21.
インクにやる銃撃戦。
遠い所にフキがいる。だが、狙おうにも遠すぎる。
人形を「逃げ」させ、私も逃げた。
部屋に入り階段の影に隠れて過ごすことにした。
スマートウォッチにはコガネとサヤの対決が映っている。その試合はコガネの圧勝ということは一目瞭然であった。攻撃が当たらず当てられるだけのサヤは逃げることしかできなくなっていたのだ。
人形にインクが当たった。
また、マイナス五点。
さらにもう一発。
これで、マイナス八点。
「天使様に誓って僕らは正々堂々と戦う。ナルミには申し訳ないけど俺だって必死なんだ。ごめんな」
フキだ。しかし、近くに人形はない。
彼のスマートウォッチにはこの場所が映されていた。
つまり、隠れて逃げ切ることはできない。
彼を攻撃しようにも彼の人形が見つからない。どうしようもなく、ただ逃げることしかできなかった。
逃げている間に二発当てられた。現在、マイナス十四点。ここで逃げ切っても結局見つかってしまう。
時計を見る。
私はそれを見ながら逃げていった。
フキはもちろん追いかけてくる。人形はいない。どこか安全な場所で「止まら」せているのだろう。
そして、フキの動きが止まった。
タイミングよくコガネが現れたのだ。いや、コガネの動きを常に見れる私はコガネにフキを付き合わせたのだ。
何とか時間は稼げそうだ。
荒い息を吐きながら階段の隅で座っていた。
スマートウォッチが揺れる。
最後のミッションだ。
「これより施設内の五つの場所にスタンプを用意した。そのスタンプを五つ集めて食堂に行けば、逆転も可能なインクマシンガンを手にすることができる。ただし、インクマシンガンは一つしかなく、早い者勝ちである……ね。はぁはぁ」
もう私にはミッションに動く気力はない。
一度息を整えなければ動けなそうだ。
階段を荒々しく登る音がする。
サヤだった。
私は臨戦態勢を取るが、私には目をくれずどこかへと去っていった。
再び休憩を取る。体制を整えた。
少しでも息を整えたことで少しは体がマシになった。
二階の窓から下を覗いた。そこには誰かの人形が突っ立っている。
どう見ても罠だろう。しかし、その罠に集るクルマミチの姿を見て私も外へと向かった。
クルマミチとコガネが待っていた。
そこにサヤが通り過ぎていく。隙だらけでカラーボールも幾つか当てられている。
残り数十分。
点数はマイナス十四点。マイナスからプラスにするには十四回当てなければならない。誰かが割を食わなければならない。
「ナルミちゃん、助けて」
サヤが助けを求めてきた。サヤは今クルマミチとコガネに追われていた。
「友達でしょ?」
「…………そうだけど、これはちゃんとした試験だから」
「一生のお願いだから。あいつらだってペア組んでサヤを狙ってるの。お願い。ナルミちゃんも一緒にペア組もうよ。そして助けてよ」
友達の痛恨なお願いを断れきれなかった。
私はサヤの護衛をすることになった。
サヤの人形が中庭で止まる。そして、追いつくクルマミチとコガネ。いつの間にかサヤは人形を置いてどこかへと消えていた。
「囮作戦なんて下らないね。僕みたいな頭脳を持ち合わせなければ、点を取られるだけ取られるだけなんだよ」
「……今点数がヤバイ。取り返さないといけないから。ここで取り返す」
二人とも射撃圏内に入った。
もう蜂の巣にされるのは目に見えていた。
「ナルミちゃん、騙してごめんなさい。けど、サヤが勝つにはこれしかなかったの。サヤが合格ったら一つだけ何でも言う事聞いてあげるから、それで許していただけません?」
自信満々な時の口調。
そして、それは傲慢にも近い態度な時の口調でもある。
「サヤのために負けてください。それでは、さよならですわ」
マシンガンが上方向へと向いている。
空に向かって無数に放たれるカラーボール。
中庭に色の玉の大雨が降り頻る。
その雨はとても見た目は美しく、当たれば痛い、不思議な不思議な雨。
三人のいる中庭にのみカラーボールの雨が降っていった。
【カラーボールの雨をどう防ぐのか!】




