魔剣救助
魔剣。通常の剣には持ちえない特別な力を宿し、その所持者に大いなる力を与えるものだ。魅力的な響きではあるがその実、所持者の周りでは多くの血が流れた。それ故人々は魔剣を”邪悪な力”、”災禍をもたらす剣”などと呼ぶようになった。
・・・でもそれっておかしくないか?
剣は武器であり力だ。純粋でとても単純なものだ。それを戦場で剣の所持者達が使い多くの血を流したのだ。そいつらとそんな剣を作った者達こそ”邪悪”と呼ばずに何と言う。
勝手に作っておいて迷惑な話だ。
何が言いたいかというと、魔剣である俺が魔王の手によって数多の人々を殺めていたとしても清廉潔白な存在だという事だ。
・・・そう、俺は何も悪くない・・・。血を流す奴が悪い。
生前、俺は人間だった。訳あって今は魔剣だ。そして同時に魔王アルバの白骨化した亡骸の隣で地面に突き刺さったまま身動きが取れずにいる。・・・あの野郎、な~にが「俺こそが世界最強!!」じゃ。殺されてんじゃねえか勇者に。おかげで俺は城の最深部でもう百年も放置・・・ッ!サイアク~!
魔剣の力だからなのか知らんが精神はずっと安定している。しかしいかんせん話相手がいないのは辛い。しゃべり方を忘れそうだ。巷で伝説にまでなっている魔剣の先輩方は自分で浮いたり空を飛んだり出来るんだが残念ながら生まれて百年そこそこの俺ではそういうのは出来ねえんだ。ちくしょう。
本当にあの勇者一行が憎い。連れの天使は、まあ分かる。あれは別格だ。だが90近そうなジジイ勇者とおばちゃんヘルパーに負けたという事実が受け入れられんのよ。あれからずっともやもやしてんのよ。どうしてくれんのよこの気持ち。
だがこの百年近く半ば幽閉に近いこの生活にも終わりが来たようですよ。何故なら数人の人の気配を感知したからだ。いや今までも何回か感知はした事は実はある。だがそいつらはこの最深部に来る途中にあるアルバが遊び半分で作ったくだらねぇトラップに引っかかって死んでいった。無様すぎる。しかしながら今回の連中は少しは頭が回るようでトラップに引っかかる事無くこの階層にやって来れたようだ。いや~助かったわ~。どうせ俺の力が欲しくてやってきたアホ共だろうがこの際どうでもいい。とにかくこの地面にぶっ刺さった状況を脱する事が出来れば何でもいいわ。
俺の前に現れたのは4人の人間。
「ようやく見つけました。魔剣アオバ」
4人の内の一番小柄な人間から少女の声が聞こえてきた。被っていたフードを取るとまだ10代半ばくらいの見た目の少女の顔があった。ブロンド髪がよく似合う美少女である。ため息が出る。俺のタイプではないからだ。俺はもっとこうスタイルのいい賢そうな大人の女が来て欲しかった。そういう奴を無茶苦茶にするのがす・・・いやよそう。
他の三人は鎧の重装備で固めた屈強そうな騎士達だ。胸の部分に見える十字架を模した紋章を見てピンときたよ。おまえら教会の連中だな。まあいい、立場的には敵同士だったが今までの事は水に流そうじゃない。俺は今やフリーの身だ。さあ、とっとと回収しちゃって下さい。
「では早速・・・」
さあ、カモン!
「破壊しましょう」
最悪だ・・・。
そう言うとブロンド女はおもむろに右手に塩、左手に鉄ハンマーを取り出しやがった。方法が浅はか過ぎるだろォ・・・ッ!そんな方法で本気で俺を破壊出来ると・・・、いや塩を撒くな塩を!
「・・・よし、これで魔剣の邪気を祓いました」
祓えるかァ!祓われてたまるか塩撒かれたぐらいでェ!!そもそも俺に邪気なんてないわ!なんて失礼な女だ。
「後はこの聖なる大槌で・・・」
ブロンド女はハンマーを両手で握り直し大きく振り回してきた。当然まともに叩かれたくないので魔力ではじき返す。いとも簡単に弾かれた女は尻もちをついた後予想外の出来事だったのかきょとんとした顔になった。後ろの三人からも驚きの声が聞こえてきた。
「シスター!大丈夫ですか?!」
「平気です・・・どうやらまだ邪気を祓えていなかったようですね・・・」
俺の魔力を邪気と呼ぶかよ。そんな禍々しい力に見えるのか?再び懐から大量の塩を握りしめる姿が見える。厄介な。とりあえず勿体ないからその塩しまえ。
「破壊・・・必ず破壊します」
眼が本気だ。アルバに親でも殺されたのか?だが待って欲しい。だからって俺を恨むのは待って欲しい。恨むならアルバを恨んで欲しい。アルバの事を嫌いになっても俺の事は嫌いにならないで下さい。
運動不足なのかシスターはもう肩で息をしている。とても俺を壊せる様には見えん。後ろのお三方も手伝った方がいいよ。一回四人でちゃんと話し合って。・・・何で俺がお前たちを応援してんだふざけんな。
流石に騎士の一人が見かねてシスターの方に歩み寄ってくる。そうそう、ブロンドちゃんも一回冷静になった方が・・・。
びっくりした。ブロンド女が刺された。後ろから歩み寄ってきた騎士男に。突然胸を貫かれた。
「・・・ッ!?・・・ウッ・・・ゴフッ・・・何を・・・?」
「お許しくださいシスター・レーナ。全てはナミカミ様の御意思です」
胸から血を流して地面に崩れ落ちたブロンドシスター女。心臓を一突き。即死は出来なかったようで苦しそうに地面を這いつくばっている。
「ぐッ・・・うぅ・・・ど、どう・・・・・して?」
「あなたの”魔剣を感知する力”は危険なのです。恨むならそのような悪魔の力を授けた祖先を恨みなさい」
「・・・わ、私は・・・き、教会・・・に・・・・・・・して・・・・・あ・・・い・・・・・」
・・・急展開すぎる。いきなりやん・・・。シスター女は涙を流したまま息絶えた。こんな教会の中のいざこざに俺を巻き込まないで欲しい。気分悪いわ。
「シスター・レーナ。あなたは魔剣アオバの破壊に失敗し、不慮の事故によって命を落としたのです。しかし悲しむことはありません。あなたの死は必ずやこのリュインヌに繁栄をもたらすことでしょう」
息絶えたシスターを見下ろしながら騎士男はそう告げると今度は俺の方に寄ってきた。
「グラン隊長。流石に危険では・・・」
後ろで待機していた残りの二人の騎士が心配そうに駆け寄ってきた。グランと呼ばれた男は鬱陶しそうに後ろの二人を一瞥した。
「今回の任務はシスターの暗殺と魔剣の回収です。ここで魔剣を持ち帰る事が出来れば私の教会での地位も一気に上がる事でしょう。私と共に楽しい人生を歩みたいのならそこで黙って応援していなさい」
グランが俺の柄に手を伸ばしてきた。手汗滲みまくってるぞ。ちゃんと手を拭いてから握って下さい。
思いのほか俺はあっけなく、簡単に地面から抜けた。
「・・・素晴らしい、これがアルバが振るっていた魔剣。この世界には存在しない『katana』と呼ばれる技術が取り入れられているそうだ。伝承によれば天使の『天衣』や鬼の放つ瘴気すら絶つらしい」
残念だが人違い、もとい魔剣違いだ・・・ッ!やった事ないぞそんな事・・・ッ!どこのゴシップ伝承だそれは!?
「おお・・・流石魔剣。こうして持っているだけで力が流れ込んでくるようです」
そりゃ良かったな。それはただの気のせいだ。
グランは俺を持つと辺りを見渡し始めた。何かを探しているのか?
「これを納める鞘があるはずですが」
ねえよそんなもん。ある奴もいるが俺には必要ないんだよ。
「しかしおかしいですねぇ。魔剣を持てば絶大な力と魔力を手にする事が出来るはずですが・・・、まだそれほどの兆候は見られない」
そうそう渡せるわけないだろ。そんな事したらいきなり廃人になるぞ。俺の場合は並の人間には使用出来ない。だから今まで魔王にこき使われていたわけで・・・。とにかく俺を外に出してくれ、そういうのはその後だ。
「グラン様、まさかその剣は偽物なのでは・・・」
おいやめろ、余計な事を言うんじゃない。そんなはずないから。どこからどう見ても魔剣ですから!
「ふむ、ならばこれで確かめればいいだけですよ」
そう言うとグランは懐から白い小さな小瓶を取り出した。嫌な予感がする。聖職者に関してそんなに知識は明るくないが明らかに俺に何かする気だなコイツ。
続く、のか?