4話 死者の国
王都に向かう道中。
俺は盗賊を見かけた。
「おら!こっちこい!」
「や、やめてくださいっす!」
どうやら男の盗賊が女の子を連れ去ろうとしているらしい。
「エルフは高値で売れるんだよお前ら絶対逃がすなよ?!」
ここまで聞こえてくる会話で女の子がエルフの少女である事が分かった。
とりあえず助けよう。
見てしまったものは仕方ない。
「何してんだ?」
だが一応穏便に済ませようという気もなくはないので、とりあえず盗賊達に近付いて質問してみた。
「あ?なんだてめぇ?」
俺を睨んでくる盗賊の男2人。
「何をしてるんだと聞いている」
「やっちまうか?」
「そうだな。女二人に男一人に猪1頭じゃ俺らには手も足も出ないだろうしな」
男2人がそう意見をまとめて俺たちに襲いかかってくる。
しかし
「甘い」
遅い。
「かはっ!」
「ぐはっ!」
殴りかかってきた盗賊の拳をしゃがんで避けると顎を殴りつけて、もう1人は顔に回し蹴りを叩き込む。
それで沈む2人。
「ふぅ………」
久しぶりに体を動かしたが何とか動けて良かったな。
そんなことを思いながら少女に声をかける。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫っす!でも今の何なんすか?!」
「え?」
「凄すぎっすよ!今の流れるような動き方!私も教えて欲しいんすけど!」
そう言って俺の両手を掴んでくる少女。
「こう、しゅぱぱーんと2人やっつけたの凄いっす!」
「そうか?」
「凄いっすよ!本当に凄いっすよ!私ファンになっちゃいました!」
そう言ってきゃっきゃと俺に抱きついてくる少女。
「お名前教えてください!私はフィーネです!」
「ルイスだ」
そう答えておく。
「ルイスさんですね!私ファン1号になりますね!一生ついていきますっす!」
何故か俺にファンが出来た。
※
フィーネを連れて何とか俺たちは王都までやってきた。
王都の広場までやって来ていた。
ここに来るまでに入手した情報をまとめると俺たち以外の村にも魔王軍の侵攻があったらしい。
それはこの王都も例外ではなかった。
「バリケードを作れ!第二波が来るかもしれん!急げ!」
衛兵が叫ぶ。
どうやら先程の攻撃を受けて王都を守る壁を堅牢にしているらしい。
王都バラン。
この国は360度を高い壁に囲まれた言わば要塞のような国だった。
壁の役割はもちろんモンスターからの攻撃を凌ぐためのもの。
「他のことはやらなくていい!兎に角壁の補強を急げ!」
兵士が叫ぶ。
先が見えない事によって俺の中にも不安が募っていく。
「俺たちにも何かできないだろうか」
そんなことを呟いていた。
「それならいいのがあったよ」
ニーナがそう口にした。
「訓練生募集って張り紙があった」
ほらと言って壁に人差し指を向ける彼女。
そちらに目をやると確かに張り紙があってそこには訓練生募集と書いてある。
「でも、訓練生って?」
「これから魔王の攻撃が激化することを考えて少しでも戦える人間を増やしたいんだって、そのために私たちみたいなまだ若い人達を募集して訓練するんだって。戦えるようになるまで」
なるほどな。
それなら俺達にもやれるな。
今は何の役にも立てなくてもそのうち戦力になって役に立てるだろう。
「えーメンドクサインデスケドー」
だがエリザベートがそんな事を言い出した。
「なんで何で私が動かないといけないノカナ?」
「お前は俺の駒だろう?つべこべ言わずにやれ」
「嫌なんだけどー」
こいつ使い魔の癖になんなんだ。
「嫌でもやらせる」
「うへぇー」
何だかんだ言ってはいるが主従関係のお陰かそれ以上何か言ってくるようには見えない。
「とりあえずこの試験場とやらに向かおうか」
張り紙には何処で試験をやるかとかが書かれていた。
どうやら無制限に募集しているわけではなく、訓練生になるために試験が必要らしい。
どの程度付いてこられるかを測るんだそうだ。
「でも、それってこの猪大丈夫なんすかね」
フィーネがボタンを見ながらそんなことを口にした。
「大丈夫だと思う。いざとなればアイテムポーチにでも突っ込んでおくし」
「キュムキュム」
ほら本人も問題ないと言っている。
「なら、大丈夫そうっすね、行きましょう」
※
俺たちは試験場までやってきた。
「よく来てくれたな、お前らの試験をさせてもらう。とりあえず名前を順番に教えてくれ」
スキンヘッドのおっさんがそう圧をかけながら言ってくる。
「ルイスです」
俺に続いて各々返事をするニーナ達。
「よしお前らの名前は分かった」
そう言ってもう一度俺達を見る試験官。
「順番にこの水晶に手をかざしてみろ」
「じゃあまず私からやるね」
ニーナが1番最初にそう名乗って手をかざす。
するとポーっと緑色の光を放つ水晶。
「合格だ」
「ほんとですか?!」
「あぁ。合格だ」
喜ぶニーナ。
そして次にフィーネも合格した、それから
「えぇ?私もやるのカナ?」
「やれ」
「はぁ………」
何故お前が溜息なんだよ。
それを吐きたいのは俺だ。
「エリザベート合格だ」
そして彼女も合格した。
最後に残ったのは俺。
「ゴクリ」
唾を飲み込んでから手を水晶にかざした。
しかし
「不合格、だな。帰っていいぞ」
俺が水晶に手を当てても何の変化もなかった。
ニーナみたいに、フィーネみたいにエリザベートみたいに変化が起きることはなかった。
「俺が不合格?」
だけれどそうですか、と現実を受け入れられなかった。
「あぁ。お前は不合格だルイス。帰っていいぞ。力無きものは去るのだな」
試験官がそう言ったのを聞いていた周りの連中がゾロゾロ集まってきた。
「おいおい、こんな簡単なテストすらパスできねぇのか?お前」
「すげぇなぁ。こんな馬鹿でも通るようなテストで落ちるなんてお前才能あるな」
そうやって俺を馬鹿にするために近付いてきたらしい。
だがそんな言葉は俺の耳には入らなかった。
不合格?
俺が?
「帰っていいぞルイス」
「………」
悔しさに拳を握りしめた。
何で俺だけ通らないんだ?
「………分かった」
「ルイスが合格しないなら私も辞退します」
ニーナはそう言ってくれたしフィーネもそれに続いてくれた。
「はぁ………私は離れらんないからナァ」
結局みんなで辞めることになった。
俺は俺から多くを奪った魔王を倒したい、目的が一致しているだけじゃやっぱりだめなのか。
なら自分で自分だけの国を作るしかないのだろうか?
死者の国を。それなら俺は魔王を倒すことだけに打ち込むことができるが。