死霊の王
「ラスティさん! 急いで! こっちがなんか嫌な気配が強いの!」
「気配も何も一本道だろ! っと! スケルトンっ!?」
「よっと、二人とも足下見ないと危ないですよ~」
通路の影や地中から現れるスケルトンを砕きながら地下への坂道を走る三人、ふと、暗闇の中に篝火が浮かび上がり、照らし出された巨大な扉……その扉の前で何やらゴソゴソと動く影が……?
「わっと……! な、何? あの扉!」
「っとっと! 急に止まるな! ってか扉の前に誰か……?」
「あっ! まーくん居た! 何やってんですかこんなとこで! 探したんですからね!!」
「あ~、ラスティ……と……誰? まあいいや、今から扉を開けるからさ♪」
ようやく合流できた! さぁ後は帰るだけ……と胸をなで下ろしたトーヤとレティ……だが目の前の少年の信じられない言葉、駄目だ、走っても間に合わない、ってかそもそもあんな巨大な扉どうやって開く? ってかラスティさんも止めてよ! ……と、助けを求めるように視線を送るがラスティは諦めろとばかりに首をゆっくり横に振る。
「そんじゃあせ~のっ!」
ガギョン!!
何が起こったのか分からなかった、ただ目の前の少年が扉に向かい右手を斜めに振り下ろした、それだけの事で巨大な金属製の扉が不穏な音を奏でて崩れおちて行く。
「うぇっ? はっ? ええぇ!?」
「も~! まーくんその扉の先! 何が居るか分かってるんですか?」
「分かんない! けど、強そうな気配がしてるからさ、楽しそうだなって♪」
呆気にとられるトーヤとレティを尻目にマルスが屈託無く笑う、全く、扉の先にマルスが敵わぬほどの強敵が居たらどうするのか……。とはいえ、フリード以外にそんな存在が思い付かないのも事実。とりあえず開けてしまったならば仕方ない、中に何が居るかは分からないがマルスの我が儘に少々付き合って頂くことにしよう。
「ダンジョンが崩れない程度にして下さいね? 生き埋めは勘弁ですよ?」
「分かったよ♪」
まるで遊園地に遊びに来た子供のようにうきうきと扉の中に駆け込むマルス、だが遊園地と違うところが一点、それはマルスが招かれざる客という事……。
『何者だ! 我が思索の邪魔をするのは!』
勢いよく飛び込んだマルスを待ち受けていたかのように漆黒の魔弾と共に怒り心頭といった声が響く。狙い澄まされた無数の魔弾を蚊でも払うかのように打ち消し、地に降り立ったマルスが開口一番言い放つ。
「お邪魔します! ここで何やってるんですか?」
『おじゃっ……?』
戸惑う声の主、地下に隠り任務の準備をしていたら突然の望まざる来客……。ただの子供かと思いきや我が威圧にも魔弾にも臆せず進み来る獲物というものは初めて見る……。
一体こやつは何者か? 我が神聖なる任務の障害になるとは思えぬが……? だが贄はいくらあっても良いもの、どのように辿り着いたかは分からないがこの者の血程度でも『儀式』の食前酒程度にはなるだろう。
『よかろう……自ら供物となりにくるならばよし、貴様の腸を祭壇に捧げ侵攻の礎にしてやろう!!』
辺りを吹き荒れる魔力の乱流、何かに掴まっていないと吹き飛ばされそうなその嵐の中、悠然と歩み寄るマルスに対し祭壇の上の影がローブをはためかせ、おどろおどろしい造形の杖を掲げる。
虚ろな髑髏の双眸に蒼き焰を宿し、闇夜を切り取るローブに纏うは忍び寄る死と恐怖を象る禍々しき魔力。生者の絶望を糧として、死者の骸を供にする、あらゆる死を統べる不死者の暴君。その暴君の放つ魔弾をものともせずに猛然とマルスが突進する。
「……悪い方に予感が当たりましたね、自我もはっきりしてるっぽいしこちらの出方を見るだけの余裕もある。アークリッチ……いや、もしかしたら……」
「ってかあいつ大丈夫なのかよ! このまま放っておいたら……!」
「あ~、うん、邪魔したら怒られそうだしまぁ任せときましょ、下手に邪魔して加減間違えて生き埋めが一番怖いし」
「任せるって……でも相手は……!」
悲鳴のような声を上げるレティ、目の前に居るリッチは明らかに普通の魔物ではない、こうして相対しているだけでも気を抜けば魂を浸食されそうな程に……。そして対するマルスは……。
「駄目です! 幽霊や死王には実体がありません! 聖銀の武具か魔法じゃないと!」
「へっ?」




