の中にアーモットさん家族もいる。

ギレン君も元気になり拍手をして私を祝ってくれている。

その横座っているのは、大ババ様とドロシーさんの姿もあった。

呼んでもいないのに勝手に参加しているのだ。

追い返そうとするヴォルフ様を宥めて参加してもらった。

どういう理由であれお祝いしてくれるのは嬉しいものだ。

黒い軍服を着たヴォルフ様はいつもと変わりなく微笑んで私が到着するのを待っていた。

ゆっくりとヴォルフ様に近づき、父親からヴォルフ様の腕に手を乗せた。


「世界一綺麗だ」


本気でそう思って言ってくれるヴォルフ様の言葉が恥ずかしい。

決して可愛くも美人でもない私のことをヴォルフ様は愛してくれている。

狼が嫌いな私でもいいと言ってくれるヴォルフ様の事を私も大好きだ。


「ヴォルフ様も世界一素敵です」


少し豪華な黒い軍服姿のヴォルフ様を見上げる。

私を見つめていた灰色の瞳が近づいてきてキスをされた。


「誓のキスはまだですよ」


私たちの前に居た神父様が咳払いをしつつ囁いてくる。


「ヴォルフ様。ちゃんとやってください」

「すまない」


ちっとも反省していないヴォルフ様は私にもう一度キスをする。


「ヴォルフ様」


私に睨まれたヴォルフ様は嬉しそうに微笑んだ。


「すまないクレア。俺は今最高に幸せだ。結婚してくれてありがとう。狼が嫌いなお前が俺を受け入れてくれることが嬉しい」


「狼はまだ慣れませんけれど。それも含めて愛していますヴォルフ様」


私が言うと、ヴォルフ様は輝くような笑みを浮かべた。

私たちが微笑み合っていると、ヴォルフ様の後ろに座っていたヘンリー突然叫び出した。


「狼が居る!狼の尻尾が見えた!」


椅子の上に立ち上がって、あたりを見回しているヘンリーを母が宥めているが座ろうとしない。

慌ててヴォルフ様の後ろを見るが、尻尾は生えていなかった。

もしかして本当に狼が居るのかと、不安になるがヴォルフ様は私から目を逸らしている。


「すまない・・・つい喜びが抑えられずに・・・」


「え?ヴォルフ様の尻尾ですか・・・」


「一瞬だけだ・・・」


他の招待客は見えていないようで本当に一瞬だったのだろう。

私でさえ見えていなかったから・・・。

それをヘンリーは見逃さなかったのか。


「ヘンリー、落ち着いて。狼は居ないわよ」

「いや、絶対に居た!僕は見たんだよ!」


椅子の上に乗って狼に恐怖しているヘンリーを宥めることが難しく父親が別室へとつれていった。


「可哀想・・・ヘンリー君。昔のトラウマが酷いのね・・」


父親に連れられて去っていくヘンリーを見てリリアンヌさんが言った。

コーディさんも憐みの目を向けている。


「子供の見ている前で残酷なことをしてはいけないってことだね」


「子供以外でも考えてほしいわよ」


リリアンヌさんとコーディさんの会話を聞きながら、式は順調に進んでいった。

ヴォルフ様はヘンリーに申し訳ないことをしたと落ち込んでいて少し可哀想だった。



外に出るとみんなが拍手で迎えてくれた。


左手の薬指の指輪はブルーダイヤモンドが散りばめられているシンプルなデザインだ。

青い色はあの女のドレスお思い出すと言ったヴォルフ様だがやはり、私としてはヴォルフ様の紙の色に近い石が良かった。

それを言うとヴォルフ様は納得してくれたのだ。

ヴォルフ様と一緒に選んだ指輪の裏には狼の紋章が彫ってある。

常に見えるわけではないので了承したがその時のヴォルフ様はとてもうれしそうで了承してよかったと思ったものだ。


「おめでとうございます。ヴォルフ様、クレアさん」


アーモットさんが、ニコニコと笑いながらお祝いの言葉を言ってくれた。


後ろには、元気になったギレン君とマイリーさんと、リスちゃんの姿。


「ありがとうございます」


「お二人には何とお礼を言っていいか・・・本当にありがとうございました」


アーモットさんがこれでもかというほど頭を下げているので慌ててコーディさんが間に入って止めた。

そんなアーモットさんを見てギレン君は笑ってヴォルフ様に頭を下げた。


「ありがとうございました。ヴォルフ様達のおかげで僕は無罪になりました」


「良かったです」


私が頷くと、ギレン君は声を潜めた。


「それにしても魔女なんて本当に居るんですね。僕が可笑しくなったのはそのせいだって」


「国王から極秘にと言われましたが、私も信じられませんわ。でも妙な薬を入れられていなくて本当に良かったです」


マイリーさんもリスちゃんを腕に抱きながら言うが、あなた達の後ろにその元凶が居るんですよと大声で言いたい。

大ババ様とドロシーさんがギレン君の後ろに立って様子を見ている。


「体調は大丈夫なんですか?」


コーディさんが聞くと、ギレン君は元気にうなずいた。


「はい。お陰様で。あの時頭がボーっとして自分でも何をしているかよくわからなかったんです。お手伝さんにも怪我をさせてしまって・・・。リスも酷いことをしてしまいました」


話しているうちにどんどん落ち込んでいくギレン君にマイリーさんが背中を撫でた。


「大丈夫よ。みんな理解してくれたわ」


「憎いのは魔女ですよ。本人に会ったら文句を言いたいですね」


「でもドロシーさんは悪い人には見えなかったわ」


怒りだしたアーモットさんにマイリーさんがいいながら後ろを向いた。

ドロシーさんを見て動きが止まる。


「あ・・・ドロシーさん?!」


マイリーさんの驚きにアーモットさんもギレン君も振り向いた。


「ドロシー!」


怒り心頭のアーモットさんが顔を真っ赤にして怒鳴った。

名前を呼ばれたドロシーさんは慌てて逃げようとするが大ババ様が襟首を捕まえて引きずってくる。


「よくもギレンに酷いことをしたな!」


「このバカなドロシーに直接謝らせようと思っての。ほれ、ドロシーきちんと謝りなさい」


アーモットさん一家の前に引きずり出されたドロシーさんはそのまま地面に座って頭を下げた。


「ごめんなさい。こんなことになるとは思わなかったんです。私は皆を幸せにしたかったんです・・・」


「お前は、息子を人殺しにするところだったんだぞ!謝って済むことか!」


「うっ、お申し訳ございませんでした。まさか人の心にそんな作用をするとは思わなかったんですぅ」


アーモットさんに怒鳴られてとうとうドロシーさんは泣き出してしまった。


「父さん。もういいよ。僕の心が弱かったんだよ」


今にもドロシーさんを殴りそうな勢いのアーモットさんの腕を掴んでギレン君が言った。


「しかし・・」


「父さん。当事者だからわかるんだ。強くなりたいという思いがあったのは事実だし。どんな手段を使ってもって・・・心の奥にはあったのかもしれない。実際、あのチョコを食べても何もなかった人もいるじゃないか」


そう言ってギレン君はマイリーさんとリスちゃんを見た。

彼女たちはチョコを食べても何も起こらなかった人たちだ。


「僕の心が弱かったんだよ・・・ドロシーさんだけを責められないよ」


「ギレン・・・。お前がそういうのなら仕方ない」


腕を降ろしてアーモットさんはギレン君を抱きしめた。


「そうね。この一件のおかげで一家の絆が深くなったような不思議な気がするわね」


マイリーさんも涙をぬぐいながらギレン君を抱きしめる。

感動的な一家の様子をじっと見ていたが、ヴォルフ様は冷たい瞳でドロシーさんとアーモット一家を見渡した。


「お前たち、話し合いをするなら違う所に行ってくれないか。今は俺と、クレアの大事な結婚式の最中なんだが」


アーモットさんよりも怒っているヴォルフ様にドロシーさんが震えて地面に座ったまま頭を下げた。


「ごめんなさい。またクレアちゃんに迷惑をかけてしまって・・・。これはもしかしてある意味、運命?」


以前と同じようなことを言うドロシーさんに今度こそヴォルフ様の血管の切れる音が聞こえる気がした。

恐る恐る横に立っているヴォルフ様を見ると音が聞こえるほど奥歯を噛みしめてドロシーさんを睨みつけている。


「魔女。お前を殺してやろう。生かしておけばまた迷惑をかけるだろうからな」


腰の剣に手を当てて低く言うヴォルフ様にコーディさんが慌てて前に出て両手を広げた。


「待ってよ。今日は結婚式だよ!なんで血を見るようなことになっているの。またクレアちゃんにトラウマを植え付けてどうするの」


「そうよ。またトラウマで今度は人間の姿でも無理ってなったらどうするの?」


リリアンヌさんにも言われてヴォルフ様は剣から手を放した。


「ごめんなさいってば。本当に悪気は無いの!」


ドロシーさんもまた泣きながらヴォルフ様に頭を下げている。


「狼男殿」


様子を見ていた大ババ様が一歩前に出た。


「狼男ではない!狼将軍と呼べ!」


ギロリと睨むヴォルフ様に怯むことなく大ババ様は続ける。


「迷惑をかけた償いとして、ワシら魔女が全面的にお前さん達に協力することを誓おう」


ヴォルフ様は怒鳴ろうとしていた口をつぐんで、一つ息を吐いた。

先ほどまで怒っていたのに、心が揺らいだのが私にもわかる。


「狼一族に従うと言うのか」


「狼将軍とクレア殿が生きている間、魔女は従うと誓いましょう」


「・・・解った。ならばその女の命は奪わないと俺も誓おう」


ヴォルフ様が言うと、大ババ様とドロシーさんは頭を下げた。

大ババ様は私の左手を手に取って左手薬指の新しい指輪に手をかざして小さく呪文のようなものを唱えた。

指輪が青く光ったかと同時に弾けるように一瞬痛んだ。


「いたっ」


「クレア。大丈夫か」


ヴォルフ様が慌てて私の左手を手に取ってまじまじと見る。


「大丈夫です。別に怪我はしていないです」


血が出ているわけでもないのに、ヴォルフ様はまだじっと見ている。


「お嬢ちゃんが命の危機になった時にきっと役立つ魔法を掛けさせていただきましたよ」


大ババ様がニヤリと笑って言う。


「命の危機って・・・私そんなことは今後ありませんから・・」


引きつった笑みを浮かべる私に、大ババ様はクククッと意地悪く笑う。

まさしく魔女だ。


「今後、沢山あるだろうて。頑張りなさいよ。ではこれにて失礼いたします。アーモット殿にはまた今度、謝罪の品をご用意させていただきます」


アーモットさんにも頭を下げて、大ババ様はドロシーさんを引っ張って帰っていった。

左手の結婚指輪をまじまじと見る。

魔法がかかっているようには思えない。


「すまなかった。結婚式が台無しだ」


後ろから抱きしめられてヴォルフ様は少し落ち込んでいるようだ。

私は首を振った。


「逆に、いい思い出になりました。アーモットさん達も気になっていたし。ギレン君も元気になって良かったです。でも、魔女の力って何でしょうね」


「さぁな。俺に歯向かうなら殺すまでだ」


物騒な言葉にコーディさんが顔をしかめた。


「やめてよ。魔女達は何百年も生きているんだから、あんまりちょっかいを出さない方がいいよ。それより、魔女の協力を得たことは大きいんじゃない?」


アーモットさんも頷いている。


「確かに、王にも従わない一族といわれているようですよ」


「え、それは凄いですよね。そんな人たちが狼一族に協力してくれるなんて」


私が言うと、ヴォルフ様は少し考えて頷いた。


「それは面白いな。どう使ってやろうか」


「怖い顔をしていますよ」


私が言うと、ヴォルフ様は微笑んだ。


「すまなかった。お前の為に愛を誓う日だと言うのに」


「いつも言ってもらっているからいいですけれど」


小さく言うと、ヴォルフ様は満面の笑みをうかべる。


「何度でも言おう。愛している」


ヴォルフ様の長い口づけに、周りからはやし立てる声が聞こえる。

弟がまだ狼を探している声を聴きながら口づけの合間にヴォルフ様に囁いた。


「私も愛しています」


それから何度も魔女たちの力を借りることになるとはその時の私達は知らなかった。

何があっても私はやはり狼は苦手だったのは言っておこうと思う。

トラウマはそう簡単に治らなかったのだ。



お読みいただきありがとうございました。

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