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1話 最後の休息

 俺の名前はルイス。

 15の孤児だ。


 何年も前に起きた魔王軍との戦争で身内を失い、スラムをさまよっていたところ


「おや、ルイス。また本を読んでいるのですか?」


 今俺に話しかけてきたこの神父のローエンに拾われた。

 拾われたのは俺だけじゃなく他にも沢山いた。


 そういう奴らが集まって今俺の暮らしている村が出来上がった。


「そうだね。また本を読んでいるよ」

「何の本ですか?」

「勇者の話だよ」

「勇者、ですか」


 黙って頷く。

 俺は勇者に憧れていた。


 強くて優しくて誰かの役に立って皆を守れる、皆を救えるそんな勇者に憧れていた。

 小さい頃からずっとずっと。


 俺が勇者になることが出来ればあんな悲劇もう誰も見ないで済むんだから。

 俺は自分で実際に地獄を見てきたから分かる。


 もう誰もあんな記憶に苦しまなくていいんだ。


「両親の燃える音と焦げた肉の臭い、まだ思い出せる」

「忘れなさいルイス。貴方の精神を蝕むだけだ」


 そう言われても俺は一生忘れることがないだろう。


「キュムキュム………」


 俺がそんなことを話している横で小さく声を出した生物。


「ほら、ボタンさんもそう言っていますよ」


 ボタン、ボアだ。

 本来人間には懐かないと言われるモンスターのボア。


 何故か俺には懐いている。


「あー探したんだからールイスー」


 その時声が聞こえた。

 女の子の声。


「あ、神父さんもいたんだ」

「いましたよ。ニーナ」

「ぶー」


 何故か頬を膨らませる女の子ニーナ。

 ニーナは俺と同じく15。


「ならおじゃま虫は消えるとしますか」


 フッと小さく笑って神父は教会に戻っていく。


「ねぇ、ルイス」


 俺の横に座ってくるニーナ。


「ん?」

「私来月から王都に行くんだ。知ってるよね。この前の神託の儀式で私には賢者としての才能があったこと」

「知ってるよ」


 俺はネクロマンサーだ。

 この適正ジョブが神託の儀式で伝えられた時、馬鹿にされまくったのを今でも思い出せるし俺はこのジョブが嫌いだ。


 何が嬉しくて死んでしまった奴らを自分の駒にしないといけないんだ。

 しかもオマケに弱い。


 所詮死体は死体だ。

 それを動かしたところで何の意味もない。それならテイマーの方がいい。


 俺は一生このジョブのスキルを使うことは無いだろう。


「忘れないでね、私の事」


 ちょっと頬を赤くしながらそう言ってくるニーナ。


「私が帰ってくるのをここで待ってて欲しい。いつ帰って来れるかも分からない。でも、待ってて欲しい」

「魔王討伐頑張れよ」


 小さくそう言って本をパタンと閉じた。

 俺は勇者にはなれない。


 現実に目を向けよう。


「ルイスはどうするつもりなの?やっぱりネクロマンサーとして活動するつもりは無いの?」

「死体を動かすなど悪趣味過ぎる。やらないだろうな。俺は何処か適当な場所で働こうかなって思ってる」


 ジョブがあるからと言って必ずしも使う必要は無い。

 それなら冒険者達の活動を支えるという道も選べるのだ。


 例えば酒場で働いたりギルドで働いたり。

 何もジョブを活かさないといけない訳では無いのだ。


「そっか、なら私もルイスの働いてる店に行くこともあるのかなぁ」

「来てくれた時はサービスしよう」

「クビにならないでよ?」

「上手くやるさ」


 そう言って軽く笑うと立ち上がる。

 そろそろ時間だ。


 あんまりここで時間を潰すと後が大変だ。

 

「ローエンに頼まれた仕事がある。じゃあね」


 そう言って俺は彼女に手を振り村を出ることにした。


 だが俺は知らなかった。

 この選択をこの先一生後悔することになることを。


 この時彼女と別れなければあの結末は避けられたのかもしれない。



 俺はニーナと別れたあと近くの森に採取に来ていた。


「キュムキュム」


 ボタンの考えていることは分からない。

 ずっとキュムキュム言ってるだけだ。


「キュムキュムキュムキュム」

「テイマーならお前の気持ち分かったのかもな」


 動物やモンスターを使い魔として使役するテイマーであれば会話することも出来るみたいだが、生憎俺は地上で最も嫌われているジョブのネクロマンサーだ。


 会話など出来るはずもない。


「キュムキュム」


 何を言ってるか本当に理解できない。

 ただ機嫌は悪くなさそうだ。


「ギィ!」

「キュムキュム!」


 ゴブリンが出現した。

 ボタンが戦闘態勢を取りそのまま突進。


 ドゴン!ボタンがゴブリンを倒した。


「キュムキュム」


 直ぐに俺の元に戻ってくるボタン。

 本当にボタンには助けられている。


「お前もしかして俺があの時に助けたから付いてきてくれるのか?」

「キュムキュム」


 相変わらず何を言ってるか分からないが俺は今までのボタンとの思い出を思い出す。

 俺とボタンが出会ったのは俺が全てを失ったあの日だった。


 傷だらけのボタンを見つけて怖かったけど、それでも連れていき自分が食うのにも困っていたのに必死に回復まで見守っていた。


 それに恩義を感じているのだろうか。


 今となっては家族同然だ。

 ボタンがどう思っているかは分からないが。


「キュムキュム」


 別に俺に顔を押し付けてきたりはしない。

 でも、懐いてるんだと思う。


 そんなことを思いながらローエンに頼まれた薬草を採取する。


「これ、だな」

「キュムキュム」


 相変わらずずっとキュムキュム言ってる。


「さてと、帰ろうか」


 薬草をアイテムポーチに詰め込んだ俺は村に戻ることにした。

 早く戻ってあげた方がいいだろう。


 ローエンは病気をした子供を治療したいとそう言っていた。

 なので早く戻って薬草を渡した方がいいだろう。


 初期の対応が大事だという話を聞いたことがある。


「キュムキュム」


 横で変な声を出すボタンを連れて俺は村へ帰ることにした。

 言われた通りの薬草を取ってきたがこれで直るといいんだがな。


 でも、治らなかっとしてもローエンが何とかしてくれるだろう。

 彼は何たって凄い人なんだから。


 さ、早く帰ろう。

新連載です。

ここまでお読みくださってありがとうございます。


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