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砂地竜

「っ! 危ねぇ! こいつでかい図体で早すぎんだろ!」


「もう少し距離取って! 魔法に巻き込んじゃう!」


「そんなこと言っても……!!」


 砂の中を縦横無尽に動き回る砂地竜、上級冒険者でも苦戦する難敵を相手にトーヤは善戦していると言っても良いだろう。だが慣れぬ砂地に体力を削られる上に明らかな格上との戦い、その不利は通常の何倍もの速度でトーヤを蝕んでゆく。


「っそ! ゼェ……潜っちゃ出て潜っちゃ出て……正々堂々勝負しやがれってんだ! ケホッ」


「魔獣相手に正々堂々もなにもないでしょ! 『土壁(アースウォール)』『治癒(ヒール)』」


 土壁が砂地竜の動きを鈍らせた隙に治癒の魔法がトーヤの傷を癒す、だがその足止めも焼け石に水、獲物の思わぬ抵抗に焦れたのか砂地竜が苛立った様子で砂上をのたうつ。


「っきしょー……ゲホッ、でけぇし固ぇし魔法は弾くし、節の隙間を狙やいいって聞いたけどあんな動き回るのどうしろってんだ!」


「まずは動きを止めなきゃだよね……。トーヤ、全力でどの位もつ?」


 レティの問いにトーヤが砂地竜を睨み剣を握る手に力を込める。


「はぁ……五分……いや、十分(じゅっぷん)もたせる! なんか手はあんのか?」


「詠唱に時間がかかる、でも多分いけるはず!」


 レティの言葉にトーヤが大きく深呼吸をし、正眼に構えた剣をしっかりと握り込む。纏う空気が変わったのを感じ取ったのか、砂地竜が再び鎌首をもたげ、観察するようにトーヤの周囲を回り始める……。


「っっ! おおぉぉぉおりゃああぁぁぁぁあ!!」


 裂帛の気合を込めての突撃、無謀とも思えるそれを見やり、砂地竜がごちそうを迎えるように顎を開き爪顎を鳴らし歌を奏でる。

 と、瞬間、トーヤの姿が視界から消え失せ、不意を突かれた砂地竜の視界に切り飛ばされた左の爪顎が青い体液の尾を引き散らす姿が映る。


『ギシャアアァァァァアアアア!!』


「はははっ! 奥の手は最後まで取っとけってな! お~お~怒ってる怒ってる! ははは! こっちだこっちぃ!!」


 トーヤがギルドで異例とも言える速度で昇格したのは腕の良い魔術師(レティ)と組んでいる幸運だけではない、残念な事に魔法の才には恵まれていなかったトーヤだが一つだけ他者に真似できない才があった。

 それは魔力の出力調整の精密さ、トーヤはこれを利用し身体強化に緻密な緩急をつけることで、実際よりも速度を速く感じさせたり、攻撃時に通常以上の威力を与える技能に秀でていた。


『ギチチチチチ! ギュルガアアァァァア!』


「ってかこいつは……っっ! ほんっと! ちょっとヤバいなっ!」


 緩急のついた動きで砂地竜を翻弄するトーヤ、だが砂地故の足場の悪さ、巨体を利用した行動範囲の制限を受けジリジリと追い詰められていく。

 慣れぬ環境に息が上がり、風切り音を立て迫る牙を、尾を躱す度に恐怖に硬直する体、それを振り切り尚体を動かすのは少しの勇気と無謀……そして決して相棒(レティ)を死なせないという強い覚悟と意志。


「トーヤ!」


「応っ!」


 レティの合図にトーヤが砂地竜から距離をとる、それを追おうと砂地竜が地上に這い出したのに合わせレティが勢いよく杖を地面に突き立てた。


「舞い跳べ氷精 氷雪の宴 踊れや踊れ 凍てつく舞台に!! 『氷原(アイスフィールド)!』」


 レティの杖の柄から発生した霜柱が一直線に砂地竜に向かい迸り、それが接した瞬間、砂地竜を中心に円形の氷の闘場を作り出す。


「ぜっ……ぜっ……けほっ……トーヤ……行って!」


 レティの声を背に走り出したトーヤが勢いをつけて氷の上を滑り抜ける、突然の冷気に驚いた砂地竜が地面に潜ろうとするがそこは砂地ではなく分厚い氷の上、砕こうと暴れるほどに、滑り、転び、のたうち回る。


「いよっし! レティ! 今!」


「『地形隆起(アースライジング)!』」


 レティの魔法で作り出されたジャンプ台をを利用し、跳躍したトーヤが砂地竜の背に取りつく。


「暴れんなよ! 確か急所は……節の三つめ!!」


『!?!!!? ギチギチギチギチッ! ギシャアアアァァァア!!』


「っくしょ……抵抗すん……うわっ!?」


 急所に深々と突き立てられた剣に砂地竜が必死の抵抗を試みる、振り落とされてなるものかと更に剣を持つ両の手に力を込めるトーヤ……と、次の瞬間、無情にも突き立った刃だけを残し鍔からボキリと剣が折れる……


「トーヤ!!」


「っっ往生際がぁ! 悪ぃんだよおおぉお!!」


 かろうじて節の隙間に腕をねじ込み落下を免れたトーヤ、その感じる五感の全てが一所に集約される、速度を増す風、暴れ回り背に流れてゆく景色、そして正面に映るへたり込んだレティ……。

 その時、トーヤの脳内を走馬灯のように駆け巡る記憶の渦の中で、一際輝きを増し映し出された映像……。伝説に語られる大死霊を素手で霧散させた憧れの姿……。

 なんだ、簡単じゃないか、要は気の持ちよう、気合いで相手を上回ればいいのだ。ならばこんな怯えた巨大ミミズ如きに自分が後れを取る筈がない!!


「てめぇは……誰に断ってレティに手ぇ出してんだあぁあ!!」


 トーヤから放たれた裂帛の気合、それを受け砂地竜の全身が一瞬硬直する。その一瞬を逃さず攻殻の隙間に挟まる()()を引き抜き一息に振りかぶる。


「てめぇの相手は俺だろうがっ! 余所見してんじゃあ……ねえっ!!」


 トーヤが両手で握った砂蟹の爪の残骸を折れた剣目掛けて振り下ろす。ガツリと金属を叩く感触、ぶつりという何かを断ち切った確かな手応え、一拍の間を置いて砂地竜が天を衝くかの如くに真っ直ぐに上体を起こし、そして操り糸が切れたかのように地響きを立てて崩れ落ちた。


「トーヤ! トーヤ! 大丈夫!? 返事をして!」


「……っててて……お~、大丈夫大丈夫、そっちは怪我ないか~?」


 ふらつく足元を杖で支え、まろぶように駆け寄るレティにトーヤが手を上げて答える、崩れた砂山がサラサラと音を立てる中、笑顔を浮かべた二人が拳を合わせ……


「……えっ? なんで……?」


「レティ! 逃げ……!!」


 突如突き飛ばされ尻餅をついたレティ、思わず目を閉じ、恐る恐る開いたその視界に映ったのは……降りしきる砂と巨大な何かの胴体だった。

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