渡り鳥は虐げられた令嬢を愛する〜ハネスト視点〜
誤字脱字報告ありがとうございます!
幼い頃から両親に女性には優しくする様に教えられてきた。だが、大人になるにつれハッキリ言ってしまえば私はクズ男とも呼ばれてもおかしくない程、渡り鳥のように女性との関係を持った。子供は出来ないようにきっちりと、避妊薬を飲みながら。
両親はそんな私に頭を抱えて注意するが、しかたない。女性の方から私の方に誘いをかけてくるのだから。だから私は色取り取りの花達を一夜限りの間愛でる。
今日は私の婚約者をと、両親が見つける為に開いた夜会だ。色取り取りの花達の中、壁の隅に震えながら俯く女性がいた。他の女性達は肌が見えるよう露出しているのに、壁の片隅にいる女性は肌を極力見せないドレスを着ていた。まるで修道院にいる修道女のようだ。それが逆に魅力的に見え、その女性に近づいていくと、社交界でも気性が荒いと有名なデゼル殿の婚約者、ステイシー嬢だった。婚約者のデゼル殿を探すとマリアンヌ嬢の所にいた。可哀想に、周りの令嬢達からクスクスと笑われ、こんなにも震えている。
私は自分から女性を誘った事は無いが、何故かステイシー嬢に最低と言うべきお誘いをする。だがステイシー嬢は余計に震えるばかり。だか、ステイシー嬢は少し考える様にし、私の手を取り休憩室へと連れ込んだ。
するとステイシー嬢が光を宿さない瞳で私を見つめていた。
「ノーデル様……」
「今宵はハネストと呼んで欲しいな」
「貴方はこんな汚い私でも抱けますか?」
「?君は何処も汚なくなんかないよ?」
ステイシー嬢が何を言っているのか、私は最初は理解できなかった。だがステイシー嬢がタオルで顔の化粧を落とすと、強く殴られただろう痣が現れる。思わず言葉に詰まっているとステイシー嬢は無言でドレスをするすると脱ぎ裸になる。
ドレスに隠れていた骨と皮だけの体にある無数の痣が体の殆どを占めていた。思わず手で口を隠してしまった。両親に女性には優しくと教えられて育った私には衝撃的だった。なぜか弱い女性にここまでの仕打ちが出来る?
「これでも汚なくないと言えますか?」
「君の噂は、本当だったんだね……まさかこれ程まで酷いとは……」
鼻で嗤うようにステイシー嬢が問うてくる。デゼル殿が気性が荒いと有名で婚約者にも手をあげてるのでは無いかという噂は本当だったのだ。私がした行動は彼女をより一層傷つけるものだとやっと理解した。彼女を守らなければ、それが私の最初の感情だった。
「君は彼処にいる様に命令されていたんだよね?ならば私が全ての責任を取ろう」
「責任?……大丈夫です。デゼル様やお父様からの暴力が一層酷くなるだけで、それを選んだのは私なのですから。だから、せめてこんな汚い私で申し訳無いのですが、純潔をもらってくれませんか?」
「君は汚なくなんか無いと言っただろう?」
「なら、何故抱いてくれないのです……」
「君を守りたいと思った。こんな形で君を傷つけたく無い」
私は身体中痣だらけのステイシー嬢が痛く無いようにと優しく抱きしめめ、髪を梳く。
「今更だが、抱きしめて痛いところは無いかい」
「……ありません」
「そうか、良かった。このまま眠ってしまいなさい。此処には誰も君に暴力を振るう人間はいないよ。……大丈夫、大丈夫」
体を強張らせていたステイシー嬢から力が抜けていき、涙を流しながら眠りについた。
「朝起きたら、君の未来は私が変えてあげよう」
これ以上君が傷つかない様に。朝になり、我が屋敷に留まる様に説得し、デゼル殿の屋敷へ向かう。ステイシー嬢の痣の事を持ち出すと、顔色を変え金を渡され口外しない様にと言われた。そしてステイシー嬢をこれでもかと言う程罵る伯爵夫妻。聞いていて耳障りな言葉ばかりだ。
痣の件をだして私がステイシー嬢を婚約者にすると言うと、言葉を濁しながらも伯爵夫妻は頷いた。
次にステイシー嬢の男爵家へ向かう。そこではステイシー嬢の両親とは思えないほど傲慢な両親だった。ステイシー嬢の痣の件を言ってもしらばっくれ、私が金を渡すとまるで物を売る様にステイシー嬢をあっさりと見限った。
もうステイシー嬢を脅かすものは無い。だが何故か私にはステイシー嬢を害していた者達が怒りで許せなかった。
屋敷に戻り話をすると、ステイシー嬢が床に這いつくばりお礼をいう姿に悲しみが湧く。君は何一つ悪く無いのに。
それからというもの、私はステイシー嬢にあれこれと自ら世話を焼き、痣が消えても、体が健康な状態になっても心配でしょうがなかった。刺繍の針でステイシー嬢の指に傷がつくと私は悲鳴を上げんばかりで手当てをし、食事を残せば医者を呼ぶという過剰とも言える感情をステイシー嬢に向けていた。この感情はなんだ?四六時中ステイシー嬢のことばかり考えてしまう。他の令嬢達の誘いも全て断り、ステイシー嬢しか目に入らない。
悪友のマーセルに言われた事でその感情に気づいた。
「そりゃあ、恋だな!!」
「違う、愛だ!!そんな可愛らしいものじゃ無い!!」
咄嗟に私は叫んでいた。それからというもの、ステイシー嬢が微笑むだけで有頂天になり胸のトキメキが止まらない。もう彼女が天使か妖精か何かにしか思えなくなっていた。
貴族院に虐待を訴えるだけでは足りず、呪いの人形を購入し、デゼル殿にちまちまと呪いをかける。私の天使によくも暴力を!!クソ男が!!私が言えた事では無いが……
――――――――――――――
今日はやっと私の天使との結婚式だ。胸がドキドキしすぎて若干吐きそうだ。
真っ白なドレスを纏う天使に見惚れてしまい、いつの間にか神の誓いを私は全く違う言葉で発していた。
「私の天使、どうか私を見捨てないでくれ!!確かに私はクズと言っても良い男だったが、私はもう君しか見えない!!神よ!!私に天使を遣わしてくれて感謝します!!」
「ハ、ハネスト様……そのくらいで止まって下さい」
私の天使は顔を真っ赤にして愛らしい。愛らし過ぎて鼻血を出した私は悪くない。