23.
僅か数日の施設の時間。
残りの楽しい時間のはずなのにフキはどこか虚しそうだった。
「ねぇ、私達ってこの施設が最後になるからさ、十期生のみんなで秘密基地に行きたいのだけど行かない?」
顔色を窺っていても、もう卒業の日までずっとこの調子な気がした。だからこそ、もう言うしかないと肝に決めた。
「考えとくよ」悲しいトーンの言葉が落ちる。
あの日からフキもサヤもおかしくなった。
フキは全てを失ったかのような態度を、サヤは強がってるけど悲しい感情が見え隠れしている。
「フキさん、お二人でお話をしたいのですがよろしいでしょうか」
グランバトがフキと二人だけになる。
話終えたフキはどこか吹っ切れていたような気がした。
思わず「どうしたの?」と聞いてしまった。
「吹っ切れたんだよ。……誰も知りえない現実を知ってな」
執事としての最後の授業。その授業を最後に笑顔で終える。
グランバトは何と言ったのだろうか。
気になる。
「なあ、秘密基地の件。俺も行くよ。最後だしな」
絶望を何かで埋め合わせた。継ぎ接ぎの心じゃその絶望は隠せていない。貰い泣きみたいに、どこか虚しくなってくる自分がいる。
「秘密基地に行くのですか……。行くのであれば心して行きなさい。貴女方とメフィストフェレスとの因縁に終わりをつける時になりますから」
どういうことだろうか。
グランバトは私達ですら知りえない遥か先を見ているような気がした。
「ねぇ、秘密基地に行かない?」
「まあ、行ってあげなくもないかな」
「サヤ、すごく楽しみですわ。はやくいきましょう」
コガネもサヤも行くのに賛同した。
残りはクルマミチだけだ。しかし、彼は秘密基地のことを知らない。だが、彼だけ仲間はずれにしていいものか。
悩んだ挙句、誘うことにした。
しかし、クルマミチはすすり笑いをした。
「……知らなかった。ようやく腑に落ちた。星の儀式が失敗に終わる訳だ。儀式は毎夜やらなければならなかったとはな。我は行かぬ。だが、貴様らに災いがふりかからぬようワカバとメイデンとともに太陽の儀式を行おうぞ」
「あ……ありがとう」
そして、もう一つ付け加える。
「後、これマザーとか大人達には内緒ね。私達は小道具室という秘密基地に行ってるってことにしてね。できればそこに行ってるってことも秘密にして欲しい」
「なるほど。了解した」
後輩達には内緒だ。
今は私達だけの秘密の基地。
卒業してからそこへとたどり着けるように暗号を残すことにした。
その日、サクリの施設から十期生全員が丸ごと消えた。
目の前に広がる巨大なツリーハウス。
私達は現在荘厳な自然の中にいる。
「昼のツリーハウスは、なんと言うか心地よいな。癒されるよ」
爽やかな風が吹き通る。
ふと大木に手を添えた。
懐かしい記憶が蘇る。
ずっと卑屈な内省的な性格だった。悪魔に傷をつけられた時、もう人生を諦めるような気持ちに浸った。心の隅にできた突起。執事になりたいという希望も、あのままならきっと気の所為だと見て見ぬふりをして無関心で生きてきたと思う。
けど、私はハルさんに出会って、この自然の景色を見て自分が変わった。心の突起がいつの間にか全面に広がっていた。そのことを打ち明けた私にハルは力強く背中を押してくれた。
ツリーハウスでの事件でサヤやコガネともより深く繋がれるようになった。執事を目指すことでフキとも深く繋がれた。悪魔探しをしている内にクルマミチ──シャドウとも深く繋がれた。後輩達とも仲良くやっていけている。きっとあのまま卑屈な私だったら、こんなにも人との関係はなかっただろう。もっと孤独を味わって、さらに泥沼に囚われていたと思う。
私は全てに対して「ありがとう」──
木の感触はとても優しかった。
私達はツリーハウスでのんびりと楽しんだ。
ゆっくりと時間が流れていく。
そこに潜む一つの邪悪な影。
突然メフィストフェレスが現れた。
悪魔は突然現れる。私に傷を負わせた時も、シスターの片腕を奪った時も、それは唐突に現れたのだ。
「ココガショウネンバ。ミライヲカエラレナケレバ、ワタシハ……」
思わず後ろに逸れた。
後ろは木の下。相当下に地面が見える。引くことができない。
さらに、唐突に現れる眩い影。
「本当に悪魔がいたなー。それにサクリまでいるじゃん。全くサクリの施設の外なのに意味分かんないな」
天使様が舞い降りた。
青い服が印象的な天使様だった。
「まあいいや、ガブリエル様が来たからにはあんたらはもう安心だ。さて悪魔退治だ」
【ガブリエルとメフィストフェレスとの対決。この決闘がメフィストとの因縁を晴らすことになるのか?】




