6.
サクリは試験を受けて合格してようやく一人前とされる。
サクリの施設で勉強中の私達はまだまだ半人前である。
一人前となったサクリは半人前の天使様─チャイと呼ばれている─に仕えることになっている。仕え方はさらにお偉い天使様が決めるみたいだ。
詳しいことは知らない。
試験は何をするのかも知らされていない。
私は知らないことばかりだ。
先輩達が試験を行っている間、十期生は部屋に幽閉され、講堂の外へと出ることは許されなかった。その間にシスターは今後の予定などについて説明していった。
天使様の石像に見守られながら時間が過ぎていく。
そして昼過ぎに解放される……
はずだった。
「コガネ、サヤ、ナルミ。あの時の罰として、掃除をして貰います」
私達三人は大人達に無断で姿を眩ませた。授業を全て休み遊び惚けた罰として三人は掃除をする羽目となったのだ。
異様な光景が目の前に広がっていく。
何故かカラフルなインクの跡。銀色、黄色、青色、紫色、緑色。五色のインクが壁や床についている。
雑巾を水につけて強く絞ってインクの上をなぞるように拭く。インクは簡単に落ちていった。だが、インクで汚れた箇所は施設中にあり、今落とした汚れはほんの一部分でしかなかった。
「くっ。何故、こんなことを僕がやらなければならないんだ。このエリートの僕が」
「全く……。口だけ動かしてないで手を動かして欲しいですわ」
三人で汚れを落としていくが、全てを落とす気がしてこない。
夕焼け空が施設を橙色に変える。
いつの間にか食事の時間となっていた。
手を洗う。椅子に座る。
「天使様に感謝を込めて──いただきます」
今日もまたありがたい食べ物を体の中に入れた。
これでエネルギー補給もできたことだ。今なら二倍速の速さで汚れを落とせる気がする。
再び濡れた雑巾を持ってインクの前に立つ。
今度はフキや大人達も加わって掃除を行っていく。
みんなで協力して何とかインクを全て落とし終えた。
「ようやく終わったぁ。汚れ全部を落とせる気がしなかったけど、みんなで頑張れば落とせるもんなんだね」
「これもサヤが頑張ったお陰だと思うよ」
「自意識過剰だね。そんな女はモテないよ」
「コガネには言われたくないんだけど」
掃除の後は風呂の時間だ。
温かいお湯の中に浸かる。掃除で疲れた体が癒えていく。
「ナルミちゃん。今日は疲れたね」
今まで開いていたサヤとの距離がいつの間にか縮まっていることに気づいた。
きっと四人の秘密が距離を近づけさせたのだろう。
お湯が温かいお陰なのか体が芯から温まっている。その温かさがほんわかな気持ちにさせていく。
気さくに「うん、そうだね」と返し、肩をお湯の下へと隠した。
「やあ、ナルミにサヤ。貴重な風呂の時間を楽しもうじゃないか」
爽やかに風呂へと入っていく先輩。
そのカッコ良さに目を背けてしまうが眼は向けずにはいられなかった。
「ミアイちゃんも忘れちゃやーよ」
二人の先輩も風呂に浸かっていく。
四人で言葉を交わせていく。
九期生ももう卒業するようだ。
試験内容については秘密ということで聞くことはできなかったが、それ以外の懐かし話はいくつも聞くことができた。
数日後──
先輩達は卒業をした。
不開の門が開く。
一つだけ例外を除けば施設の唯一の出入口。
その向こう側へと進んでいく先輩達。私達は手を振ることしかできなかった。
ハル。
ミアイ。
ゼンジ。
シッポウ。
一人を除いて先輩達はみなこの施設から卒業したのであった。
この施設にいるサクリは五名のみとなった。
今日からはこの五人で……。
そう思ったのは束の間。
「今日は大切な話があります」
先輩達を見送った後、私達は講堂へといた。
天使様の像の下、マザーが言う。
すぐに五人の子どもがやってきた。
「今日から五人のサクリがこの施設に住むことになります。新しい家族です。みなさん仲良くしましょうね」
先輩達九期生が抜けたのと同時に後輩達十一期生が入ってきた。
表情のない石像が優しく微笑みみなを包み込んでいく。
青っぽい淡い光に照らされていく。
「さあ、お祈りをします。これからはこれを毎朝やって貰います。先輩達のを見て覚えなさい」
手を組んでゆっくりと目を瞑る。
講堂の中で祈りがシンクロしていく。
全ては天使様のお陰──
私は天使様に全てを捧げる──
【突然入ってきた十一期生。施設への謎を深めるとある事実】




