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死霊の王の殺し方

『クハハハハハ! どうした? 受けてばかりではつまらぬぞ?』


「……う~ん……こうじゃないな……こう?」


『っっ!?』


 ネクロスの攻撃を捌きながら思案顔のマルスがゆるりと確かめるように拳を突き出し、余裕を持ってそれを受け止めようとしたネクロスが背筋に悪寒を感じ身を捩る。


「うん、今のは近かった、けど……やっぱ威力を抑えるのはなぁ……」


『っっ先程から何をぶつぶつと! 何処までも我を侮辱しおって! よかろう、我の全力を持って貴様を消してやろう!!』


 突如の暗転、視力を奪われたかと思ったが違う、辺りを満たす闇色をした魔力が放つ強烈な重圧(プレッシャー)に息をすることが出来ずトーヤとレティが胸を押さえて蹲る。


『合わせ鏡の闇……深く深くより深く……深淵へと至る門となれ! [厄災(カタストロフィ)!!]』


「……っまずい!」


 ラスティがトーヤとレティを抱え通路に向かいダイブする、辛うじて間に合った結界壁のひび割れ越しに見る室内は闇色をした魔力が嵐のように荒れ狂い、ネクロスの高笑いだけが響き渡る。


『クハハハハハ! ネズミを殺すには少々丁寧すぎ……はっ?』


 目を疑う光景だった、空間を満たす闇の奔流……およそ生ある者に耐えることの出来ないだろうその空間でこちらに向かい走る影……いや、光が一つ……。


「うおおぉぉぉぉおおお!!」


『んなっ!? ほ、骨共よ! 我を護れ! [骨壁(ボーンウォール)!]』


 闇をかき晴らしながら向かってくるその拳、聖騎士の証とは違う燐光を放つそれにネクロスの危機感知能力が全力で警鐘を鳴らす。積み上がった骨による簡易の城塞を重ねたビスケットの如くに砕くそれを前に、ネクロスは極限まで圧縮された時間の中走馬灯と共に自問自答を繰り返す。


 ――我は不死者、ならば物理攻撃が通る道理は無い、よし、大丈夫問題ない……いや、果たしてそうか? あの光は聖騎士の物とは違うが嫌な気配がする、もしや何か裏が……? いや、だとしてもあんなヤバそうな一撃を放てば洞窟が崩れ生き埋めに……なるほど! これは単なる虚仮威し! ……いやちょっとまて! あいつのあの顔あの目を見ろ! 楽しくて仕方ない、試したくて仕方ないって顔だ! 分かる、分かるぞ我が人族を使い実験する時と同じ顔だ! ……つまりは? ヤバイ? ヤバいヤバイやばい矢場いヤバい!? ――(思考時間0.02秒)


 砕け散る骨がマルスの闘気に触れ塵と化す、立ち上る鱗気が大魔法の闇を飲み込み喰らい昇華させる。数千年の時を生きる大死霊、魔界の福王、数えきれぬ命を屠り飲み込み操ってきた、そんな彼が初めて感じる……いや、これは……彼がまだ命ある者の(ことわり)の中にあった頃の最期の……。


「らぁっっ!!」


『!! っっ! 待っ……!!』


 思わず口から漏れた声は聞くのに慣れた、そして発したことの無い命乞い……だがその言葉を発しきる前に絶望を纏った拳がその頭部を射貫いていた。


「……? やっ……た……のか?」


「魔法の闇が晴れてく……?」


「いや……これは……」


 闇の晴れてゆく室内に目を凝らす三人、確かにマルスの拳はネクロスの頭部を射貫いている、だがその半透明の頭部はマルスの拳を透過し眼窩に炎を宿したまま……と。


『あ……あ゛ぁ゛……あ……』


 眼窩の炎が明滅すると同時に足下から灰になりサラサラサラサラと崩れて行くネクロス。


「……死を勘違いする程の一撃、ね、あ~、嫌なの思い出しちゃったわ……」


「あれ? もう終わり? う~ん……攻撃はそれなりだけど手応えが無いのはなぁ……。ま、楽しかったからいっか!」


「あれをそれなりって……ってか楽しい?」


 ほっと胸をなで下ろすも理解の及ばぬ言葉にまだ頭が混乱しているトーヤとレティ。無理も無い、神代の伝説に残る大死霊に遭遇し、死を何度も覚悟する中それを苦も無く圧倒する少年……。何か夢でも見ているようなふわふわと落ち着かない感覚の中でただ一つ確信を持って言える。自分達は歴史に残る大英雄の活躍の一端を今目にしたのだと。


「……はぁ……怖かった……死ぬかと……」


「ははは……これ、見たこと伝えても誰も信じちゃくれねぇな……」


「さて、まーくんも見つけたしさっさと脱出しますか♪」


 見たこと体験したこと、信じて貰えなくてもいつか皆が思い知る事になる、その時胸を張って自分達は言うのだ『彼の大英雄の戦いを自分達は確かに目撃したのだ』と。



……



『ぐうぅ……まさか……まさかあのような者が存在するとは……』


 まさか神気無くしてここまで自分を追い詰める者が居ようとは……。小さな人魂の様になってしまった自らの体を見、ネクロスは歯嚙みしもう存在しない肩を落とす。消滅しそうになった刹那、何とか意識を保ち切り離した魂の一片、また元の力を取り戻すまで一体どれ程の時を要するか……。


『だがこのままでは終わらぬ、先程は虚を突かれ不覚を取ったが次は油断せぬ。権謀術数を張り巡らし我が真の力をもってして奴の魂の一片まで嬲り尽くしてくれる……』


 魔界の福王たる自分がこのような醜態を晒したままで良いはずが無い、任された任務もまだ半ば……我が誇りに賭けて奴を殺し、汚名をそそがねば……。と、洞窟の入口付近に何やら巨大な影……?


『……? 何だあれは……獣? ふむ……仮の依り代としてこの獣を利用するとするか……』


 力を取り戻すまでこの小さな人魂の姿で過ごすは心許ない、意思の弱い獣であれば乗っ取るのも容易かろう。操る肉体があれば復活の為の魂集めも捗るはずである。

 そろりそろりと忍び寄りその体に取り憑こうとしたその時、獣がぐるりと振り向き、獰猛な牙を並べた顎を開き……。


『……!? 勘の良い獣め! だがこのまま体を乗っ取っ……!? 何だ? ……まさかこれは神気? 何故!? 何でこのような獣が神気を?? ……まさ……か……神じゅ……う…………あり……え……』


「ヴィル~、ごめんごめん! 待たせちゃって、ちゃんと留守番してた?」


「キュルルルル! キュウ!」


 笑顔で駆け寄るマルスに抗議するように喉を鳴らすヴィル、どうやら置いてきぼりを食らったのが余程不本意だったらしい。


「ごめんごめん、でも洞窟の中にヴィルの大きさじゃ入れないからさ」


「そりゃヴィルも怒りますって、あれ? ヴィル? 何でお口もぐもぐしてるんです?」


「えっ? ほんとだ、ヴィル、変なもの食べたらお腹壊しちゃうよ? ぺってして、ほら……あ~っ! 飲み込んだ!」


「も~! 外に落ちてるものとかばい菌一杯ついててばっちいんですからね? お腹壊したら自業自得ですよ!」


『…………』


いつも『脳筋転生』を読んで頂きありがとうございます。

私生活の方が少々多忙のため更新頻度が低下致します、なるべく週一程度の更新は心掛けたいとおもいますが、更新をお待ち頂けたら幸いです。

今後ともご愛読頂ければこれ以上の喜びはありません、読者の皆様に最大級の感謝をヾ(o´∀`o)ノ

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