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実々 : 振り向けば…トムが居る

是非、実々視点の【やさぐれ実々兵衛】をご覧になってからお読み下さい。

古墳時代編が終了した翌日の実々視点の話です。


12月4日 (火) 朝


 夢のせいでゲンナリした気分の中、朝食になんちゃってピザトーストを頬張りながらテレビを観ていた。

 すると突然、リビングと寝室を繋ぐ引き戸の向こう側から少しくぐもった声が聞こえてきた。


 「只今より【劇団おざ】の単独早朝公演、『何度目かの再会』を行います。お手持ちのピザトーストはそのまま召し上がって下さっても構いませんが、私語はご遠慮下さい」

 「えっ!何っ!?ちょっ…!あーちっ…」

 

 えっ???な、なに!?というかピザトーストってバレてるーーー?!


 ブーーーーーーーッ!【ブザーの音】

 ガララララッ!【引き戸を開けた音】


 ブザーの音を口で言ってた…。そして何か出てきた……コワイョー、オカアサーン!!


 「買い物も済んだし、のんびり帰ー…」

 ゴリッ!

 (……まさか銃口を背中に?!というか口で効果音も全部やるのか。)

 「こちらを向かずに、大人しく従って貰おうか」

 (……なんて悪役らしいセリフ!)

 「…分かったわ」

 「良し、良い子だ。そのまま真っ直ぐ目の前のカフェに入るんだ」

 「……トム、何のつもり?」

 「ミミは肩甲骨あたりに思い切りめり込んだ、トムの人差し指の痛みを根性で堪え、視線だけを後ろに向けつつ気丈に返した」

 

 まさかのミミ&トム!!いつかの再来か!!そして銃口じゃなくて指だった!!これは痛いっ!!本当になんのつもりだ…トムよ。


 トム:「ま、ちょっと話したいことがあってね。他でもないミミにね」

 ミミ:「そう……。でも、先に言っとくけど…」

 ナレーション:「そう言うと同時にミミは大きく一歩を踏み出し、スカートをふわりと広げながらトムの方に向き直った。そして、後ろ手に手を組みながら少し前傾姿勢になり、勝ち気な表情を浮かべた上目遣いで口を開いた」

 ミミ:「連帯保証人にはならないわよ」

 (……何の話だ。えっ?!トムはお金無いの?そしてミミ!今すぐトムと縁を切りなさい!!)

 トム:「HAHAッ!おー怖い怖い」

 ナレーション:「トムは出会った頃から少しも変わらぬ親友と、この温かい関係がいつまでも続けば良いなと心から思った。そして、いつか必ず来る別れを今一時は考えぬように、殊更明るく笑い返すのであった」


 パチパチパチパチ【拍手の音】


 温かさ感じなかったけど……。というかカフェの前で止めなさい。迷惑だから。


 ナレーション:「以上を持ちまして、劇団おざの公演を終了させていただきます。ご静聴誠にありがとうございました。お帰りの際はお荷物等をお忘れなさいませんようお気をつけ下さいませ。出演・演出・脚本、小澤麻来。ブザーの音、小澤麻来。ナレーション、小澤麻ー…」


 荷物とかないよ!勝手に巡業で来たんでしょ!?強いて言うならピザトーストしか持ってないから!!……じゃなくて!!


 「いやいや、最後まで言わせないから!全部あーちじゃん!」


 思わず声に出してツッコミを入れてしまった!

 ツッコミはあーちの好物なのに…っ!……くっ!!

 望み通りの反応をした私に気を良くしたあーちは、待ってましたと言わんばかりに口元に人差し指を当てつつ 「ふへっ」と悪役っぽく笑ってきた。

 というか、まだあーちは朝食も食べていないのにいつぞやの紫のプリーツスカートを履いているし、しかも常にスッピンノーメイクなのに今日はなんかメイクもしちゃってる……まさか発作的に思い付いた寸劇がやりたいが為だけにフル装備したの??ご苦労だな!!

 そして口元が笑いを堪えきれないって顔をしながらまた寝室への扉に手をかけて退散しようとしているけど……ちょ待てよ!!逃さねぇぞ!!

 

 「で、結局なんなの?」


 連日の睡眠不足の苛立ちも相まって指一本では足らず、右手の指全部で食卓をカッカッカッカと強めに叩きながら一連の小芝居の意味を尋ねる。

 すると何故かあーちがプリプリ怒りながら言い返してきた。


  「もーっ!折角良い気分で舞台袖に引っ込もうとしてたのにー。そんでもって、メッセージ伝わって無かったんかい!」

 「何、勝手に観客にされた私に憤ってんのさ。責めるべきなのはあーちのやっすい演技力と台本のチープさでしょ。[金の切れ目が縁の切れ目]ってしか分かんなかったから!」


 『連帯保証人にはならないわよ』って普通の会話で出てこないから!絶対トムはこれが初めてじゃない!以前にも何回かミミにお願いしているとみた!


 「なんだとうっ!?」


 その時、あーちの反論に合わせてあーちの腹から獣の唸り声の腹の音まで『グォォッ…』と抗議するように鳴り出した。…腹にモンスター居るぞ。

 モンスターの宿主は腹の獣が鳴き続けているのをさも聴こえていないかのようなスマイルでさらに言葉を続けてきた。


 「今日は図書館に行くでしょ?で、その前でも後でも良いからお茶しよーって言いたかったのー…」

 グォォォォォッ!グォッ?

 「あ、喋ってる途中でめっちゃ鳴っちゃった」


 ………わかるか!!お茶のフレーズ一度しか出なかったでしょ!しかもミミはグリってやられてるし。……というか腹の音っ!!


 「そんなもんスっと言えや。私の時間返せ。そしてその煩い腹の音どうにかしろ!」

 「んー。じゃあ着替えてくるわ」


 グォォォォォッ!ガラララーッ!


 最後にあーちの腹の音と引き戸の音が共鳴してまた一段と大きい音を立ててあーちは戸の向こうへと消えていった。

 扉の向こう側から 「ふっふふーん♪」と【グォォーッ♪】という音が聞こえてくる中、私は残りのピザトーストを遠い目をしながらお腹の中におさめたのだった。



*****

 

同日 お昼過ぎ 


 「おー!暖かいねー!小春日和通り越して初夏ですな」と、言いながらあーちは歩きながら回り出した。

 「くるくる手を広げて回りながら話し掛けないで、身内ってバレるから」


 そんな私の嫌みに対し、すかさず「喋らなくとも大体の人からバレてるから」と、あーちは広げていた腕を『ちょっと奥さん』と話しかけるような仕草にして残酷な現実を突きつけてきた。

 私はもうほぼ反射で眉間に皺を寄せて、そのままいつもみたいに『家族に恥ずかしいと思わせるのは恥ずかしいことじゃないの?』とか『おい、やめろアラサー!』とかツッコミを入れてやろうと思ったけど………やめた。

 今日はここ2日間の睡眠時の疲れをとるんだ!と思い直し口をつぐむ。そして図書館に居るであろう天使とおじ様を頭の中で思い浮かべて苛立つ心を鎮めるように努めた。……癒されたい。

 それに今日はあーちチョイスだけどお淑やかな格好をしているから、髪型が変わると性格も変わるじゃないけど、服装に合わせていつもの尖った(?)心に気持ち丸みを持たせよう心がけた。…私はお淑やか。怒らない、怒らない……。

 そして歩くペースもいつもの競歩ばりのスピードではなく、のんびりお散歩しているような速さに自然となっていた。…決してかなちゃんを産んでからめっきり履かなくなったヒールを履いて歩きにくいからでは無い!


 家を出て数分、あーちがふいに辺りをキョロキョロと見回しだしたと思ったら急に「とりゃっ」と言いながら数歩駆け出した後に右斜め上にジャンプし、着地間際に靴の内側同士をぶつけるという謎の行動を取ってきた。

 ……やだ怖い。


 「うわぁっ!惜しかったよぅ…ほぼ地面でクリックしちゃった。くっ…まだだ…まだ終ってないぞ…。今度は左側でクリックしー…」

 「やめい!」 ドンッ!

 「へぶぁっ!?」


 ……〜っ…もう止めろ!!

 思わず再度チャレンジしようとしている背中に向かって体当たりを決めてジャンプを阻止する。しかし、あーちは「離して!今なら綺麗に出来る気がするんだから!」と根拠の無い自信をぶつけてきた。


【ガシィッ!】させるか!!


 「なら尚更絶対離すか!てか、あーち医者にジャンプ止められてるんじゃないの!?」


 このドクターストップの話を初めてあーちから聞いた時は、『何処のアスリートだよ!』って思った。


 「そうだけど今は元気だもん!」

 「『だもん』じゃねーからっ!それに病気を期間限定で治して貰っただけであって、膝はそのまんまでしょ!」

 「うっ…うぅ~」


 今にもジャンプしそうなあーちを後ろから羽交い締めにして全力で止める。

 あーちは多少暴れたが暫くするともう跳びませんの意思を込めて全身の力を抜いてくれた。私もそれに合わせてあーちの拘束を大きい溜め息と共に解く。

 ……怖かったわ。『雨に唄えば』の名シーン的な感じで小粋にハイヒールクリック(?)を跳びたかったんだろうけど、そもそも跳べていなかったし、足をグネるのも時間の問題だったと思う。何より……私が恥ずかしい。

 というか、あーちは同行者がいるからやったの?

 もしかして母や姉と歩いてる時も急に跳んだりしているの?

 まぁ居ないなら居ないで、急に斜め跳びしている所を運悪く見た人が恐怖しちゃったんだろうけど……。

 幾つか頭の中に疑問が過ったけど怖くて聞けなかった。あーちの方をチラ見するとまだジャンプへの未練が残っている顔をしていた。……止めなさい。


 「ほら、普通にちゃきちゃき歩け」と言ってあーちの背中をポンっと叩いて進むように促すと、

 「へえ……」

 「いつの時代の下働きの返事してんの…」


 あーちが凄く小物感満載の気のない返事をしてきた。

 そんなあーちを置いて普通のペースで歩いていたら、数秒後に「片足のどちらかは常に地面!」という競歩の原則を口にしながら抜き去ってきた。

 ピピーッ!!踵が地面についてから足と垂直になるまで膝は曲げちゃいけません!よってイエローカード!!と、心の中で笛を吹きながらあーちの背中を気持ちスピードをあげて追いかけた。


 待っててね!天ちゃん!おじ様!そしてレジの大豊さん!!



次回は後編です。

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