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実々:小さく言っておけばガッカリしない

前回の続きです。


12月3日(月) 朝


 夢の中で緊張を強いられたせいか、疲れが全くと言って良いほど抜けておらず、結局アラームで目覚めた後も暫く布団の中でゴロゴロしてから起きた。

 それもこれも全てはあーちのせい。

 そんな大罪人あーちはと言うと、相変わらず頭の先まで布団をすっぽり被って寝ていた。


 顔を洗ったり、お茶とパンを準備してテレビを観ながら過ごしていたら、寝室の方から扉越し故のくぐもった声で「生きてるぅ↑↑」という言葉が聞こえてきた……。


 もし…もしも、今あーちが死んでいたら私は救急車を呼んで、そこから警察の事情聴取を受けなければならないはず。だって……三十路女が家の布団で死んでるから。

 そして、その時に私は警察の人に『あーちっ!……あ、姉は神様の神罰が降ったんです!!』っていう新興宗教感MAXのヤバイ台詞を言うことになる!!!

 …………絶対ヤダ!!

 あーち!家で死ぬなよ!!

 神様!屋内は止めて下さい!!もしも神罰を降すのなら不特定多数が見ている前でお願いします!!

 あーちへの神罰は私一人が背負うには荷が重過ぎますし、二次被害が起こる可能性大です!!

 ……って私は何をお願いしてるんだ?!やっぱり疲れてるからこんな変な思考に……。


 ガララララッ!【寝室とリビングを繋ぐ引き戸を開けた音】


 「みーちーっ!多神さん何て言ってた!?」


 あーちは扉を開けながら、開口一番に本人が今一番気になって仕方がない質問をぶつけてきた。

 私は一瞬だけあーちの方に視線を向けた後、再びテレビの方へ視線を戻した。あぁー…ブッシュ父が亡くなったのか。親子で大統領になるって良く考えたら凄いことだったよな〜。94歳か。まだその三分の一も生きてないわ。

 あ、そういえばあーちに返事しないといけないんだったか。

 でもすぐに教えるのはやっぱりシャクだからなぁ……だからさ…あーちよ、


 「ツラ洗ってから出直しな」


 答えてやるのはそれからだ・ZE☆…ってね。

 ※実々さんは疲労から情緒がおかしくなっています。


 「んなっ…!」


 あーちは直ぐに教えて貰えると思っていたのか愕然としたような声をあげていた。

 まぁ、テレビの方を向いているから、どんな顔をしていたのかはわからないけども。

 私は「ほら、早くしないと多神さんが何て言ってたか教えないよ」と、あーちの方を一切見ずに手をシッシッとしてリビングから追い出した。

 すると後ろから「お、覚えてろーっ!」という捨て台詞と共に走り去る音が聞こえた。……30歳はまだまだ若輩者だな。

 


***


「でっ!でっ!多神さんは『ダイジョーブ!無問題(モーマンタイ)だから安心してこれからも過ごしちゃいなYO☆』って言ってくれてた!?」

 

 いつものホットグラノーラと緑茶のセットをテーブルに用意して席に着きながら向かいの席に座っている私にソワソワした様子で聞いてきた。

 もぐもぐもぐ…。

 蜂蜜とバターはやっぱり最高の組み合わせだわ〜。そしてここでスープを一口飲むと甘いと塩っぱいが混ざり合ってまたモリモリたべられちゃうのよね〜♡もぐもぐ…ごっくん。

……で、問題(ウェンティ)はあーちの多神さんへのイメージだわ。


 「多神さんいつからそんなキャラになったよ。てか大丈夫なのが前提なんだ」


 あーちはむぅ~っと口を尖らせて恨みがましく見つめて来たがそんなもん効かぬわ!!

 私は、あーちをジト目で見つめ返しながら簡潔に多神さんからの答えを口にした。


 「憲法19条」

 「んへ…?」

 

 予想通りあーちは困惑しきりの顔をしていた。愉快愉快。

 じゃあ、ちゃんとした答えを教えてあげましょうかね。この時に口が薄ら笑いになっちゃうのはご愛嬌で。


 「[思想と良心の自由]が憲法にあるし、神様もいちいち一人の人間の発言や考えをどうこうしようだなんて思わないってよ。そもそも住吉大神様は何事にも寛容らしいから、あーち良かったね」


 本当に良かったね。……私もあーちが家で死んでなくて良かったよ。

 あーちは万歳をしながら「法治国家に感謝を!」と叫んでいた。……軽く恐怖。


 「みーち人見知りなのに、うちの為に頑張ってくれてさんきゅー♪でさ、言った通り自分の身体も一切見えないのに、墨汁の匂いはする真っ白な世界だったでしょ?あ、2週間ぶりの多神さんどーだった?ねぇねぇ」


 人見知りの人間の頑張りに対して、『さんきゅー♪』って軽いな!!もっと申し訳なさを演技でも良いから出せ!!

 そして多神さんに会うのは2週間ぶりじゃない…。あーちは知らないと思うけどもう三回目だし…。はぁぁ…。

 ……で?あ、何?[会った感想]ね、はいはい。


 「誰だって脚にあんなしつこく纏わり付かれたら、黙らせるためにも行くしかないから。んー…で、確かに白くて墨汁の匂いだったね。多神さんは疲れてそう…だったかな?」

 「多神さんのそれは通常運転」


 コイツ失礼か。私じゃなくて多神さんの脚に纏わりついたら良かったのに!!というか……


 「……私の嫌みはスルーか」


 あーちへの込み上げる怒りと呆れから、水平に保って食べないといけない蜂蜜トーストを傾けてしまい、パンから蜂蜜がお皿に流れてしまった。ぐぬぬ…。悔しいっ!

 だがあーちはお構い無しに、絶賛悔しがっている真っ最中の私に無神経にも声をかけてきた。


 「あと折角だしって事で何か他に喋った?」

 「えっ…?あぁ会話……?ここで磨いた料理のスキルは本当の時間に戻っても残るかどうか聞いたよ。残るって言ってた」


 昨日の今日で質問出来るとは思っていなかったからあれは棚ぼた的なラッキーだったな。うんうん。


 「ほうほう。あとはー?」


 あと?あとは天ちゃん達と一年後も仲良く出来るのか聞いたけど返事が芳しくなかったからなぁ〜。敢えてあーちに言う必要もないし…教えなくて良いか。


 「……それだけ」

 「業務連絡レベルっ!」


 いやいや、むしろあーちは多神さんと世間話してるのかよ!って話になるじゃん。

 そしてあーちは何を思ったのか、「今度みーちに何か聞きたいこととか出来たら、一緒に行ってあげるね」と急に【姉感】を出して言ってきた。


 「へっ……?も、もう行かないと思うから平気」


 なんであーちに付き添って貰うスタイルになっちゃったの?!というかしょっちゅう行くところじゃない。


 「冷たーい!多神さんが可哀想だよ」


 何が冷たいのか…。というか可哀想って……。


 「自分の日頃の行いを省みてから可哀想って言えや」


 あーちに振り回されて多神さん…可哀想。


 「うんうん」


 一人納得したように『うんうん』って言って強く頷いているけど、これ……


 「絶対余計な事考えてるよ……」


 私は嫌な予感を拭い去るようにお皿に落ちた蜂蜜をパンの耳で拭って口に放り込むことしか出来なかった。もぐもぐ。



*****

同日 夕方


 「古墳ふんふんふーーーーんっ!」


 ……………………。これって?


 「え?そのアホげな言葉は終わった合図って事?」

 「アホかは分からんけど、終わったからカムヒヤ~」


 あーちは椅子から立ち上がって、両手でおいでおいでをして困惑している私を呼んできた。

 凄く、凄くあーちの方へ行きたくない気にさせる呼び方だと素直に思った。だからか、あーちのこと凄い顔で見つめちゃってたと思う。

 渋々指定の席へ着席した後、気になっている疑問をぶつけてみた。


 「あーちって普通に呼びたくないの?」

 「ほへ?拘りなんて全く無いけど…。でもそう言うんだったら世間で1番使われている、人を呼ぶ方法を教えてくれたらそれにするわ」

 「ウザうぃ……」


 『教えてくれたら』って何?ウザうぃ……。



……………………。【わたにほの内容】

 


 (帰化人凄すぎでしょ。大盤振る舞いに色々教えてくれたんだね。)

 (何で磐井は邪魔をしたんだろう?6万の命を朝鮮に送るなんて無益な真似はやめろ!一緒に国内を盛り上げていこう!!ってな感じで止めたのかなぁ?……ドラマチック!)

 (うんうん、古墳を大きくし過ぎても邪魔って気づいたのかしら…)

 (むしろ今までずっと裸足だったのか…足裏カチコチ!)


……………………。【読了】



 「さぁさぁ質問しちゃって~っ!古墳時代でフワッとした年表や内容が終わるよー。飛鳥時代から詳しくなっちゃうよー」


 読み終わると同時に食い気味に声を掛けられた。…余韻って知ってるか?


 「絶妙に質問したくなくなる前のめりさ…」

 

 私の発言に対して、良い歳をしたあーちが『むぅ~』といった風に右頬を膨らませながら私のこと横目で非難してきたが、それを遥かに上回るジト目をお返ししたら怯んでくれたのでとっても気分良く質問出来ます。


 「はい、質問ね。何で磐井は出兵を妨害したんですか?朝鮮が嫌いだったの?」


 磐井は『朝鮮に行って何になる!?ここに居ろ!!朝鮮へは絶対に行かせないぞ!!』って止めたのかなぁ?と、ワクワクした気持ちで回答を待っていたら、返ってきた答えは予想外のものだった。


 「取り敢えず、磐井はツンデレじゃないから」とバッサリ斬られ、そのままの流れで、

 「磐井は新羅と繋がってたの。賄賂を貰ってたらしいよ。北九州はヤマト王権の影響力が弱かったんだー」と、なんともまぁベッタベタな理由を告げられた。


 「なーんだ」


 磐井には本当にガッカリした!!

 はぁーぁ。後はお決まりの質問だけするか。はぁーあー…萎えるわぁー…。


 「あとはー…人口は何人くらいになったの?」

 「どのくらいになってると思う?」

 

 …質問返しかよ。ここは少し少なめに見積もっておこう。


 「えっ?うー…ん、100万人弱ってとこかな?」

 「正解は約540万人でしたー。兵庫県の人口と同じくらいだよ。増えたねー」

 ……やっぱりな。兵庫県の人口は知らんけど。


 「ふっ…私がワザと少なく答えたお陰で増加が際立ったね」

 ……感謝して良いよ。


 「何で通販のやり口をここでやった…。普通に答えれば良いものを」


 『普通の答え方を教えてくれたらその様に答えてあげませう』…なんて、さっきあーちが言ったウザうぃセリフを脳内でお返ししておこう。

 そんな私に構うことなくクイズタイムが突如として始まったのだった。


 「チャチャンッ!では問題です。6世紀に新羅が国家体制を固める事が出来た事と、倭国が中国の冊封から離脱する事を可能にした共通の理由は何でしょうか?」


 この二つの事柄が叶うには半端な理由じゃ難しいだろう。つまり、大元に何かあったと考える。

 となると…あれだ!!

 私は俯いていた頭をガバリと上げ、声高に答えた。


 「はい!中国がゴタゴタしてたから!」

 ……これだ!!


 「満面の笑みで他国の混乱を指摘するんじゃない。で、えー…と確かにそれも答えの1つだろうけど、用意していた答えは『鉄の国内生産が可能になったから』だよ。では、石人は高さが何cmくらいあると思う?」


 石人が。さっき古墳の所で出てたやつね。

 これも1mくらいだと思うけど低く言っとくか。なぜって…ほら…気遣い出来るから。


 「んーとね、50cmくらい!」

 「ちっさ!160cmくらいのもあるんだよ。等身大サイズなの」

 「ほら、また私が低く言ったから大きく感じれたね」


 『1m』って言うよりも大きさが際立ったもんね!

 まぁ60cm差があるからニヤピンではないけどね。ふふふ。


 「えあ?……うん、そうだね」


 そう言った後あーちはなんでか馴れ馴れしく私の肩にポンっと右手を乗せて笑いかけてきたので速攻で払い落とした。

 もう話は終わった!

 私はあーちに警戒心全開で椅子を挟んで向き合い、「夕飯はシチューのドリア風で良いんでしょ?」とちょっと強めの口調で確認をとった。異論は認めないぞ。


 「うん。チーズは良く焼きでよろしく~」

 ……ちっ。


 「分かった」

 ……火傷しても知らんからな。


 結局、晩御飯はリクエスト通りにチーズ良く焼きのシチューのドリア風にした。

 そして私の分も一緒にトースターにぶち込んだので、いつも以上にシチューがグツグツしたものが出来上がり、これでもかと『フーフー』して時間をかけて食べたのでした。

 ……猫舌辛い。




12月3日(月)

 

 昨夜、あーちにしつこく脚に纏わりつかれた為に嫌々多神さんに会いに行った。

 結果、憲法にあーちは守られていた。私は寝た気がしなかった。

 白い世界に行くよりもうどん屋の方が地に足が着いている感じがして落ち着くなと思った。次があるとしたらいつも通りが良いな。


 もしも今朝あーちが布団で死んでいたら、警察の人に『あーちっ!……あ、姉は神様の神罰が降ったんです!!』って言った瞬間にヤバい奴認定されて→私の全ての発言が虚言であると疑われる→筆頭容疑者に。

 軽く絶望→司法解剖して→あーちの心臓だけ焦げてたり、不審死としか思えないと判定が出る→一気に神罰説が有力→ニュースになる→『神罰が降るって一体何をしたんだ?!』とマスコミに詰められる→親しくない親戚が我が物顔で私たちの話をし出す→ネットで面白おかしく叩かれる→私は精神を病む→バッドエンド


 ………法治国家に感謝を。


 シチューに黒胡椒を振ると美味しい。山椒は無くて良いけど、胡椒は昔は金よりも価値があっただけあって素晴らしいと思う。

 グッツグツのシチューとチーズのせいで上顎を火傷した。食べている時間よりも『フーフー』している時間の方が2倍くらい長かったのに何故。

           end...


これで古墳時代が終わりです。

次回は多神さん視点の実々とのやり取りの話です。

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