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12.

 この世界には崇高なる存在の天使様と醜い存在の悪魔がいる。

 ここは天使様の領域。

 悪悪しい悪魔などは受け入れることはない。

 ここは天使様の領域の最端にあるサクリの施設(いえ)。唯一の出入口とされる門は普段は開かない不開の門。悪魔などは受け付けない。

 そのはずだが……

 悪魔はこのサクリの施設(いえ)に入り込んだ過去がある。

 何故悪魔が侵入してきたのか。

 その可能性の一つとして人間に化けた悪魔が挙げられる。人間としてこの中へと入り溶け込み、その場に居座っている。その候補として今一番怪しんでいるのはマザーだ。


 マザーは昨日の真夜中、不開の門を開けた。

 不開の門を開くと悪魔が入り込んでしまうかもしれない。

 何故、開けたのか。謎が付きまとう。その謎がマザーは悪魔ではないかという疑惑へと繋がっている。



 少々の自由時間。

 サクリの大半はかくれんぼを行っていた。

 鬼役であるシスターに見つからないように中庭の草木に隠れながら進む。

 とっくにサヤとメイデン、ヒラは見つかってしまったみたいだ。

 影に隠れた施設の裏へと向かう。

「コンドコソハケシサル」私の目の前に現れる悪魔。

 それはメフィストフェレスという悪魔。私はそれが誰かに化けていると考えている。

 悲鳴を上げた。

 鬼に見つかるとかの問題ではなかった。命に関わる。

 (きびす)を返して思いっきり走っていく。

 が、足元にあった小石にまで意識及ばず足のつま先を石に引っ掛けてしまった。思いっきり前へと転ぶ。

 倒れていく私の上を剣が通る。

 転んだお陰で殺されずに済んだ。私は小石に感謝しながら悪魔から逃げていく。頭の中は生きるの三文字だけだった。


 ひたすら走っていく。

 ただひたすらに。

「危ないっ!」と私は強く押され突き飛ばされた。

 シスターだった。

 突き飛ばす片腕にサーベルの残像が通る。シスターの片腕のみが宙を舞っていった。

 思わず悲鳴をあげそうになった。

 腕の断面から血が絶え間なくしたり落ちていく。

 片腕のシスターはその場で倒れて込んでしまった。

「マナニアダナスモノ……。ココデミライヲカエル」

 恐怖で足が(すく)みそうになる。

 このまま逃げていいのだろうか。ここはシスターを助けなきゃいけないのだろうか。迷いが私をフリーズさせる。

 悪魔が(わら)っている。

 パチャン。

 私の後ろから、やってきたフキが水の入ったバケツを悪魔にぶちまけた。そこでできた一瞬の隙を見て、彼は私の腕を掴んで走り出していく。私は何の意識も出来ぬままフキに連れられて進んでいった。私達はすぐに建物の中へと入っていく。


「悪魔さえこっちに来れば、シスターはサヤかメイデンが助けてくれるはずだ。俺らは悪魔を誘いつつ逃げ切るぞ」


 悪魔の追ってくる音が聞こえる。少しだけ振り返ると奥には悪魔が追ってきていた。

 近づく階段。「上るぞ」と言ったので体を回転させ階段側へと向かった。急に曲がることで悪魔からの視線を外す。

 階段を一段飛ばしで進んでいく。

 登りきった時には悪魔は階段に足をつけた所だった。

 このまま近くの部屋に(こも)って通り過ぎるのを待つ作戦。私達は近くにある部屋に向かって進んだが、何故か前方には階段の下にいるはずの悪魔がいた。

「逃げるぞ」強く手を引っ張られる。

 悪魔が全速力で追ってくる。そのスピードは私達の比にならないほど速い。やはり、曲がったり上ったり複雑に動かなければ追いつかれてしまう。

 パリン、と窓ガラスが破れる。

 悪魔はバランスを崩し、空中に高く放り投げられた。私達を通り越していく。逃げる方向は一瞬にして真逆となった。


「今のままじゃ追いつかれて死んでたね。この借りは一生残ることじゃないかな」


 部屋からコガネが出てきた。手には紐に繋がれたほんの少し大きめな石を持っている。

「それと、ここに紐の罠が置いてあるから気をつけるんだね」

 私とフキは石とドアの間にある紐を飛び越した。

 高く舞った悪魔は地面を転がり終えた後立ち上がる。そして、階段から上りきった悪魔がそこに現れる。


「はっ? どういうことだい。悪魔が……二体だって!?」

【ナルミ達はメフィストフェレスの奇襲に対して生き残ることができるのか?】

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