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脱獄

「はぁ……まさかこんなことになるなんて……、ってかおやかたさま()()絶対知ってたでしょ! 何で教えてくれてないんですか!」


 ラスティの怒りの叫びも虚しく冷たい石壁に吸い込まれる、どうしてこうなった? 確かに最初に下手を打ったのは自分、だが手形が無かった以上検問を受ける際に捕縛されていたのは間違いない。ならば自分に非は無い! うん! 私は悪くない!


「でも……これからどうしよう……逃げてもいいけどお尋ね者になるのはなぁ……おやかたさまは指さして笑いそうだけど」


「……ィ……!」


「? 何だろ? 誰か呼んでる?」


「……ティ……」


「?? は~い、パーフェクト美少女ラスティちゃんはここですよ~?」


 扉の外の声の主に返事をしてみる、誰が呼んでいるかは知らない……というかこの場で自分の名を呼ぶのはマルス以外には居ないだろう。もしや牢に入れられ寂しくなってしまったのか? 案外可愛いところもある……。


 ガチャガチャッ! ……バキャン! メリメリ……ガギョン! バガッ!


「ラスティ! ここに居たんだね」


「んなっ……まーくん!?」


 分厚い樫の一枚板で作られた扉が紙でも裂くように引き裂かれ、扉を排除し現れたのは予想通りのマルスその人。だがマルスは格子のある檻に収監されたはず? なぜ? もしや脱獄してまで私を助けに? いやんなにそれちょっとときめいちゃうじゃないの!


「まーくん助けにきてくれ……」


「どうしようラスティ! 檻、壊しちゃった!」


「ふぇ? ……はい~?」


 分かってた、そういうドラマチックな展開を期待した自分が間違ってた。だが檻を壊した? 地下に降りて来たときに見たが自分の見立てではあの檻は特殊合金(アダマント)製、そう簡単に壊せる物では……。


「……わぁ~お」


 ミスリルを超え、神性金属(オリハルコン)に迫ると言われる人類の研究努力の結晶、特殊合金(アダマント)製の格子扉が飴細工を曲げたかのようにひしゃげてしまっている。

 規格外規格外と思ってはいたがよもやこれ程とは……。一時とはいえ師事した身としては誇りたくもなるが、だが牢を壊してしまったのは事実、この局面で罪の上乗せをするのはいかがな物か……。


「これは……どうしましょうかねぇ……」


「やっぱ……怒られるよね? ……うん! ちょっと壊した事謝ってくる!」


 言うが早いか止める間もなく走り出すマルス、屋敷では『悪い事をしたらすぐに謝りに行く』と教育してはいたが、時と場合によるだろう、今はその時ではない。


「ちょっ……まーくん!? あ~もう! このままじゃ完全にお尋ね者ですって!」


 地下室の階段を駆け上がり、一直線に先程の取調室を目指すマルス、目撃した兵が警笛を吹き鳴らし、浮き足立った兵達が武器を構えて進路を塞ぐ。


「脱獄だ! 対象は先程投獄した少年! 迅速に捕らえろ!」


「おいおい、アダマント製の牢に入れて何で出てこれてんだよ」


「あっ、すいません、先程の兵長さんはどちらに……」


「止まれ! 逃走しようなどとそうはいかんぞ! 抵抗するなら斬る!」


 あくまでもにこやかに、友好的な笑顔を意識し歩み寄るマルス。両手を上げ敵意が無いというアピールをしているが、武器を持つ多勢に対し何も持たず笑顔で無防備に歩み寄るその姿は異様の一言。抑えども漏れ出る重圧(プレッシャー)も相まり、兵らが暴走するのも致し方ない状況であった。


「い……いりゃああぁぁぁあ!」


「とりゃあぁぁああ!」


「ちぇすとおぉぉぉお!」


 マルスの放つ重圧に耐えきれず次々に襲い掛かる兵達、だが、その剣の刃は、槍の穂先はマルスに触れると同時に砕け散り、そして放たれた魔法は届く事無く掻き消される。


「あの、責任者の方はどちらに……?」


「なっ、なんだこいつ! 化け物か!?」


「た、隊長に何をする気だ! ここは通さんぞ!」


 マルスは一生懸命話をしようと語り掛けるが恐慌状態に陥った兵達にその言葉は届かない……無理も無い、何の変哲も無い少年が大型の魔物にも似た威圧感を放ち、こちらの放つ刃も魔法も何も無いかのように無効化する。果たして我等の目の前に居る()()は何なのか? 悪夢でも見ているのではないだろうか?


「あ~……ようやく追い付いたと思ったら……これもう収集付かないですよ……」


 惨状を前にがっくりと肩を落とすラスティ、幸い怪我人は出ていないようだが騒ぎが大きくなればなるほど罪は上乗せ、下手すれば外交問題にもなりかねない。なぜにどうしてこうなった? 考えても始まらない、今は身元が割れる前にどう逃げるかを考えねば……。


「なんだ、楽しそうな事してんじゃねぇの、ちょいと儂も混ぜてくんね~かな?」


「っっ!」

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