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実々 : 戸惑いの昼下がり

前話の続きです。

麻来視点の【涙は秋の空】の対の話。


 トイレへ行くと私の前に既に順番を待っているご婦人が居て、生憎トイレは1つしかないので実質的に中に入っている人を含めると、私は二人待ちになっていた。

 自分がトイレに長居しないタイプだからか、それとも単純に待てない人種だからなのかは分からないが、人を待っている間の1分はとっても長く感じてしまう。

 病院もそう。待ってる時間は果てしなく長いのに、いざ自分の診療する時になると『あれ?診察時間が1分も掛かってなくね?』っていう不思議。

 まぁそんなことをぼーっと考えていたら5分位で順番が来たのでササっと済ませてお茶のコーナーへ。


トイレからドリンクバーへ行く途中に視界に面白いTシャツの銀髪の強面お兄さんが帰るのが見えたが、そんなことは些末なことで。

そしてやってきましたお茶コーナー!こちらはなんと、またもや二人待ち…。

 しかも!しかも!しかも!前に並んでいるそれぞれがカップを2つずつ所持しているではありませんか!!

 いやっ…まぁ…あーちの分のお茶も用意する私も人のこと言えないけど、でもカプチーノとかコーヒーよりはスッと終わるし……。お湯をちょっとばかしジャーっとするだけだし…。


 (早く、早く〜!一杯淹れ終わったらサッと次のカップをセットせんかい!)



******


自分の心のイライラと葛藤しつつも、無事にダージリンとアールグレイを淹れ終わり、摺り足をしつつ、気持ち早歩きであーちの待つ自分の席へ戻る。

『集中!集中!ハッ!ハッ!』と頭の中で何度も自分を鼓舞し、お茶を溢さないように細心の注意を払う。

 そうしてなんとかお茶を溢さずに席に到着した。

 「ふぅ」と一つ息を零しながらあーちの方にアールグレイのカップを置きつつ待ち人に話しかける。


 「はぁ~お待たせーっ。トイレもドリンクバーもどっちも凄い混んでて時間掛かっちゃったー!……あれ?あーちどうしたの?」


 見ると向かいの席のあーちの顔色がなんだか蒼白くなっていて気持ち小刻みに震えていた。

 (ここの席寒かったのかな?ほら、お待ちかねのアールグレイだよー)と思っていたら、


 「ふっ…ふぇぇ~!みぃち~~~っ!怖かったよぉ~~」


と瞳を潤ませながら息急き切ったように話し始めてきた。


 「えぇっ!泣いてんの!?そんなに喉渇いてたの?」

 (アールグレイが泣くほど待ち遠しかったなんて…)


 「ち、違くて~…タケとケンケンがっ!ひっく……」


 (タケとケンケン?誰それ?『修二と彰』的な?マイルドヤンキー感が凄い)


 「え?誰なのそいつら?何、その田舎のチンピラみたいなコンビ名。その2人に絡まれたの?」

 (♪地〜元じゃ負け〜知ら〜ず〜、そ〜うだろ?)


 「そうなんだけど、そうじゃなくて~……ひっくっ…!」


 (心の声聞こえちゃってた!?…いや、でも、結局どっちやねん!!)


 「どっちなの…。まぁ、泣き止んでからで良いから説明して。ほらお茶飲んで、その流れに流れた涙も拭きなよ」

 (こんなに泣くなんて…、(はた)から見たら高校生か大学生の双子の片方が彼氏に振られてそれをもう片方が慰めてる風に見えるんだろうなぁ〜)


 「う……うん」ごしっ…ずびっ…。


 あーちは嗚咽が暫く止まらず、気付けば私の方の席に移動してきて横からしがみついてきた。


 (おいおい、『どんだけ手酷くフラれたのかしらこの子?』って思われるぞ!そしてこれは…あれだ…!西野カナやHYの歌詞に感情移入して曲聴きながら号泣しちゃう子だ…)


 私の心中は穏やかではなかったが、珍しくこんなにビチャビチャになるほど泣いてるのは本当によっぽどのことがあったんだろうと思い、顔は残念ながら『こんな所で泣きながらしがみつかないでくれる?』っていう心情が滲み出ちゃって嫌そうなのを取り繕うことは出来なかったけど、泣き止むまではジッとしておいてやろうと、飲み頃になったダージリンを一口飲んだ。…ふぅ。


 結局、あーちが泣き止んでから何があったのかを聞き、件の『タケ』は天ちゃんに襲いかかってきたカラス様だと言うことが分かった。

 そして同時に、私たちが確実にタケに目を付けられていることが発覚した瞬間でもあった。

 『ケンケン』はあーちがTシャツから連想して付けたあだ名だった。酷く怖がってた割にはあだ名は気の良い兄ちゃん感が出ている…。

 しかし、窓ドンは確かに怖かっただろう。

 そして窓の外を見たらカラス様が見てるというのもそれはそれは怖かっただろう。うん…同情するわ。



*****


 ファミレスになんだかんだと長居してしまい、気付けばもうおやつ前の時間になっていた。


 「この足で図書館行くんでしょ?」と隣をしおらしく歩いている人物に話しかける。

 当の相手は「うん……」と弱々しく背負ったリュックの肩紐を両手で握りながら、こくんと頷いて返事をしてきた。…お前は幼児か。

 行きの元気に歌っていた時間が最早遠い昔のように、あーちと寡黙に歩くこと5分程でいつもの図書館の入口に着いた。

 先頭を歩くあーちが自動ドアが開くあと1歩のところまで来たところで…突然ドアが開いた。

 中から出る人が先だという意識の元、あーちと同時にその場で止まる。

 すると正面から暖かい風が頬を撫でたかと思うと、直ぐ様サッと通り過ぎて行った。

 一瞬しか見えなかったけど私は…ううん、私たちはこの人物を知っている…!あーちも気付いたよね!?

 

 「え?…今通り過ぎたのって……」

 「「天ちゃん(太一ちゃん)??」」


 開いたドアが目の前で再び閉じてしまったが、今すれ違ったのは間違いなく天ちゃんに違いない!

 …もう遥か遠くにシルエットが見えるだけだから確認のしようが無いんだけど、あの韋駄天の様な俊足は絶対天ちゃんだ!

 残念な事に一瞬しか顔が見えなかったけど、どこかご立腹な感じだった。あの天使を怒らせるなんてよっぽどのワルが居たんだろうな。うん。

 

 天ちゃんが走り去った方向を見つめ続けていたらあーちが私の腕を引っ張って図書館に引き入れてきた。

 思わず天ちゃんを思って「あぁっ…」と声が一つ切なく零れたがあーちにはスルーされ、本の返却口前で掴まれていた腕をやっと解放してもらえた。

 あぁ…天ちゃん…と寂しさが波のように押し寄せてきている私にさっきまで暗い表情をしていた人物が話しかけてきた。


 「古墳時代は短いから、みーちも何か借りて読む?」

 「…読まない」(あぁ…天ちゃん…)

 「そう…」


 寂しさで心ここに有らずでも検索機にちゃんと一緒に移動する。

 「トイレは今日は大丈夫!よし、古墳古墳ーっ♪ぽちっ」と、あーちがなんか隣でごにょごにょ言ってたけど今はどうでもいい。


 ズララララー…


 「あーそうだよねー…古墳時代だけじゃなくて古墳そのものの写真集みたいなのもそりゃ沢山出るよねー。地表に剥き出しだから」

 「…剥き出しって、歯茎みたいな言い方止めなよ」


 (剥き出しって表現するのは変でしょ。そもそもどの時代も別に隠してないよ!時代の流れの中で遺跡とかが埋もれちゃってるだけだから!よって、狂犬みたいな感じで歯茎をグルルと剥き出しにしてる言い方は不適切です!)と、思っていたら「歯茎も例としてはどうなの…」と言われた。…解せん。


 あーちは3冊ほど目星いものをチェックし、目当ての本が置いてある棚へ移動しようと振り返ろうとした時に……またいつかのように後ろの人にぶつかりそうになった。

 そして何度もそういうシーンに直面したことがあるのか、あーちは謝り慣れた感じで咄嗟に謝罪の言葉を口にし出した。


 「わわっ!ごめんなさい!……あれ?この前のお爺様!?」


 (お、おじ様!!?また危うくあーちが暴行するところだった!)


 「おっとっと……こちらから可愛らしい声が聞こえたから、もしやと思って来てみたらまた会えたねぇ。こんにちは」

 「はい!こんにちは!」

 「はい……」ぺこり。


 (『可愛らしい』だなんて…。なんて紳士な言い方。…はい、でもちゃんと分かってますよ…私たちが喧しいことは。しかも私とあーちが喋ってたのって『古墳と歯茎が剥き出し』っていう凄く可愛くない会話じゃ……。あわわわわ……)


 あーちも歯茎の話してたって気付いているだろうに、何事も無かったように満面の笑顔でおじ様に質問をし出した。


 「そう言えば、お爺様はお名前なんて言うんですか?わたしたちは小澤です」

 「……はい」こくり。


 (元・小澤だけど魂までは一色に染まっているわけじゃないから小澤で問題なし)


 「小さくて愛嬌のあるお嬢さん方にぴったりの名字だねー。この老いぼれは皆に[思じい]って呼ばれてます。好きに呼んでおくれ」

 「「おもじい?」」


 (苗字が重田おもだとかなのかなぁ?)


 「ほっほ。そうだよ。思ジジイでも思じいさんでも何でも良いからね」

 「「いや、ジジイは……」」


 おじ様はキザじゃないナチュラルなウィンクを一つ飛ばしてお茶目に言ってくれたけど、こんな素敵なおじ様をジジイ呼びは絶対出来ないのでお断りさせて頂く。


 「これからは[おもじい様]と呼んでも良いですか?」


 (あーちにしてはナイスだぞ!『おもじい様』呼びに賛成!!)


 「別に様なんていらないよ?でも、ありがとうね。小澤さん」


 (いつか下の名前でおもじい様にそれぞれ呼ばれたいね、あーち。)


 「こちらこそありがとうございます。あ、今日は何か本は借りないんですか?」


 (おっ!あーち!デキル女を演じてるね!!(笑))


 「あぁ、先日は案内してくれて助かったよ。今日はその本を返しに来ただけなんだ」

 「そうだったんですね」


 (あーち、残念だったね。…ポンポン【脳内であーちの肩を叩く音】)


 「また借りるときに会ったら案内をお願いして良いかな?」

 「「はいっ!」」


 (もちのろんです!!おもじい様!!!もしもその本がなかったら取り寄せの手続きまでやらせて頂きます!!……あーちが)


 「では、小澤のお嬢さん達、ごきげんよう」

 「「さようなら」」ぺこり。


 おもじい様とお別れし、あーちがチェックした本を取りに行くべく地下へと続く階段へと行く。

 あーちがルンルンした足取りで階段を降りるのを横目に見ていたら突然、あーちが目をかっ開いてショックを受けたような顔をしてきた。

 私もあーちも言葉には出さなかったが恐らくほぼ同じことを考えた違いない。

 あーちが[オレオレ詐欺の受け子]か、[夜逃げ斡旋業者の現地視察]というテーマの女っ気も可愛げもない真っ黒の格好をしておもじい様とお話してしまっていたことを。

 ……あーち、紫のロングスカート履いといたら良かったね。



********


 夕飯に鶏塩鍋が食べたくなり、図書館の帰りにそのままスーパーへ寄って鍋の具材の鶏モモ肉、白菜、大根、椎茸と朝食のパンを買って家に帰宅した。気付けばあっという間に夕方になっていた。

 あーちが昨日使わなかった茄子をナス味噌炒めにしたいというのでキッチンを暫く明け渡した。

 聞こえてくる音を聞いている限りでは問題無さそう。…豚ちゃんも殺ってないハズ。

 あーちはナス味噌の出来に余程自信があるのか「ふへへへへ…」と言葉を零し、台所を去って行った。


 あーちのことはさておき、鍋を準備する。

 食べるのが二人なので本当に小さい小鍋に水を入れ、そこに鶏ガラスープを入れて一度沸騰させる。そこに白菜、鶏モモ、椎茸、薄くスライスした大根と人参を入れて暫くグツグツさせればあっという間に鶏塩鍋の完成です☆

 早速食卓に鍋敷きを置いてその上に鶏塩鍋を鎮座させる。

 その横にはあーちが作ったナス味噌を。

 ではでは、


「「いただきまー(す)」」


 先ずは鍋を一口。ハフハフしながら白菜と鶏モモを食べる。クタクタになった白菜と鶏モモが最高!あったまる〜。

さて、お次はあーちが作ったナス味噌を…ぱくっ。


 「…あーち、本当に作れたんだね」


 (うん、普通にナス味噌炒めだ。ただ、『美味しい!』って口に出すのとは少し違う感じ…。いや、美味しいっちゃ美味しいんだけど、なんだろう…?可もなく不可もない絶妙な味。…うん)


 ぱくぱく、モグモグ…「…うん」


 こうして濃い一日は幕を閉じたのだった。



11月30日(金)


 今日は朝からあーちがトムになったりと濃い一日でした。


 ファミレスで久しぶりに食べた野菜ソースのハンバーグはいつもと変わらぬ美味しさで何処かホッとする味だった。

 トイレとお茶から戻った時にあーちが号泣し出したのには正直ドン引きしたけれど、まぁそれだけのことがあったらしいので同情する。


 カラス様の名前は『タケ』と言うらしい。誰かに飼われている?


 図書館では一瞬だけだったけど天ちゃんの姿も見ることが出来たし、なんと憧れのおじ様が『おもじい様』と呼んでも良いと許可してくれたので次に会えるのがとっても楽しみになった。


 夜ご飯はあーちがナス味噌炒めを作ってくれたけど、可もなく不可もない絶妙な味付けで、ある意味凄い才能だと思った。鶏塩鍋はとっても美味しかったです。明日は鍋の残ったスープにうどんを入れて食べようと思います。

                  end.

次回は姉弟の話です。

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