陽キャの『アイツ』
俺、神原真司は高一の春休み学年のマドンナ四条奏との交際が始まった。2年生の始業式の帰り、担当編集からの電話のせいで、俺がラノベ作家である『ジバン先生』だとバレてしまった。
第二話
【陽キャの『アイツ』】
『神原くんってジバン先生なの?』
『…………………えっ?』
嘘、バレてる俺の正体。
明日言おうと決心してたのに、こんなに早く言う羽目になるなんて。
あれ?でもなんで四条さんは『ジバン先生』を知っているのだろう。
「そ、そうだよ。聞いたんだ、僕の正体。それよりさ……………」
四条さんの声が遮った。
「本当だったんだ!!今日の帰りにね上条くんから聞いたんだ」
電話越しでも分かるほどのテンションの高さだった。
それは、恋人の新たな一面が知れたときの喜びって感じではなかった。
例えるなら、自分が読んでいるラノベの原作者さんの正体が分かった時のようなヲタクの驚き方だった。
まさか…………四条さんってヲタク!?
「あのね、あのね驚かないで聞いてほしいんだけど…………」
たっぷりと深呼吸をする。その音が俺の耳にまで届いていた。
「私、隠れヲタクなんだ!!!」
「……………」
「引いちゃったかな、私のこと?」
声のトーンを落とし、少し寂しげに言った。
バカだな、四条さんは。
俺が引く訳ないじゃないか。なんてったて俺はラノベ作家だぜ。
「四条さんは、今日こう言ってくれたよね。『何があっても、引かないよー』と。それが俺の答えだよ」
「本当に?」
「俺はラノベ作家なんだよ。ヲタクレベルでいったら俺の方が上だよ」
「ふふ、そうだね。それじゃあさ、こんなお願い事していい?」
「いいよ、俺が叶えてみせるよ」
「じゃ、じゃ言うね。まずサインが欲しい。それから原作本も見て見たいし、没になった話とか、キャラクター原案や、仕事部屋、アニメ化行う際に貰える白箱とか、あとねー………………」
『驚かないでね』って言われたけど、これは無理だ。正直めちゃくちゃ驚いてる。
引いてはないけどビックリしてる。こんなに知ってたんだ。
「わ、分かったよ。本当にいっぱい知ってるんだね」
「でしょー。だから今度家に遊びにいってもいいかな?」
恐る恐る彼女は聞いた。
「……………」
「図々しかったかな?」
しまった。また、黙ってしまい気を使わせてしまった。
早くフォローしなきゃ。こんな時なんて言えばいいんだ?
分からん、分かんねーよ。誰か教えてくれ!!
好きな子が家に行きたいって言ってくれた時の対処法をよ!!
違うな、焦らなくていいんだ。思ったことを素直に言えばいいんだ。
俺が彼女に伝えたいことは……。
「うれしい。是非、来てくれ我が家へ、もとい俺の仕事部屋へ」
「うん!!」
今日一番の元気のいい、返事だった。
それからいろんな話をした。
新しいクラスの事や前のクラスの事。
中学時代の事や将来についてなど。楽しい時間は一瞬で過ぎ去っていった。
俺は、この日の事を決して忘れないだろう。
彼女が俺の正体を認めてくれた事、彼女がヲタクだっで事を知れたこと。
翌日の朝、廊下を歩いていると好奇な目を向けられた。
今まで俺の存在を認めようしてなかった人達が今日は、はっきりと神原真司という人間の存在を認めていた。
「ほら、あれじゃない?四条さんの彼氏」
「えっ?あの冴えない男が」
「陰キャじゃん。もしかして、四条さんって見る目ない?」
似たような言葉があちこちで飛び交っていた。
でも、何よりも許せなく悔しい事があった。
それは、俺が原因で四条さんがバカにされた事だ。
俺自身がバカにされるのは、慣れているし、なんとも思わなかった。
けど、四条さんがバカにされているのは、本当に腹ただしく、悔しかった。
教室へ入るともっと状況は酷かった。
「なあ、四条本当に神原と付き合っているのか」
「なんでだよ、なんであいつなんだよ」
「奏ちゃん絶対やめといた方がいいよ。彼は、だってその陰キャじゃん」
女子たちは、四条さんを囲むようにワラワラと集まっていた。
一方男子は、教室の端の方でグチグチと言っていた。
俺が教室に入り、自分の席へ向かっていると空気は凍った。
誰一人として、喋らなかった。
ただ、見ていたんだ。俺のことを。
すると、一人の男子生徒が話しかけて来た。
「な、なぁお前四条さんと付き合ってるってマジ?」
初めて会ったクラスメイトとする会話かねー。
内心イラッとしたが表面上は、無難にやり過ごした。
「本当だけど」
「チッ。身の程弁えろよ陰キャが」
彼はボソッと言ったが、俺にはしっかりと聞こえていた。
なんだコイツ、初対面でこんなクソみたいなことよく言えるな。こいつ絶対クズだろ。
すると、そいつの取り巻きのリーダーが俺の目の前にやってきた。
こいつだ。俺が言っている陽キャの『アイツ』とは。
そして、俺の存在を認めさせる下克上相手だ。
名前は、香取 春樹。
スクールカースト第2位に位置する、『キング・オブ・陽キャ』の一人だ。でも性格は、ゴミだ。
陰キャやヲタクをバカにしたり、下に見たり、自分の承認欲求を満たす為に平気で迷惑になる事をするやつだ。だが、独特のカリスマ性があるため慕っている奴もいる。
やっぱりクソとクソは引かれ合うんだな。まるでス○ンド使いだな。
そんなことはさておき、珍しく一時的に俺の存在を認めたらしい。
「おい、陰キャお前なんで奏と付き合ってんの?自分の立場分かってんのか?あ?」
すごい剣幕で睨みつけてきた。
だが、俺は『アイツ』だけには、強い態度で話す事ができる。
俺の下克上相手だからだ。
「さっきから、そう言ってるだろ。何故分からないんだ?」
すると、当然キレる。
胸ぐらを掴み彼は言った。
「おい、お前何タメ語使ってんの?俺とお前じゃな…………」
一人の声が遮った。
「いい加減にして、私の彼氏をバカにしないで」
彼女は柄にもなく、立ち上がり、大きな声で言った。
「あなた達は、知らないかも知れないけど私は彼の良いところをいっぱい知っている。威勢を張るのは、あなたの山だけにして、私をそして彼をあなたの承認欲求を満たすために巻き込まないで」
彼女のこの一声で教室の騒動は収まり、無事授業が始まった。
けど、『アイツ』は認めないだろう。これからも、この先も、俺の存在を。
何故『アイツ』は、俺を目の敵にするんだろ?
そんな事を考えていたが、一つの感情が消えなかった。
それは、『惨めさ』だ。
彼女に収めさせてしまったのだ。
あの場を彼氏である俺が収めなければならないのに。
ただひたすら申し訳なかった。俺の不甲斐なさで彼女がバカにされたのに、彼女に助けて貰っただなんて。
俺はこの日決意した。変わる事を。
今まで容姿なんてあまり気にしなかったが気にするようにした。
今まで以上に美意識に気をつけるようにした。髪も切った。
これでいける。
「お兄がカッコよくなってる」
「あら、しんちゃんカッコよくなって」
「もうちょっと、背筋を伸ばせ。この俺のように」
翌日の朝
今日もまた廊下を歩いていると目を向けられた。
でも、それは好奇の目線ではなかった。
「誰?あのイケメン、あんな子うちの高校にいた?」
「転校生じゃない?知らんけど」
順調、順調。
どうやら、俺は容姿に気をつければ世間一般的にはイケメンという分類らしい。
これは、昨日美容室のお兄さんに教えてもらった。
もうこれ以上四条さに迷惑をかけないために。四条さんがバカにされないように。
俺は、教室の扉に手をかけ開けた。
今日も俺が入った瞬間教室が凍った。だが、気にならなかった。
俺は『アイツ』の目の前に行った。
そして、言った。
「これで容姿に関しては、四条さんに相応しい男になっただろ。俺はお前ら上位カーストに下克上してやる!」
俺の正体に気づいた教室が震撼した。
どうだったでしょか?面白かったでしょうか?
今回のお話は陽キャの『アイツ』について触れました。作中で『スクールカースト二位』と書きましたので一位はちゃんといます。
一位に登場していただくのは、まだもうちょっと先です。
前回一話でブックマーク?を押して頂いた方ありがとうございました!!とても嬉しいです。
また次回も見てくれると嬉しいです。
ブックマーク?を押してくれると励みになりますので、よかったら押してください!!
コメントもお待ちしてます。