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幕間 : 姉の言う事は絶対

双子が図書館に居る時の裏話です。


 「本っ当に信じらんないっ!」


 あぁも~~~~っ!

 折角、双子ちゃんが来る時間をちゃーんと見越して図書館で思じいと楽しく待ち構えていたのに、中々来ないからどうしたんだろうって思っていたら何よ……。

 何もかも、勝手な事をしてくれやがった須佐のせいで台無しじゃない!

 高天原のとよりんからメールが突然来て、それを慌てて開いてみた時の衝撃が須佐…テメェに分かるか?えぇ、分かんないでしょうよ!!


 『須佐さんと建さんが余程怖かったんか、お姉ちゃんの方がえらい泣いてしもたわ。泣かせるのはあかんよね~』


 ミシミシと音を立てるスマホを持つ手が震えたまま、心配する思じいを残して高天原の社に急いで戻って八咫鏡を見たわ。

 本当にお姉ちゃん泣いていたし、時間を少し巻き戻して確認したらバカがお姉ちゃんに触っているしで目を剥いたわ。

 これは、あかんじゃない。

 あかんでは済まされない、許すまじの事件よ…。

 怒りで沸騰する思考を抑えながら、愚弟がまだ過去に居座っているのを確認し、急いで図書館に戻って思じいにあらましと須佐を始末する事を伝えた。

 でもその前に、せめて一目だけでも会っておこうと図書館から出る時に双子ちゃんの顔を見たら、お姉ちゃんの目元は少し赤くなっていたし、妹ちゃんも深刻そうな表情だったしで、居ても立ってもいられずにそりゃ走る(風になる)わよね。


 キキィィィィィィィィーッ!![足のブレーキ音]


 アホと、話によってはたけちゃんの墓場となるファミレスに着いた。

 ()の本気を出した脚にかかれば一瞬の距離だったわ。近い近い。

 気配はまだここからするけど流石に1時間くらい経っているし、少し移動したかしら…。

 きょろきょろと四方を見渡すと、視界の上の方に何かが引っ掛かった。


 「……あ!店の上っ!」


 我が来ると事前に分かっていたのか、罪人達は揃いも揃ってこちらを見下ろしていた。……ふざけおって。


 パチンッ!


 指を1つ鳴らしてファミレスの平たい屋根の上の2人の目の前、1丈程距離を空けた所に転移した。

 バカ弟は相変わらずのニヤけ面に過去の栄光にすがるダサいTシャツ、そしてこれまたダサいボロボロのGパン。特に金色の八岐大蛇の形の耳飾りなんて、もうもうもう本当に論外!

 対してたけちゃんはいつもの真っ黒袴。…いくら人間に気付かれないように結界を張っているからって、もう少し現世に見合った格好をしなさいよ。

 腕を組み、睥睨(へいげい)しながらそんな両者の出方を伺っていると、ダサい方がドカッとその場で胡座をかき、片肘をついて下俾た笑いを浮かべてきた。

 それを目の端に入れつつ、もう一方の動きを確認するとそちらはさながら相撲の行司のように我の右斜め前に移動してきた。……2人の間に立って立会人気取りか!


 まぁ良い、舞台は整った。


 黒いエプロンと首から下げていた名札を投げ捨てるように消し、三つ編みにしていた髪はほどいて感情そのままに揺らめかせる。

 左手は腰に、右手は須佐の鼻先を真っ直ぐに指差し、深紅の瞳に憤怒の炎を燃やして恐怖のドン底に突き落とす言葉を放つ。


 「我の放つ、矢の錆にしてやろうかっ!!」

 「………」

 「……はぁ~」


 何で何も反応を返して来ないの!?

 そんなにお姉ちゃん怖過ぎちゃった?声出なくなっちゃった?

 だとしたら、どうしてたけちゃんは額を抑えながら溜め息ついたの!?

 予想外の事態に思わず真っ直ぐに突き出していた右手も緩んで、焦った表情になっちゃったじゃない。

 こ、このままじゃ威厳が無くなってしまう…。

 オタオタと起死回生となる新たな言葉を探していたら、バカが頭をわしゃわしゃかきながら眉を寄せつつボソリとザラついた声を出して来た。


 「……デーモン閣下か」

 「は?」

 「久しぶりに顔を合わせたかと思ったら、開口一番に『蝋人形にしてやろうか!?』と同じテンションで何か言われるとか、言われた方は戸惑うしかないだろ!」

 「何ですって!」


 要するに、我がおかしいって言いたいの?馬鹿か?

 自分がやった所業を省みれば、何に対しての怒りか分かるでしょうよ!これだから、須佐と話すの嫌なのよ!

 それにデーモン閣下なんて奴良く知らないけど、確か10万歳ちょっとの若造でしょ?そんなのと同列にしないで欲しいわ。

 でも、仕方がない。なんてったって相手はお馬鹿さん。

 動揺により胸の前まで戻って来てしまっていた右手を再びビシリと真っ直ぐ指差し、顎を反らしながら見下ろしつつ罪状を教えてあげる。


 「(まし)とたけちゃんのせいで双子ちゃんのお姉ちゃんが泣いちゃったじゃない!どう落とし前つけてくれんの?アァンッ!」

 「泣いたのなんか知らねえし、そもそもどっちが姉か妹かも分かんねぇから!第一、人間の女・子どもなんて直ぐ泣くもんだろ」

 「じゃかしいっ!涙はバカのせいで流すもんじゃなく、もっと哀しい時にとっておきたいもんなの!」

 「斉藤由貴の『卒業』のサビ終わりかよ!」

 「いちいち我の発言にツッコミ入れんなっ!詫びを入れろっ!」

 「何でだよ!知らねえけど泣いただけだろ!?」

 「その罪深さが分からない奴はやっぱ今ここで消し炭にしてくれるわ!」

 「ハッ!上等だよ!」

 

 パシパシンッ!


 「はぁ……二人とも落ち着け」

 「「離して(離せ)よ!」」


 瞬時に我と須佐の間に移動したたけちゃんに我達の右腕は軽々と止められた。

 それに対して、我の艶美な顔に汚ならしい右腕を伸ばして来ていた須佐と不覚にも同時に文句を言ってしまったのが益々腹立たしく感じる。

 くっ…!悔しい~~~~~っ!!

 あと3寸で須佐の左頬を神の右で整形出来たのにっ!

 たけちゃん何で手首掴んで邪魔するかなぁ!?

 高く跳んだ所で掴むから、着地した今は片手だけ万歳してるみたいになっちゃってるじゃない!腕下げてよ。

 でも、いくら睨み付けても腕を振りほどこうとしても、たけちゃんは仏頂面のまま我を見下ろすだけで一向に離してくれそうにない。

 何も2人の腕を離してって言っているんじゃないのに…。我の腕だけ離してくれれば良いんだよ。そうしたら一瞬で事が済むから。

 今の状況は誰が見ても我が正しいに決まってるのに……。

 ハッ…!もしかして!


 「たけちゃん!このバカの味方なの!?信じらんなーいっ!気付いたら神界にも居なかったし、裏切りも良いとこよ!」

 「味方なワケねぇだろ!現に()だって掴まれてるだろ!」

 「バカには聞いてないっつーの!」

 「バカバカうるせぇな!紫外線女!」

 「かっちーーーん。須佐之男消ス……」


 自由な左手に手のひら大の青白い火球を出す。

 視界のほとんどをたけちゃんが占めていて、肝心な標的が全然見えないけど致し方無し。

 邪魔立てするなら敵とみなすまで。

 拘束されたままの右腕を支点に、思いきり広げた左腕を遠心力にのせて前方に思いきり横薙ぎに振るう。


 「消えちゃえーっ!!」


 ブォンッ!……フッ!


 「話を聞け、馬鹿者」

 「あーーっ!青白子(あおじろこ)ちゃん何処やったのよ!?」

 「……太陽に戻した」

 「あっ!おい!青白子ってなんだよ!何しようとしてたんだよ!?」


 向こうでギャーギャーと喚いている男は無視して、たけちゃんの脛を黄金の右足で狙う。あ、避けた。……ちっ!

 更に悔しくなって深追いしようとたけちゃんの方にグイグイ蹴りを入れながら進んだら、不意に身体が自由になった。


 「きゃっ!」 


 たけちゃんに掴まれていた右腕を支えに動いていたから、バランスを崩して前方にペタンと土下座したみたいに両手を着いて転んじゃったじゃない。

 絶対に許さんと歯を食い縛って顔をあげると、たけちゃんは少し離れた位置で四肢をバタつかせているバカを後ろから羽交い締めにしているところだった。


 [もう良い加減にしろ。天照は無闇に力を使うな、そして相手の話を聞け。須佐之男もただ言い返すだけじゃなくて、何故此処に居るのかをちゃんと話せ。……まったく、お互いに言葉が足りないぞ]

 「「どの口が言ってんのよ(だよ)!!」」


 ま、口じゃなくて念話だったけど。

 たけちゃんの天然発言で白けちゃったし、確かに何でバカが現世、しかも過去に居るのかは聞いておかないとだったわ。

 立ち上がって膝の汚れを払い、腕を組みつつ2人と3尺程の距離まで行き、目も空色に戻して話を聞く姿勢になってあげた。


 「で、須佐は何で居るわけ?」


 1尺以上高い位置にある、自分と全く容姿が似ていない弟に問うた。

 返答次第ではIラインをフルボッコだなと無表情で見上げたまま考えていたら、相手は1つ大きな舌打ちをしてから苦々しげに口を開いた。


 「鼠が騒いできたんだよ…」

 「え?」

 「だーかーらーっ!根の国の鼠達が、『過去に居ないはずの人間がいるから見てきてくれっぢゅう゛』やら『何か悪い目的があるのかもしれないっぢゅう゛』ってうるせぇから様子を見に来たんだよ。…わりぃか!」

 「……なんと言うか…気合いが入っていそうな鼠ね」


 意外や意外。

 こんなふざけた風貌をしているくせに、ちゃんと鼠の話を聞いてわざわざ過去に様子を見に来てたのね。

 それにしても、嗄れ声(しゃがれごえ)だけど甲高い鼠の声を真似して話さなくても良いのに。…二足歩行の鼠がバカボンのパパみたく捻り鉢巻に腹巻きまでしていそうって想像しちゃったじゃない。

 でも少し変ね……。

 一目見ればあの素朴な双子ちゃん達が無害って分かるでしょうに。

 他に何か別の目的でもあったのかしら?


 「ねぇ、まだ何か隠しー…」

 [今日初めて過去に来たみたいに言うな。須佐が来たのは一昨日だろ……]

 「わっ!建!言うんじゃねぇ!」

 「何ですって!?でも何でそれをたけちゃんが知ってる訳!?」


 やっぱ共犯なんじゃない…。

 今日落ち合おうって約束でもしていたのかしら?

 続きを聞くべく、デカイ図体の後ろで目元から上しか見えないたけちゃんに目線で促す。


 [ただ過去の世界に異変があれば伝えるようにと烏達に言っていただけだ。それで一昨日に須佐之男が妹の方に接触しようとしていると報せが来たから阻止したまでだ]

 「あん時にしっかり説明してくれりゃあ今日来なかったんだよ!何が『あれは双子の妹の方で、もう1人姉が居る。詳しい事を知りたければ明後日に天照から聞け』だ!出会い頭に危うく消されるところだったじゃねぇか!」

 [……それは日頃の汝の業だ]

 「どっちもどっちだわっ!」


 知らない知らない知らない知らないっ…!

 何でたけちゃんそんな重要な事を言わなかったの!?

 我が『過去で何か問題起こって無いかしら?』って聞かなかったのがいけないの?

 でもそれを差し置いても、一昨日会っていたんだったら須佐に『訳あって過去に連れて来ているだけで、何も問題は無い』とか何とか言っといてくれれば済んだ話じゃない!何を楽してくれとんじゃい!

 痛くなって来た頭を右手で横から支えながら、ほんの少しだけ不憫に感じてきた弟に説明をする。


 「あの双子ちゃん達は多神くんが1年間の期限付きで連れて来ただけなの。目的も日本史を勉強する為だけだから、無害中の無害。だから安心して根の国に即刻帰りなさい。Right now(今すぐに)!」

 「………おい、タガミってどこの男だよ?」

 「へ?」

 「その男と姉上はどんな関係なんだよ!?」

 「はぁ~~~~~っ?」


 なに、この愉快な弟。

 我と多神くんが恋仲とか片腹痛いこと考えちゃって……ぶふっ…ふふ……いるの?

 あー……そもそも『多神』って渾名だし、須佐は天津神じゃないから新しい神と会う機会も無くて知る由も無いわね。

 だからと言って教える義理も無いから、このままはぐらかしてやろっ♪

 自然と口角も上がって笑いも込み上げて来るのをぐっと堪え、余裕のある涼しげな表情を作り、拗ねた顔で見下ろしてくるシスコンに答えを返す。


 「須佐は知らないかー。多神くんはね~すっごく頭が良ー…」

 [天満大自在天神のことだぞ]

 「あーっ!たけちゃん何で教えちゃうのよ!」

 「タガミって菅原道真の事かよ……」


 すぐにバレちゃったじゃない!

 これも平安時代に必要以上に有名になった多神くんのせいだわ!今みたく地味に暮らしていれば良いものを…。

 ハッ!いけない、いけない。

 この場に居ない、不幸な過去を背負っている彼を責めるのはお門違いだわ。

 最後に何でお姉ちゃんにセクハラをしたのかを聞いてとっとと帰らせないとなのに。

 1つ咳払いをしてゆるんだ空気を戻し、ピリッとした雰囲気で問い質す。


 「それで最後に、なんでお姉ちゃんにセクハラしたわけ?捕まってみたかったの?」

 「セクハラじゃねぇから!…あっ、あれは…だな……目が合ったからバレたかと思ってだな……」

 [須佐之男は品書きの甘味を全部注文して嬉々として食べていたのを気付かれたと勘違いをし、姉に詰め寄って言い訳をしようとしていた。外から見ていた吾がそれは不要だと伝えて、天照が来るまで待機していたんだ]

 「だーーーっ!!だから全部言うんじゃねぇよ!」

 「………」


 大の男が耳まで赤くして顔を両手で覆って俯いているのを至近距離で見るのはキツいものがあるわね…。

 開いた口が塞がらないって今、この瞬間を言うんだわ。

 えーと…つまり、ファミレスでの一連の行動は照れ隠しだったってこと?


 「件の双子ちゃんを観察がてら、甘いものを食べつつ我を待っていたってワケ?」

 「あ~~~~~っ!そうだよ!」

 「何よそれーっ!」


 とんだ迷惑な話っ…。

 涙を流したお姉ちゃんが可哀想過ぎる!

 今度会ったときに目一杯優しくしてあげないとだわ。

 その初期段階として、部外者が金輪際関わって来ないように退場させておかないと!


 「もう双子ちゃん達が居る理由も分かったでしょうし、好きな甘いものだって存分に食べたでしょう?だからもう来なくても平気よ!つーか2度と来るな!はい、返事っ!!」

 「……へいへい、もう…来ねぇよ。これで良いだろ!?建も離せよ!」

 「男に二言は無いわよね。次会うのはいつかしらね?2千年後くらいでも良いわね。ばーい☆」

 「ちっ!じゃあな」


 たけちゃんが解放した途端、目の前から大男が消えた。

 最後の返事に若干の間があったのが少し気掛かりだけど、絶対的な強者の我に楯突く程の愚か者で無いことを願うわ。


 「日女ちゃん、終わったかな?」

 「ん?……あ!思じい。遅いよーーーっ!」


 下から優しい癒しの声が聞こえて来たかと思ったら、図書館から思じいが迎えに来てくれたところだったみたい。

 思じいは双子ちゃん達と何を話したのかしら?あぁ、羨ましい。


 「思じい!社でお茶しながら双子ちゃん達の話聞かせてーっ!で、次の作戦を練ろっ♪」

 「そうだね~」


 女の子の笑顔を守るために暗躍したから疲れちゃった。

 帰ったらとよりんに芋羊羹をおねだりしよう。



*1丈:約3メートル

(まし):お前

*青白い炎(青白子ちゃん):約12000℃


次回は古墳時代編に入ります。


須佐之男が出てきました。

そして初期メンバーである天照の視点をやっと書きました。

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