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25.

 ツリーハウスで明かされる正体。

 グランバトが人間に化けた悪魔であった。


「グランバト…………。どういうことだ?」

 ガブリエルは驚きを隠せず口をあんぐりにさせた。そこから赤い血反吐がこぼれた。

「そのままの通りでございます。(わたくし)は悪魔なのですよ。昔に大量の天使や人間を殺戮(さつりく)しその血を得ることで「DNA」を体に入れてきたのです。それにより人間に化けたり知能を得ました」

 人間に化けた悪魔がいる。

 それが本当のことで。

 そしてそれがグランバトのことだったなんて──。


「殺戮を繰り返す中で手に入れた特殊能力。その能力は生まれて死ぬまでの間、"過去と未来を行き来できる"というものでした。ただし、未来や過去は絶対に変えることはできません。抗おうとしてもそれ自体が歴史に組み込まれてしまっており、抗おうとしたことが最初から定められているのです。我々はどう足掻(あが)こうとも、過去や未来は変えることができないのです」


 過去に戻ったり未来に行ったりできる。

 けど、運命(さだめ)の中で動いていく。

 本当は自らの意志で動いているはずなのに、その行為自体が元から定められているような。初めから過去も未来も全てが運命に操られているように。


「マサカミライノワタシ……。ミライヤカコニアラガウノハヤメタノカ」

()めましたとも。馬鹿馬鹿しくなりましてね」

「ワタシハ、オレハ、オノレハカナラズヤミライヲカエナケレバァ」


 瞳に映る悪魔はどこか苦しそうに見える。

 ずっと恐怖の化身のように見えていた。けど、目の前で深い傷をつけられ(もだ)えている悪魔はどこか苦しそうだった。


「過去や未来を変えたら本当に幸せになれるの?」


 思わずこぼれた言葉が穏やかな風に乗って飛んでいく。

 木々が優しく揺れていく。


「シアワセ? ワタシハシアワセニ……」

 はっと我に返る。なぜ口走ってしまったのだろうか。少し恥ずかしさとどうしようもないが混ざった気持ちになっていく。

「シアワセトハナンダ……」

 視線が私に集まっていく。

 幸せとは何か? に答えざるをえない状況になっていく。

 私にも分からない。だが、仕方なく口を動かした。無意識的に、何となくで場を取り(つくろ)うとしていた。

「楽しいとか嬉しいとか、ハッピーみたいな。みんなで一緒に笑えるようなことだと思うよ」

 周りが一斉に笑いだした。

 あまりにも頓珍漢(とんちんかん)な回答。思い返せば返すほど頬が赤らめていく。


「共に笑い合い、生きてて良かったと思えます。きっと過去や未来に囚われていた自分なら笑うなんてことできなかったと思います」


 和やかなほんわかオーラが広がっている。

 倒れているメフィストフェレスとガブリエルを除いてみんなが笑みを(こぼ)していた。


「クダラナイ。コンナクダラナイコトデワタシノマナトシテノシメイガ……」

「もう使命に囚われる必要はないのですよ。貴方はもう自由に生きていいんです」

「ジユウニ…………」


 コガネが肘でツンツンと体に当ててきた。そして、意地悪なことを言い放つ。

「もう幸せかなんかなんて分かる訳ないじゃん! 幸せと思ったなら幸せ。もうそれでいいじゃん」

 (いじ)られていくのに反発してそんなことを言い切った。もちろん、その言葉は頓珍漢だ。


「幸せとは何かは(わたくし)にも分かりません。ですが、必ず幸せは見つかりますよ。未来の自分が言うんですから──」


 悪魔が少し笑ったように見えた。

 気持ち良い風が(なび)かせる。

 木々を、気持ちを靡かせる。


「未来や過去は変えられなくても、自分自身はいつでも変えられるのです。もし自分を変えたいと思ったのならば二年前のここへと飛びなさい」


 悪魔がふっと消えた。

 ルシファーもまたここから去ろうとしていた。


「待て。グランバトが悪魔と知ったからにはここで消さなければいけないだろ」

「見逃す。今日のことは全てなかったことにする。グランバトにはお世話になったからな。彼がいなければ悪魔が来たことを知る由もなく、相当な被害も被っていた。それを考えれば当然の判断だと私は思う」

 どこか不機嫌そうな表情。

 それでもルシファーはガブリエルを無理やり背負(しょ)う。

「それにここで退()いた方が得策だろう。重症の仲間を守るため戦線離脱した。そう思えば納得せざるをえないだろう。それに、このことはサクリにも聖徒会にもグランバトにも誰のためにもならない。秘密にするのは当然の処置だろう」

「ちっ。分かったよ。アンタに(めい)じて()(つぶ)っといてやんよ」


 天使様がどこかへと去っていった。

 残された私達は胸を下ろしていった。


(わたくし)は先に施設(いえ)へと戻っておきます。貴方方のことは嘘で何とか誤魔化(ごまか)しますのでご安心下さい」


 グランバトが施設へと帰った。

 あの人もまた秘密の経路を知っているようだった。だが、大人にはあの道を通るのは厳しくないか、と脳裏を横切った。


 慌ただしい時間はすぐに過ぎた。

 いつの間にか夜になっていた。

 それでも私達はツリーハウスにいた。


 星々の輝く夜空の下でツリーハウスでゆったりと(たのしむ)四人。

 ナルミ。コガネ。サヤ。フキ。

 この四人で夜空の星を眺めていた。

 綺麗だ──

 秘密のツリーハウスから見る星々は何とも言えない程に綺麗だった。四人で共有する夜空は感想も言えないほど(きら)めいていた。

【ツリーハウスで見る美しき星の数々。それは一生残る人生の宝物】

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