15.
メフィストフェレスの襲撃事件の後、私達の意識は変わった。
メイデンは暇があれば筋トレをするようになった。さらなる強さを手に入れるため彼は筋トレを怠らない。その熱意に打たれたのか他のみんなもより真剣に何かを行うようになった。
ヒラとチャヤは悪魔について調べるために図書室にこもる日々。
クルマミチとワカバはさらに儀式に依存していった。
コガネは何故か傲慢さが倍増した。ただ私を「悪魔の傷」と罵ることは一切なくなった。
「やっぱりこの施設の中に悪魔がいるのかもしれないわね」
「私が悪魔に襲われている時にさ……マザーって何してたんだろう」
私とサヤ、コガネはさらに悪魔に対する謎について疑心暗鬼となっていく。もし誰かが悪魔だったら。
「何の話をしているのでしょうか?」
フキが話に入ってきた。
「君には関係ない話だよ」とコガネは帰らせようとする。
「いや、フキ君も仲間に入れようよ。同じ執事候補で一緒にいることも増えたから分かったことだけど、フキ君なら安心できるよ」
「当たり前だろ? 一緒に悪魔から逃げ切った仲だ。怪しんでいる訳ないじゃないか。そんなことも分からないのかい?」
フキに悪魔が人間に化けている可能性があることを伝えた。
「本当に人間に化けているのですか? まことしやかには信じられない」
「ほらね。僕は理解力に疑いをかけていたんだよ」
「俺はお前よりかは理解力があると思ってるよ。まあ、信じてみるとするよ」
口調が変わったのはきっとコガネのせいだ。
コガネとフキの間には火花が散っているように見えた。
「また、敵を増やして。ほんとコガネは馬鹿馬鹿ね」
「知ってるかい? 本物の馬鹿は馬鹿を繋げて馬鹿馬鹿と言うんだよ」
「…………なによ」
「い、痛い! 痛いじゃないか」
「自業自得だと思うね。それは」
三人のやりとりに思わず微笑みがこぼれそうだった。
「本題に入りましょ。ナルミ的にはマザーが怪しいって。マザーが門を開いた次の日に襲撃が起きたし。マザーが悪魔襲撃の時に何をしてたか分かる人いる?」
私達にマザーの行動が分かる者はいなかった。
それが怪しいという疑惑へと繋がっていく。
私、コガネ、サヤ、フキの四人は悪魔に対する疑惑解明のために動いていった。だが、その後マザーの行動を知ることはできなかった。
各々がそれぞれの道を進んでいった。
マザーへの疑念。
その疑念が最も強まる出来事ができた。
メフィストフェレス襲撃から幾日が経ったある日のこと。
ワカバが深夜に私を叩き起す。寝惚けている私は何が何だか分からないままワカバに連れられて廊下を進んでいく。懐中電灯の光を頼りに向かっていく先には星型の魔法陣が描かれたものが置いてある。
クルマミチによる謎の儀式──!?
ということは、誰かが不開の門の門を開けるのだ。
「シャドウ総帥参りました」
「ワカバとナルミか。はやく正装に着替えろ。門が開くのはもうすぐだ。今度こそは悪魔を退かなければいけないのだ」
あまり意識がはっきりしないまま謎の衣装に着替えた。黒の暗めの服装だった。
「シャドウ総帥。参りました」
メイデンだ。後ろにはフキがいる。
彼らはとっくに正装だった。
クルマミチ、あだ名はシャドウの準備が行われていく中、私とフキで話していく。
「これは裏切り者を突き止めるチャンスじゃないか。もし門を開いて悪魔がそこにいたら、それは……完全に黒だ」
「そうね。このチャンスを逃せば今後は証拠が掴めないかもしれないし無茶する必要があるかも」
「だな。誰かにバレるのは避けた方がいい。二人だけで密かに見に行くぞ」
私達はクルマミチに席を外すとだけ伝え、懐中電灯を持って、誰にもバレないように窓から密かに外へと出た。
静まり返った深夜。
不開の門が開いていくのが見える。その門の前に立つのはマザーだった。
「やはりマザーか。怪しいな」
私達は門に近づいていく。暗闇に黒の服装が同化して、暗闇に消えていく。
門の中へと入っていった。
先へと行ったのを待ち、私もそれを追う。門の向こう側へと進み、横に逸れていく。近くにあった木のみねに隠れた。
マザーと、そこに現れた一つの影。
美しい白さが極め立つ。きっとそれは天使様だろう。
「悪魔の件はどうなった?」
天使様は冷たく言い放った。
もしかして悪魔の差し金は天使様だった? と悪い予感をしてしまった。が、すぐに違うと胸を撫でる。
「いいえ、未だ見つかっておりません。未だ施設の中で雲隠れしているのでしょう」
淡い夜がマザーと天使様を映し出す。
「試験の方はどうなっている?」
「ええ、もちろん、ご安心ください。準備は済んでいます」
「そうか。用具等を渡した次の日に悪魔が襲撃したから、心配だったんだ」
「ええ。その日は準備に勤しんでおりましたので。ただ、逆に悪魔襲撃に対する対処を一切できておりませんでした。私の至らぬ所です」
「そうか。例年通り試験を行う。今年もいつも通りだ。いいか」
「ええ。承知致しました」
「長居している間に悪魔が侵入しても困る。ここで終わりにしよう」
天使様が帰っていった。
マザーも戻っていく。
私達も戻らなきゃ。そう思ったが、このまま行けばマザーや天使様に見つかってしまう。そう考えて動くに動けなかった。
そして。
ガチャン。
不開の門が閉められた。私達は施設の外に追い出されたままで。
マザーの姿はもう見えない。ここにはもう私とフキの二人しかいない。
不開の門はどう足掻いても侵入することは不可能である。例え空から入ろうとしても結界が邪魔するらしい。つまり、私達はもうこの門から施設には戻れない。
「マザー達にはバレたくはなかったが……朝まで待って事情を話して入れてもらうしかないか」
フキは脱力してため息を吐いていた。
もうこのまま朝を待って、入れてもらって、謝るしかないのか。そうなればきっと自由はなくなり、これ以上の悪魔への詮索はできなくなるだろう。
その時、ピンと頭の電球が光った。
「ねぇ、いい事思いついた!」
「いい事?」
「うん。これならマザー達にもバレずに施設に帰れるよ」
【ナルミ達はどうやって他のみんなにバレることなく施設に帰るのか?】




