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10.

 私とフキ、そしてクルマミチはどこかへと逃げた悪魔デビルスを捕まえるため施設の中を捜すことになった。

 それぞれが各々調べていく中で私とフキは小道具室で鉢合わせてしまう。


 二人しかいない小道具室の中。

 彼は真面目さを(こじ)らせて怒りへと変えていく。


「執事は狭き門だ。なれるのはひと握り。だからこそ、必死に努力してなりにいくんだ。だけど、お前はどうだ。グランバトさんに言われたようにどこでも敬語を使うように心がけたか? 常に上品に振舞っているのか? 俺は執事を目指しているにも関わらずにへらへらと笑えるお前が…………ひやかしているように見えるんだよ」


 だから、彼は怒りに任せて突き飛ばしたのだ。

「ごめん」

 思わず口から(こぼ)れた。

 それはフキに対してではなく、不真面目な自分に対して謝っていた。

「なあ、シッポウ先輩のことを覚えているか?」

 シッポウは私達の上の代。ハル達の同期である。

「俺はシッポウ先輩が好きだった。先輩は執事を目指していた。先輩から執事は難しいと聞かされた。頭が悪い俺はこのままでは駄目だと思って必死に勉強してきたよ」

 暗めの光が静かに揺らめいていく。

「ずっとシッポウ先輩は真面目で頭もいいし執事に絶対なれると思ってた……のに、あの人は試験で執事になれはしなかった。それどころか、シッポウ先輩は試験に落ちてしまったんだ」

 上の代の合格者は二人のみ。シッポウは仕え人にもなれず別の職へと就いた。それ以降は音信がないので分からない。

「驚いたよ。あんなに才能があるシッポウ先輩が合格できないなんてね。それで俺は分かったんだ。もっと頑張らなきゃ執事にはなれないって。俺はさらに頑張らなきゃ絶対に執事なんかにはなれないんだって、思ったよ。それと同時にイラついたんだ。シッポウ先輩や俺でさえ難しい道は、女であるお前にとってさらに険しく難しい道なのに、お前はのうのうとしてる。それを見たら頑張っている俺を嘲笑うみたいに思えて……」

 彼は視線をずらした。

 私は険しき狭き門をよく捉えられてなかったみたいだ。世間知らずの私は、世間をよく知る彼には苛立ちの種だったのだ。

 情けないな。

 今からでも間に合うかな。

 私はもっと努力しなければならないのだ。履き違えた私は今すぐにでも変わらなければならない。私は今この場をもって彼に気付かされた。

「私はグランバトさんに憧れて執事を目指しているの。けど、その道は厳しくてついていくのが必死で、視野が狭くなってたと思う。もっと頑張らなきゃいけないのに、頑張ることが見えなくなって(おご)ってたと思う。気づかせてくれてありがとう」

 私は目の前の高い壁に行き詰まり、目の前には壁しか見えなくなった。壁以外見えない暗闇の中で私は、目の前のタスクを見失い完全に乗り越えるべきものを見失っていた。

 もう彼に対する怒りはない。

 あるのは自分の不甲斐なさに対する怒りのみだ。

「あの時、頭に血が上って強く押してしまった。申し訳ございません」

 彼もまた怒りの矛先が変わっていたような気がした。

 もう互いが互いに敵対する必要はない。これで二人で協力してデビルスを捜すことができる。

 カタン。

 何かが崩れ落ちる音。

 きっと小道具が落ちたのだろう。

 すぐ後に足跡の音が増えた。

「…………いたのか。二人とも」クルマミチだった。

 ゆっくりと近づいてくる。

 暗がりの中で三人が集まる。

「ここには……デビルスはいたのか?」

 ガタン。

 またもや何かが崩れ落ちる音だ。

 束になっていた道具が落ちてきている。それと同時に、埃が煙のような舞っていく。

「きゅぃ~」どこからかデビルスの鳴き声がした。

 聞こえた方向へといき「デビルス?」と訊ねながら手を伸ばした。

「きゅぃぃーぅ」

 小道具の山の中からそれは飛び出し私の手のひらを頭で擦ってきた。

 デビルスは人懐っこく私に触れていく。

「かまってちゃんなのかな……。デビルス、一緒に出かけよう」

「きゅぅ~」

 私に抱かれて眠りについていく。

 その姿を見ているだけでも癒されていく。


「そこにいたのか。けど、これで一件落着だ」

「見つけた…………のか」


 クルマミチは一足早くその場を立ち去ろうとしていく。

 私とフキは立ち去る前に感謝を述べた。

「いらない、感謝は…………。何もしてないから」

 そのまま小道具室の扉を越していく。

「それと、タメでいい。今は同期と同じ立場だ。それと、クルマミチじゃなくて"シャドウ"と呼んでくれ。それが()があだ名だ」

 そのまま去っていった。

 ミステリアスな特徴は相変わらずだ。


 呆気にとられながらも気を取り戻し、檻のある部屋へと向かう。

 デビルスは無事に檻の中へと戻された。

 これで授業に戻れると思ったら、今日はもう授業は終わっていた。気づいたら時間は夕焼け色に染まっていた。


「ねぇ、フキ君」

「どうしたんですか」

「今はさ、タメでいいと思うんだ。だって大切な家族なのに間をとってたら悲しくないかな。それ以外の時は敬語頑張るからさ」


 多分、私の言い分は正しくない。

 それでも私はタメで話したい。その方がもっと彼のことを知れるからだ。


「もっと執事を目指して頑張るよ。一緒に執事になろうね」


 夕焼け小焼けの映し出したシルエットは首を縦に振っていた。

【ミステリアスなクルマミチ─シャドウに潜む怪しさ】

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