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トラブル体質

 アスガル王国ガルドレイク領の宿場町、交易により賑わいを見せる豊かな町の巨大なギルド支部の二階から建物を揺らすほどの笑い声が響きわたった。


「ガハハハハハ! そいつは災難だったな!」


 支部長室の頑丈な執務机を叩き笑い転げるタウラスを睨み、応接机のソファに座ったラスティが大きく溜息をつく。


「笑い事じゃないですよほんと、下手したら洞窟ごと生き埋めですよ生き埋め!」


「まあ大丈夫だったんだからいいじゃない、それに楽しかったし♪」


「楽しかったのはまーくんだけでしょ! 二人庇いながら結界維持するの大変だったんですからね!」


 まるで楽しい遠足の思い出を反芻するようなマルスに対し怒り心頭のラスティ、まあ、言って聞かせてどうにかなるマルスでないのは承知の上、だが同じ様な失敗をしないためにも例えポーズであろうと不快感を露わにするのは大切である。


「まぁ魔王軍の幹部だったか? エルダーリッチ相手に生き残れたんだから十分大したもんだ、そいつが本当にそんな大層なもんかは別にしてな」


「面白い相手だったけど……手応えは微妙だったかな?」


「ガハハハハ! 消化不良って感じだな! ならちっと()るか? 儂も体がなまっちまってなぁ」


「やめて下さいよ! この町を更地にする気ですか!? あの強さ見る限り本物ですよ絶対! ……でも、魔王だの魔界だのってのは……あれっておとぎ話じゃないんです?」


 ラスティが応接机に肘をつき口を尖らせる、確かに魔界だの魔王だのといった話は世界中に残っているが多くは神話と言われる領域。既に昔話や伝説でしか語られる事は無く、数千年前の話では当事者も今は生きていない。


「ん? 人魔大戦に関してはエルフの里の長老の……え~、なんだっけか?」


「グラウス爺さん?」


「そう! グラウスの爺が知ってるだろうが? あの爺さん確か五千年位生きてんだろ?」


「確かに長生きではありますけどねぇ……最近は記憶の混濁が激しくて色々曖昧だから信憑性ないんですよね~」


「そりゃあ()()だな、あの爺さんかなりの曲者だからなぁ。あれだ、ボケたフリして若い女の尻でも触ってなかったか?」


 言われてみれば確かに……ボケた年寄りのやる事だからと皆我慢し流していたが……。確かに自分も触られたしその際小指をへし折ったあの反応はボケているそれとは違って……


「あんの爺……次に会ったら全身の関節逆に曲げてやる……!!」


「まあ、それは置いといてだ、魔族云々に関しては儂も心当たりはある、二十年ちょい前の戦争でも魔族と見られる怪しい奴等が暗躍してた。今回のが残党と見るか戦争の時のが先遣隊と見るか……大物らしき奴が出てきたっつーなら前者か?」


「な~んかにわかには信じられない話ですけどねぇ、でも確かに変なのが湧いてましたしおやかたさまにも手紙送って注意しとくべきですね。……それはそうと、先日の骨、あれの買い取りどうなりました?」


 先日の骨、とはダンジョン内に居たスケルトンの破片。長年魔力を内包し続けたスケルトンは優秀な魔術触媒になる為高値で取り引きされるのが常であり、ネクロスの魔力も相まり大量の骨は超一級品と言って差し支えない品質を持っていた、その価値といえば……。


「ふむ、暫定での価格でいや借金の七割ってとこか? でもいいのか? あの二人に半分渡さなきゃ全額返済できてたろうが?」


 借金、というのは先日のマルスとタウラスの一騎打ちの結果。あの一騎打ちで最後にマルスが放った『破城』の一撃、あれにより半壊した砦の修繕費を返済する為二人は冒険者として登録し、日々金策に奔走しているのだ。


「こちらの都合に巻き込んじゃったお詫びですよ、あの二人居なかったらまーくん見つけられなかったかもだし、見つけて生き埋めになってたじゃ洒落にならないですからね」


「僕だってそこまで考え無しじゃないよ、流石に無茶は……」


 マルスの反論に冷めた視線で答えるラスティ、『無茶をしない』この言葉がマルスの最も信用出来ない言葉であるのは身に染みて分かっている。そもそも今回の一件が無茶でなくて何なのか……。


「そういや今日はトーヤとレティ見掛けないけどどうしたんですかね? お金は足りてるはずだけど()()()()()()()さんは何か知らないんです?」


「いちいち冒険者一人一人の現状把握できっかよ、だがあいつらトラブル体質だからなぁ……なんか巻き込まれてなけりゃいいが」


「領主と二足のわらじやってるから細かいとこが見えないんですよ、ってかギルドの方に出ずっぱりですけど領主って暇なんです?」


「儂は現場主義だからな、それに領主屋敷(あっち)に行っても儂が居ないのは周知の事実、何かあったらギルド支部(こっち)にまず駆け込んでくるから問題ねぇよ」


 確かにそうかも知れないが……だがそうと知らぬ客人などは別であろう、事実町に寄った挨拶にとマルスとラスティは領主屋敷を訪ね、老執事に申し訳なさそうに応対してもらった。……眉間の皺を見る限り彼は相当な苦労人なのであろう、いや、確実に苦労している。なにせこの領主(タウラス)からはマルスやフリードと全く同じ匂いがするのだ。ラスティは過去の苦労を思い起こし老執事に強いシンパシーを感じていた。


「ってかあの二人、トラブル体質って今回の以外になんか巻き込まれたりしてんです?」


「ん? 確か……登録初日に薬草採取中に軽い魔物暴走(スタンピード)に巻き込まれ、下水道の探索中に巨大スライムに襲われ……遺跡に入ったら(レイス)の群れ、この間は森で灰色熊(グリズリー)に襲われたらしい」


「……よくこれまで生きてこれましたねあの子達……」


「なんだかんだと運も良いし機転がきくからなあいつらは、ランクアップも実力に見合ったもんだ、まぁトラブル体質ってぇのも冒険者達が言ってる冗談みてぇなもんだ、そうそうトラブルが起きるはずは……」


 足を組み、執務机にふんぞり返るタウラス……と、執務室の扉が乱暴に開け放たれバランスを崩したタウラスが椅子から落ちそうになり足をバタつかせる。


「マスター! 火急の知らせです!」


「な、なんだいきなり! 火急の知らせ? 何があったんだ?」


「ウエストバーン砂漠にて砂地竜(サンドワーム)が活性化! 氾濫の恐れありと!」


 ギルド職員の女性の言葉にタウラスが面倒臭そうにため息をつく。砂地竜は数十年に一度産卵期に餌を求めて縄張りから溢れ出し周辺の生物を喰らい尽くす、前回の氾濫時には若かりし頃のタウラスが活躍し被害を最小限に留めたが、砂漠を中心にあちらへこちらへと砂地竜を追いかけ回す羽目に遭い……まぁ、要するに面倒くさい思い出しかない。


「あ~、よりによってアレかよ……出来りゃぁやりたくねぇなぁ」


「んなっ! 領主さ……マスター以外にあんな災害相手に出来ませんよ!」


「あにk……いや、国王陛下に救援でも頼めよ」


「そんなの間に合いません! さあさっさと退治に行って下さい!」


 仮にも領主にこの物言い、いや、タウラス相手であればこういうのが()()()と言えばらしい。気を使わぬ物言いこそ民に愛される領主様の姿を如実に顕していると言える。


「んなこと言ったってよ……おぉ! 丁度いい! マルス、ラスティ、てめぇらも手伝え!」


「うぇ!? わ、私達も? 砂地竜ってあの巨大ミミズみたいなのでしょ? 嫌ですよ気持ち悪い!」


「砂地竜? それって強いの? なら……」


「まーくんは黙ってて! あ~ゆ~でっかい虫みたいなのは嫌なんです! ってか私達が行く理由なんか無いですし!」


「なら今回の依頼受けたら残りの借金チャラだ! どうだ?」


 借金チャラの言葉にラスティが揺らぐ……が、どうもあのワームや虫ような生き物は生理的に受け付けない、ここはどうにか断って……


「そういや現地には誰も居ねぇだろうな? 依頼はなんかあったか?」


「それが……トーヤさんとレティさんが昨日から砂蟹の討伐で……」


 不安そうに資料をめくる女性職員を見、特大のため息をついたラスティがマルスとタウラスに向き直る。


「行く理由、見付かったか?」


「……分かりましたよ、死なれても夢見が悪いですし……その代わり借金のこと、ちゃんとお願いしますよ?」


 期待に目を輝かせるマルスを眺め、ラスティはもう一度盛大にため息をつくのだった。

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