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爆轟のマッドワイズマン  作者: 新聞紙
魔法使いの章
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境目にある魔法使いの城(前編)

 弱い者が強い者に出会った時にすべきことは、絶対に死なないことだ。死んでしまえばそこで終わってしまう。


 だが、生きていれば、何かかしらのチャンスが巡ってくる。


 たとえ奴隷のように扱われようと、どんなに痛めつけられようと、生きてさえいれば、希望は失われない。死んだらそれすらなくなる。


 だから、生き続けなければいけない。何をしてでも。命以外をすべて失うことになっても……。



 月のきれいな夜空を、魔法使いと子どもの竜が飛んでいる。子ども、と言っても図体は大きく、人間を3、4人は運べるような大きさ。だがまだ鱗が柔らかく、ほとんど防御面は期待できない。成長すれば鱗が固くなり、まさに最強の獣、と言えるような姿となるのだが……。


 さて、とりあえず命を維持した。よく分かんないまま魔法使いについてきた子どもの竜は、一度大きく息を吐いた。

 こういう強い奴が「自分に従え」と言うのなら、おとなしく従っていた方がいい。強い者が弱い者を従えるのは当然だし、それだけで生き残ることが出来るなら最高じゃないか。


「残念です。あなたは、心の底から僕の使い魔になって下さるわけではないのですね」


 ——! なんだって? こいつは心の中を読み取ることが出来るのか? まずい……。ここで機嫌を損ねたら本当にまずい。


「な……、なんてことをおっしゃいますか! 俺、いっ、いやわたくしは、あなた様の忠実な……」

「僕には、あなたの心の奥底を動かすような魅力がありません。ですが、是非ともあなたに僕の使い魔になって頂きたいのです。お願いします」


 調子狂うな……。今まで俺を襲って来た奴は、もっと高飛車だったし、割と凶暴な性格の奴が多かった。強すぎると、そういう凶暴さとか横暴さもなくなるものなのか?

「え、ええ……? ど、どう反応すればよろし……」

「わざわざ変な言葉遣いをしないで下さい。お疲れでしょう。もっとリラックスして下さい」

「は、はあ……」


 こんな強い奴の隣でリラックスしろってか? こいつ、自分が何を言っているのか分かっているのか? そもそも、なんで俺にこんな態度をとるんだ?

 子どもの竜は分からなくなった。今までの経験とは違う緊張が走り、その緊張が、自然と竜の口を動かした。


「……どうして、どうして、俺なんかにこんな接し方をするんだよ」


「はい? もしや、僕が何か失礼なことを——」

「そうじゃねぇ! 俺は、弱くて、何も守れない、ずっと奪われてばかりな弱いモンスターだ。だけどお前は、圧倒的な強者だろ? そんな奴が、どうして俺みたいな、俺みたいな……」


 改めて、自分の弱さを噛みしめた。こんなにも自分は弱い。竜は目に涙を蓄えた。


「なるほど。そういうことでしたか。つまり、僕があなたをスカウトした理由が分からない。このことがあなたにストレスを与えていたのですね」


 魔法使いの言葉には感情がこもっていない。ただ事実を読み上げたかのような、冷たい言葉が流れてくる。

 魔法使いは大きなゴーグルと、口元にも謎のマスクを装着しており、全く表情を読み取ることが出来ない。

「ああ、ああ、そうだよ! 俺にここまでするのがどうしてか分かんないんだよ。俺みたいな——」


「“投資”だからですよ」


 この言葉はさらっとしていた。感情が全くない。

 言葉と言ってはいけないかもしれない。言葉ならまだ、お世辞か本気か、本音は何なのか、いろいろ探る余地がある。


 だが、これは『言葉』じゃない。口元から発信した、音という媒体と使ってこちらに届けられる『情報』だった。


「確かに今のあなたは弱い。それは紛れもない事実ですし、あなたが一番よく分かっているでしょう。しかし、あなたはこれから成長するポテンシャルが非常に高い。これでも、こちらの分析能力と情報の集積量はかなりのものですからね。それらのデータを瞬時に統合し、あなたの潜在能力、未来の可能性を算出したのです」


「え……」


 これは情報だ。心なんかない。ただ事実を並べただけ。だが、それが、妙に心に刺さった。何を思っている。こんな、心のない情報に言われて何になる。こんなものに心を動かされてたまるか。

 竜は、必死に心の平穏を保とうとした。だが、平穏を保とうとすればするほど、どんどん心が動かされていく。


 「ですから、あなたの『未来』に、投資させて頂きたいのです」


 ぶわっと、心の中の何かが溢れた。ずっと溜め込んでいたもの、押さえつけられていた何かが外れた。

「う……。お、俺、ほんとに弱くて、母さんも殺されて、弟も失って、ずっと……。ずっと、何も出来なかった。そんな俺を、ここまで……」


 ぼわん。


 ——! 一体何が起きた? 突然周りの風景が変わった。


 きれいな夜空は姿を消し、代わりに、何かトンネルの中のような風景になった。


「さて、やっとその気になって頂けましたか」

「ど、どういうことだ?」

「申し上げたでしょう? 『あなたは、心の底から僕の使い魔になって下さるわけではないのですね』と」


 魔法使いは淡々と情報を発信してくる。

 そうか、俺がその気にならないと、このトンネルみたいな奴が形成されないわけだ。逆に、俺はもう、心の底から魔法使いの“下僕”となってしまったのか。

 何とも言えない気持ちを抱えながら、竜はただ進んでいた。

「さて、もうそろそろ抜けますよ」

魔法使いがそう言ったとたん、トンネルの先が光り出した。そこを通り抜けたとき、竜は目の当たりにした。今まで見たことのない光景を。


 ——なんだこれ。


 目の前に広がったのは、巨大な城郭だった。大きな城壁が広大な土地を囲い、その中に巨大な建造物がいくつも築かれている。そして、中心部にそびえるのが、巨大な天守。石造りのような、だが何か違う。まるで、巨大な鉄の塊を削りだしたかのような天守が、大きくそびえ立っている。


「ようこそ、僕の城へ」

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