14.
突然襲ってきた悪魔──メフィストフェレス。
どうしてか何体も分身していて幾数体もの悪魔が私を囲んでいる。刀の鋭い先で狙われている。
死の向こう側と隣り合わせ。
デビルスがこの状況を打破しようと攻撃に出るが容易くやられ、建物の中へと吹き飛ばされてしまった。
「ヤツサエコナケレバ、ココデミライヲカエラレル」
「いいえ、私は現れますよ。それがなるべくしてなる未来でございます。デビルスがナルミ様を一階へと導いた時点でこのようになることは確定していましたから」
グランバトが細い剣をぶら下げやってきた。
鋭い威圧が周りに広がっていく。
「残念ながらどう足掻こうとも、確定した過去や未来は絶対に変えられないのです」
その姿は凛々しく轟轟しい。寄れた皺が全身に広がっているとは思えない程に。
「さて、どうしようとも貴方方は私に敗れます」
悪魔の一体が攻撃してきた。
『ウルドス』
悪魔の攻撃。その攻撃を剣で相殺した。
驚いた顔をした悪魔は一旦下がり、飛距離をつけていく。そこから勢いをつけて技に繋げる。
『スクルドル』
それもまた相殺させる。
「ナゼダ。ナゼコノワザガフセガレル。アリエナイ」
「現実を受け止めてください。先程も申し上げましたが確定した過去は変わらないのです。防がれた事実を受け止めるべきではありませんか?」
圧倒的な強者のオーラ。
「ヤハリカエラレナイカ」悪魔が一体。
「マタシテモジャマシヤガッテ」さらに一体。
さっきまで九体いた悪魔が三体にまで減った。
その内の一体は他の自分に耳うちをして去った。それをきっかけにしてメフィストフェレスは残り一体となった。
「クッ。ツギコソハマナニアダナスモノヲサキニケシサル」
捨て台詞を吐いて最後の一体もまたふっとどこかへ消えた。
凩が吹いていく。
さっきまでの騒擾の慌ただしさが、今では消えている。どこか虚しいような穏やかな風が吹いている。
ひとまず生きてて良かった、と呟いた。
私は病室へと向かった。
そこに片腕を失ったシスターが寝ていた。
「大丈夫ですか?」私は思わず涙を流していた。
「私を庇ったせいで……」と無意識下で付け加えていた。
シスターの手のひらが私の頭を撫でる。
「みんなが無事でいられることが私の幸せ。ナルミのせいじゃないから一人で抱え込まなくていいから」
時間が分からない。
ここは時が止まったかのような空間に思えてしまう。
「ナルミが悪魔を引き付けてくれた。悪魔がいなくなって、サヤが血を止める応急処置をしてくれた。力自慢のメイデンが病室へと運んでくれた。病室では医師でもあるグランドレディが処置してくれた。みんなのお陰で私は無事だった」
ありがとう──
シスターはゆっくりと笑っていた。
悪魔襲撃の事件。
私とフキ、コガネの三人が悪魔から逃げ切っている間、各々はそれぞれの行動を取っていた。
サヤとメイデンは負傷したシスターの保護。グランレディは怪我人の処置。
クルマミチは他のサクリや使用人を悪魔から遠ざけるように講堂へと移動させた。グランバトはひとまずデビルスを解放し、その後クルマミチ達を護衛をした。安全に講堂につけたらすぐに私の元へと向かった。
マザーは、襲撃が一悶着終わってから現れた。
マザーは悪魔が襲撃している間、何をしていたのか。
怪しめば怪しむほど……より怪しくなっていく。
マザーはいったい──
【マザーの正体はいったい──】




