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13.

 私の顔に治らない傷をつけた悪魔──メフィストフェレス。

 その悪魔は突然として目の前に現れ、私を殺そうとする。悪魔によってシスターの片腕は亡くなった。それ以外の被害は今の所はない。もちろん、私も無傷で済んでいる。

 その悪魔は何故か二体いる。分身したのか、それとも。

 私を助けるためにフキとコガネが横に立つ。コガネは石に紐を絡めた武器を持っている。二人の存在が頼もしく私に勇気をくれている。


 悪魔から逃げるように走っていく。

 追いかけてくる悪魔。仕掛けた罠を(サーベル)で切り裂き、そのまま進む。

 どちらも速くすぐに追いつかれそうだ。

「あそこの中に逃げよう」

 私達は図書室の中へと入った。

「僕は罠を仕掛ける。そのまでここで逃げ切ってくれ」

 コガネが離脱した。

 フキと二人で本棚の中を進む。

 悪魔が追いついた。

 一体の悪魔が追ってきたが、本棚の周りを小回りで動くことで何とか逃げ切れている。悪魔は小回りがきかないようだった。

 このままなら逃げ切れる。

 そう思ったが、もう一体の悪魔が待ち構えていた。

 後ろにも前にもメフィストフェレス──

 もう詰んでしまったのか。

「邪魔だっ。丸腰の奴に刀を向けやがって許せねぇ」

 近くの分厚い本をさっと取り、勢いよく投げる。風の抵抗を受けた本はページが開きながら放射線状に進み落ちていった。

 悪魔の視界は空を舞う本が占めていく。それに対して、ふっと顔を横にして避けた。その悪魔は武器を振るう(いとま)を顔を横にすることに使っている。そこを狙ってフキは飛び出した。力強く握った握り拳で悪魔を殴る。

「まさかの殴るっ!」

 思わぬ行動に驚きを隠せないが、フキの咄嗟(とっさ)の行動によりひと時の隙ができた。

 その間に悪魔の横を抜ける。

「罠は完成した。こっちにきて貰うよ」

 二体の悪魔は変わらず追いかけてくる。

 コガネは紐を渡してきた。紐は重いものに繋がれているようで全くビクともしない。けれども、三人で一斉に引けば少しは手繰り寄せることができる。

 近づいてくる悪魔──

「間に合うのか」フキは焦りを隠せない。

「いや、間に合わせるんだよ。ここが踏ん張りどころなんだよ。ちっとは文句言わずに協力したまえ」

 命の危機が本能を呼び覚まし力を増させていく。紐が手繰り寄せられ本棚を傾けさせた。

 本の雨が悪魔を襲う。

 雪崩のように落ちる本に足は止まっている。すぐそこに本棚が倒れ、悪魔は二体とも本棚の下敷きとなった。

「よくやったよ。褒めてあげてもいいかな」

 私達は悪魔を放置して図書室の出入口へと向かう。

 悪魔は倒せた。そう思っていたが、悪魔は本棚を吹き飛ばした。悪魔は二体とも無事だった。

「タフすぎる。ここは俺が(おとり)になってでもしないと」

「やめたまえ。それは無駄死にになるだけだって分からないのかい」

 悪魔が一体飛び出してきた。

 コガネは何故か紐をつけた石を回している。

「成功するか分からないけどやってみる価値はありそうだね。これが成功すれば、僕はカウボーイにでもなれるんじゃないかな」

 振り返りざまに紐を投げる。横から入っていく紐が悪魔に当たるとぐるんと体に巻きついた。

「それなりの技術が必要な技を一発で成功するなんて、やっぱり僕にかかれば何でもできちゃうんだよね。それを君たちにも証明することができて嬉しいよ」

 紐が絡まった悪魔の動きが遅くなる。

 もう一体の悪魔が向かってきた。

 その時。

 ガラゴロガラゴロゴロ。

 本棚が強烈な音を出しながら倒れていく。

「紐は幾つもの本棚に付けているんだよ。これなら相手の動きを止められるだろうからね。それよりも作戦があるんだ。聞いてくれるかい」

 悪魔は音に気を取られて足を止めた。その内一体は紐に(くく)り付けられている。その間に私達は前へと進む。

 私達は図書室から出ることができた。

 それでも悪魔が追ってくる。紐は刀で斬られていて、二体とも追ってきている。それでも距離は離れている。こっちが多少有利だ。


 曲がって階段を降り始めるコガネとフキの影。

 悪魔はそれを見て彼らを追っていく。二体とも階段を降り始めた。

 私は部屋のドアの隙間からその様子を覗き見していた。二人は囮となって、その間に私は近くの部屋に隠れていたのだ。

 私は彼らとは逆方向へと向かう。

 二人のお陰で何とか悪魔から逃げきれた。後は大人達に助けを呼べば。そんな淡い期待が湧いてくる。


 だが、そんなに甘いものではなかった。


 私の目の前に現れるメフィストフェレスが一体。さらに後ろからメフィストフェレスが一体。私は挟まれていた。

 二人は殺されたのか……。私はもう殺されるのか。嫌な想像だけが浮かんでくる。

 もう逃げきれない。

 もう無理だと諦めの気持ちが強くなっていく時に聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。その鳴き声に耳を傾ける。「きゅぁー」という弱々しい下等悪魔の声。私の足元にはデビルスがいた。

 余裕のないはずの心に何故か余裕が湧いてくる。

「なんでここにいるの?」

 どうしてここにいるのか。その理由は分からないが、その理由を探る余裕はない。

「きゅぅ~。きゅっ、きゅぅっ、きゅ~ぅ、きゅ~」

 体全体で何かを表している。

 近づいてくる悪魔。私は解釈を急いだ。

「もしかして、ここから飛び降りろって?」

「きゅぅ!」

 当たりのようだった。

 二階から飛び降りるのはとても恐いし致命傷になりかねない。それでも躊躇(ためら)う暇なんてなかった。徐々に近づく悪魔。それは死が近づいてくること。結局死ぬのなら、少しでも可能性がある方を選びたい。

 窓を開いた。

「今から飛び降りるよ。本当に大丈夫なんだよね」

「きゅぅ!」デビルスは体全体で肯定を表した。

「分かった。いくよ」私はデビルスを抱きしめた。

 高めの場所から思いっきり飛び降りる。

 体にかかる重力。風の抵抗。まさに落ちているっていう感じだ。

 デビルスが腕から離れて、小さな翼を思いっきり振る。しかし、飛ぶことは愚か、抵抗を無くすことすらできない。小さな羽では落下は防げない。

 デビルスを下にして落下していく。このままでは飛び降り自殺のようになってしまう。デビルスはそうならないように全力で翼を羽ばたかせるがあまり効果がない。もう地面はすぐそこまできていた。

 地面に近づくことで微々たる風を受け抵抗が生まれ勢いが殺される。

 さらに、デビルスがクッションとなり私は無事に地面へと転がった。

 デビルスの頑張りとデビルスのとても柔らかなボディが落下による衝撃を相当弱めてくれたのだ。私は無事に地面の上に立つ。

 二階から見下げる二体の悪魔。

 私は何とか悪魔から逃げ切ることができたのだ。


 なんて………………。


 悪魔が複数しているその不可解さの謎も知らないのに。

 油断なんてしている暇なんてないのに。


 私を囲むように現れた敵達。

 目の前にはメフィストフェレス。右側にはメフィストフェレス。左側にはメフィストフェレス。後ろにも当然メフィストフェレス。二階にもメフィストフェレス。全く同じ悪魔が私を囲む。

「ココデチェックメイトダ」

 メフィストフェレスが…………。

 一、二、三、四、五、六、七、八…………九。

 絶望はまだ終わらなかったようだ。

【どうしてメフィストフェレスは何体も存在するのか】

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