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実々:可愛いは正義


 「もしかして双子ちゃんですか?」



 振り返るとそこには天使が微笑んでいた。


 「「はぁ」」

 

 キュートな天使ちゃんからの質問とはいえ、短時間で二度も同じことを聞かれるのは精神的にくるものがある…。

 だから気の無い返事になってしまうのも許して欲しい。


 「やっぱり!この前もこの棚に来ていましたよね!?双子っぽいなーでも違うのかなーってずっと気になってたんです。うわぁ~スッキリしたー」


 えっ…!?何この子……可愛すぎるんですけど!!?

 あざとい可愛さじゃない!これは自然に創られた可愛さだ!!

 天然100%のピュアピュアの奴ぅぅぅ!!

 ……うっ、可愛すぎてドキドキする……。

 む、胸の前で手を合わせて喜びながらのハニカミっ……完璧だ。


 腰の長さまである少し明るい茶髪をざっくり三つ編みにしてあって、瞳の色は空を写したような水色。

 司書の黒色エプロンがとっても良く似合う天使が私たちの前に降臨した。見た感じ18歳くらい?

 と、天使ちゃんを見ながら考えていたら私の隣にいたあーちが特攻して行った。


 「ハーフなんですか?」

 「そうです。父が日本人です。でも生まれも育ちも日本なんですよ。名前もほらっ!」


 天使ちゃんが私達に近寄ってきて名札を見せてくれた。

 そこには、


 「「太一 天?」」と、印字されていた。

 「そうです!これでも一応新人の司書なんですよ!えっへん」


 名前は親から子供への最初の贈り物って言うけど、親御さん方は最高の名前を天使ちゃんにプレゼントしてた!

 『天』って名前、そりゃこんな天使だったら付けたくなる!

 今から心の中で『天ちゃん』って、呼ぶことにしよう。決定!!


 「双子ちゃんは高……大学生ですか?」

 「「いやいやいやいや……」」


 天ちゃんが私たちの心臓を笑顔で抉ってきた。

 ピュアの暴力…ぐはっ!!


 「8年前に大学出てますから、太一さんとは多分小学校も被ってないと思います」


 あーちもちょっとダメージを喰らっていたのか、少し顔が引きつっていた。


 「わっ!すみません!わたしも童顔って良く言われるんですけど、お二人は同い年かちょっと下かなって思っちゃってました」

 「「良く言われます」」


 この間もかなちゃんのお迎えに行く時に、私の少し前をママ友が歩いていたから走って駆け寄ったら『高校生が走ってきたのかと思った〜(笑)』と悪意ゼロで言われたばかりだった。

 私は14歳の母じゃないよ?26歳で母になったんだよ?

 せめて大学生に間違えて欲しい。高校生はどう頑張っても10代だから……。

 思わず天ちゃんの前で少し遠い目をしてしまった。

 いかんいかん、あと10年くらいしたら若く見られることに喜びを感じるんだろうか……。

 と、思考の海に沈んでいたら少し焦った天ちゃんが、


 「あ!学生さんかなって思った理由は見た目もそうなんですけど、若い人が滅多に寄り付かないこのジャンルに居たからなんです。レポートでも書いてるのかなって」


と、本音を溢してきた。

 天ちゃんはフォローするつもりで言ってくれたんだろう。

 しかし、その質問は中々に核心に迫っていて、思わず顔に力が入ってしまった。

 そりゃそうだ。30代の普通の人が『さて、縄文時代の本でも読もうかな。どれにしようか悩む〜!』とかそうそうならない。しかも冊数多い…。

 そっと隣のあーちの顔を見る…あーちも同じタイミングでこっちを見てきた。

 『あーち!上手く誤魔化してよ!』と眼に力を込めて念を送っておいた。

 するとすかさず、あーちは『無理だよ』と、早くも白旗を揚げているような視線を返してきた。…もうちょい気張れよ。


 「に、日本史が好きで個人的に勉強し直しているだけです」


 おい、ちょっとどもってるんじゃないよ。怪しまれるでしょ!


 「そうだったんですねー。……あれ?結婚しているんですか!?もしかしてお互いご近所に住んでて、二人で良く合ってるんですか?」


 キッ…、キャーーーーーッ!


 ほ、矛先がこっちに向いてきた!!っていうか指輪見る子なんだね。

 私なんかしょっちゅう指輪の存在忘れてるのに。

 たまにふと思い出して左手の薬指に『あ、まだ指輪嵌ってたわ。無くしてたらどうしようと思った☆』って思うくらいなのに。…これが女子力の差か。

 っと、そうじゃない!取り敢えず誤魔化さないと!!

 えーっと……


 「夫が単身赴任で1年日本に居ないから、その間実家に帰って来たんです」

 「わー!それはちょっと寂しいですよね!一人っきりになっちゃうから…」

 「そうですね……」


 実際日本に居るようで居ないのは私の方…。

 『なんか気付いたら本屋から強制的に里帰りもどきしてました☆』とは口が裂けても言えない。

 そして娘のかなちゃんがこの世に居ないことになってしまった……。大丈夫、ママの中でちゃんとかなちゃん居るよ……。

 な、なんとか誤魔化せたかな?

 天ちゃんも眉を垂らして寂しそうな顔をしてくれてるし…。そんな顔も可愛いぞ♡


 「わわっ!わたし凄く引き留めちゃってましたよね!?ごめんなさい!」


 慌てている天ちゃんも可愛い。

 しかし可愛い子には笑顔で居て欲しい、だから私たちは気にしてないよーと伝える為に、


 「「全然全然っ!」」と、食い気味に答えた。


 両手を顔の横でブンブン振るところまで揃ってしまった。…なんか恥ずかしい。


 「話し掛けて貰えて嬉しかったですよ!こっちこそお仕事の邪魔しちゃってごめんなさい。じゃあ頑張って下さい」

 「では…」


 …またまた私言葉数少ない…っ。

 心の中ではめっちゃ饒舌なのに。


 「はい!ありがとうございます」


 笑顔の天ちゃんとお別れし、あーちは急ぐように椅子に置いていた本を抱えて足早に階段に向かった。

 エレベーターじゃないの?

 あ、あれか…!?

 嬉しいことがあった日は一つ前の駅で降りて、幸せを噛みしめながら歩いて家までの道のりを帰っちゃうやつ?

 それなら仕方ない。階段を幸せを踏みしめながら登りんしゃい。


 あーちは2階で縄文の本をピックアップして1階におり、そのまま貸し出し手続きを終え、リュックの中に本と図書館カードを仕舞って、それから一緒に図書館を出た。

 なんか今日の図書館は色々と濃かったな…。

 図書館を出るや否やあーちはさっそく天ちゃんのことを話題に出してきた。


 「あんな可愛い司書さんが居たら連日通っちゃう人絶対居るよねー。今まで何で見たこと無かったんだろ?絶対に忘れないのに」

 「あーちは回り良く見ないから」

 

 図書館はキャバクラじゃないよ?

 しかも可愛い子目当てに通う発言はもうストーカー1歩手前だね。

 そして周りを良く見ないから素敵なおじ様を危うくボコるとこだったんだよ?


 「ぐっ……」


 あーちはおじ様のことを思い出したのか悔しそうに顔を少し歪めてきた。

 …反省するが良い。


 「そうだ!スーパーに入る前にお財布の中1度見ておかないと!お会計の時に初見は危険行為だよ。ちょっと公園行こう」

 「…話変えようとしてない?」


 無理矢理過ぎるだろ…。

 でも、多神さんがあーちのまとめた文章に納得していなくてそれでお金入れてくれていない可能性も否定出来ないッ…。

 だって『わたにほ』だもんね…。

 公園で中身を確認するか…。

 だって『わたにほ』だし。


 そして図書館から公園に向かって20mくらい歩いていたら後ろからさっきお別れしたばかりの天ちゃんの声が聞こえてきた。


 「小澤さーん!待ってーーーっ!」


 あーち何かやらかしたの?

 小慣れた感じで借りる本を読み取らせてたけど実は読み込めてなくて、窃盗紛いになっちゃってるとか?


 「太一さんどうしたんですか?」

 「はぁはぁ…間に合ったー!図書館カード忘れてましたよっ!」


 て、天ちゃんを息切れさせるなんて…あーち、悪い奴だ!

 あーちは目を丸くしながらカードを受け取ってすかさず名前を確認する。私も横目で確認…あーちの名前だ。


 「あれ!?本当にうちのカードだ!ちゃんとリュックに入れたと思ったのに!うわーっ本当にありがとうございます!すみません走らせもしちゃって……」

 「(この馬鹿が)すみません……」


 天ちゃんごめんね〜、そしてありがとう。


 「良かった~。このカードが無いと大変ですもんねっ!」


 はい、良い子。あーちもっと謝れ。


 「それにしても良く名前が分かりましたね。お陰で助かりましたけど」

 「あぁ!それはカードに印字された本のタイトルを見たらすぐに分かりましたよ!」


 おぉ、何か司書さんっぽい推理の仕方だ。

 あーちもそれを聞いて納得するように、


 「なるほど!日本史の論文を借りる稀有な人間はそうそう居ないからですね。今度からは本当に気を付けます!」


と発言した。

 『稀有』って言葉を使う奴が『稀有』だと思うのは私だけ?


 「いえいえー!図書館でお預かりして、次回いらした時にお渡しするのでも良かったんですけど、ちょっと個人的にお願いがあって勝手に追っちゃったんです…」


 ちょっと照れながら頬を指でかいて申し訳なさそうな顔するとか反則ッ!!

 『可愛すぎて辛い』って感情は、かなちゃんに抱いて以来初めてだわ。『可愛いは正義』って言葉はまさに真理です。

 そして天ちゃんの個人的なお願い…。

 お金とか犯罪にならない限りは叶えてあげたい!いやむしろ、叶えさせて欲しい!!

 

 「「お願いって何ですか?」」


 …またハモった。

天使の前では語彙力も制限されてしまうのか?今日ハモり過ぎでしょ。


 「わたし…この図書館に着任したしたばかりで、この地域のこと全然分からないんです。知り合いも友人も近くに居なくて…。だからお二人に仲良くして欲しいなって思いまして……ダメ…ですか?」


 きゅん。


 エプロンの裾のところを両手で掴みながらのお願い…悶え死にそう。

 あーちの方は…うん、あーちも心臓を撃ち抜かれたな。

 そしてあーちは天ちゃんが差し出した手に握手するモーションをしつつ、


 「もちろんです!是非仲良くしー………」と、言っている途中でいきなり空から…


 バサバサバサッ!


 「きゃーっ!」

 「うわっ!?えっ!?」

 「危ないっ!」


 黒い塊…もといBIGなカラスが私達と天ちゃんとの間に割り込んできた。

 とっさに天ちゃんを庇うように引き寄せたけど…。

 自分より天ちゃんの方が背が高いから、はみ出た部分が庇いきれない…。天ちゃん、おばちゃんちっちゃくてごめんね。

 カラスの方を見ながら、『わ、私達お菓子とか持ってません!買い物だって久しぶりなんです…。』と、念を送ってみる。通じろー、通じろー。

 するとカラスは天ちゃんに向かって、


 「カァーカァーッカッ!」

 「ひっ!……た……何で!?」


 め、めっちゃ話しかけられとるッ!!

 そしてこのカラス様デカいだけじゃなく、濡れ羽色っていうの?しっとりキラキラしています。何かわかんないけど格式高そう…。


 「カッカーカッ!」

 「ううっ……」


 えっ!?天ちゃん…カラス語通じてるの?!

 …神は美貌と優しさだけじゃなくカラス語まで天ちゃんに授けていたのか……。

 …ってそうじゃない!!

 抱き寄せてる天ちゃんの目から涙が溢れそうに…。

 『私がついてるからね!』という意味を乗せて潤目の天ちゃんをキュッとハグした。すると天ちゃんからも私にしがみつくようなハグが返ってきた。

 ……あーちからは嫉妬の眼差しが送られてきた。…羨ましかろう。

 しかし、あーちもこのままだと天ちゃんが害されてしまうと考えたのか、覚悟を決めた顔をして私達の間に降臨なされたカラス様に向かって、


 「ダメーーーーーーーーっ!」


と叫びながら思い切り手を払った。

 ……なんで膝下の高さのカラスに手を払うの?

 そこは足でいくところでしょ!あーちの手の振る速度なんてたかが知れてる…。


 「カァー…」 パサッ。


 案の定あーちの手は軽やかに飛び跳ねられるだけで避けられていた。

 しかもカラス様はどこか呆れ気味なご様子だった。そしてバッチリあーちの顔を覚えてしまった。

 やばい…私とあーちは顔がとても似ているんだった……。だって一卵性双生児…。

 私もカラスの敵として認識されてしまったかもしれない。

 あーち、やってくれたな……。


 「カッカァカ……」

 

 そしてあーちもカラス様に話しかけられていた。

 きっとあれだ、


 『オマエノ カオ オボエタカラナ。コノマチデ イキラレナク シテヤルヨ』


的なこと言われちゃったんだ……。はい、オワタ。

 カラス様はあーちの絶望的な表情を一瞥してから、再び天ちゃんと私の方に向きを変えてきた。

 そしてカラス様は天ちゃんに飛び掛かって……天ちゃんの足に嘴を突き刺そうと頭を地面に向かって叩き込み出した。


 「カァッ!」

 「いやーっ!」


 カッカッカッカッカッカッカッカッ…!


 「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダっ…!」


 カラス様と天ちゃんは、『突き刺す』と『避ける』の応酬を繰り返し、気付けば私たちからかなり離れた所にまで行っていた。

 1人と1羽めちゃ速い。

 天ちゃんのバックステップがキレッキレで、美しさについつい現実逃避込みで見惚れてしまった。

 天ちゃんのことを助けたかったけど、私たち一般人が踏み込んじゃいけない世界みたいなのが出来上がっていて、身体が動かなかった。

 そしてそのまま天ちゃんはバックステップで図書館の中に入って行った。…図書館の自動ドアも反応速いな……。

 次に天ちゃんに会ったときは心の底から謝罪をしよう。

 どうか嫌わないでいて……。

 そしてカラス様もとうとう諦めたのか何処かへ羽ばたいて行きました。

 どうかせめて1年はこの街で生きさせて下さい!!と、飛んで行くカラス様を見送りつつ念じておいた。


 「………」

 「………」


 茫然とするとはこの事だろう。

 さっきまでの出来事を嫌でも長期記憶に記してしまった…太字で。

 『現実は小説より奇なり』を体現するような感じだった。

 暫しの沈黙の後、あーちが立ち直ったのか、


 「…みっ……見た感じ怪我もして無さそうだったし、図書館に戻ってまた話し掛けたら良い加減業務妨害になっちゃうよね。それに烏が戻って来るかもしれないから、今日はもう……公園行こうか」

 「………うん」


 ………うん。

 一言も声を発する事もせず公園へ着き、丁度空いているベンチがあったので、視線で合図をして迷わず座った。


 「あんな非日常の光景だったのに、誰もうちらを気にも留めなかったね…」

 「道路挟んで向こう側は人通ってたけど、私たちの方には誰も来なかったねー」


 色々おかしい事が多過ぎてどこから突っ込めば良いのか分からなかった。

 そもそも天使がカラスに襲われてるのに何故誰も助けに入らないのか。

 日本の、否、世界の宝を失うとこだったんだよ?立ち上がれよ、日本男児よ!

 私たちは同時にため息をこぼし、この話題を終わらせることにした。


 「では、会計の一色さんお財布を出して下さい」

 「はぁ……はい」


 私はトートバッグからがま口財布様を取り出した。

 相変わらず少し草臥れている。

 これ、うちが開けるのか…。なんかある意味ホラーだよね…勝手にお金が増えていくって言うんだから。

 こ、怖い……。

 だから、あーちスマン!!


 ぱちっ!


 私は両眼を固く閉じたまま思いっきりがま口様の口を開けた。だって怖いんだもん!!


 「また小さい封筒が入ってる!」


 あーちが確認したようだ。よし、目を開けよう。


 …ぱちっ。


 「ぇ……?あ、本当だ」


 確かにがま口様の中に小さい封筒が入っている。

 でもなんか触りたくない……。

 そう思ってただ黙して封筒を見つめていたら、あーちが痺れを切らしたのか、横から封筒を摘み出しだ。


 チャリッ。


 「あ!小銭の音したよね!?」

 「あーち見てみて」


 あーちが働いて(?)稼いだ給料みたいなものだからやっぱりあーちが開けないとね♪

 さ、早くオープンして!

 あーちは私を横目で軽く睨んできたが、渋々封筒の口を開き、手のひらに出してみた。


 ジャラッ!


 「……いくら?」

 「396円だ!しかもちゃんと小銭が3日分まとめてあるっ!」

 「凄いっ!多神さん良い人だねーっ!」


 小銭だらけにならなくて良かった。

 多神さんは気遣いの出来る人、否、気遣いの出来る神様でした。


 「ん?また手紙っぽいのが入ってる」


 と、あーちが中に入っていた二つ折の紙をペラリと開いた。

 そこには、


 『確認してくれ』


と、流麗な字で一言書かれていた。


 「ありがとうございます。確かに受けとりました」

 「………外で斜め上見ながら両手組んでお礼言わない方が良いよ。私が変人の仲間って思われちゃうから」


 急にベンチに座ってた人間が祈るように斜め上の方を見ながら両手組み出して喋り出したら100%ヤバい奴だから…。


 「むっ!なら指輪に向かって言う……ありがとうございました。今後とも宜しくお願いします」

 「うわ………」


 うわ……。それ画的にヤバいから……。

 …チラッ、良かった誰にも見られてないはず……。


 「両替機能も備わってるし、先に3万円の方から使って、足りなくなったら封筒のお金を使おうか」


 良いでしょう。


 「ん。入ってた手紙はどうするの?」


 私はあーちの指に挟んである手紙を見て聞いてみた。

 すると、あーちはニヒルな顔で瞳を輝かせながら、


 「ふふふっ。丁度良い大きさだし栞にしようかなって。それに文面も『確認してくれ』だよ?大事な箇所に挟むしか無いでしょー」

 「そう……」


 まぁ、とても美しい字だから棄てるのは勿体ないもんね……。

 私たちはお金を封筒に入れ、がま口様に戻した。

 ついついバッグにしまう時に遠い目をしてしまったがそれも仕方のないことだろう。

 ……はぁ。とため息を一つこぼし、


 「よし!買い物しよう」

 「はーい」


 ついにスーパーに辿り着けた。

 何故だろう、今日という時間がとても長く感じられた。

 あーちはアジフライと言っていたけど、お惣菜コーナーのチキン南蛮が『ワタシヲ タベテ』と、私に囁いてきた気がするのでゴリ押しでチキン南蛮にした。

 後は葉物野菜やらパンやらを買って家路に着いた。どっと疲れた…。



*****


そしてあっという間に夜ご飯の準備の時間


 ズダンッバンッッ!


 「あ」


 ……あ?


 「ねぇ何の音!?あと『あ』って何で言ったの!?『あ』って何?」


 のんびりテレビを観ていたら聞き逃せない音がキッチンから聞こえてきたので思いっきり音の発生源の方に顔を向けてみた。

 何やったんだお前!!

 『ズダンッバンッッ!』って普通に野菜切ってたら聞こえない音だよ?

 あーちは顔を強張らせながら、


 「………白菜切っただけだよ?さ、気にせず寛いでて」

 「ふーん…」


 『ふーん』とは言ったが怪し過ぎるだろ。

 絶対包丁か、まな板に傷を作ったに違いない。

 あーちは豆腐の水切りで『自動皿割り機』なるピタゴラ装置を創り出せる人間だから。

 豆腐の上にお皿を乗せてその重しで水切りするだけだったのに、あーちのピタゴラ装置はフィニッシュに豆腐の上の皿が流しに滑り落ち、そして割れるというものになっていた。

 あれは本家も吃驚のピタゴラフィニッシュだった。

 まぁ、今日の所はこれ以上突っ込まないでいてあげよう。今はテレビの続きを観るか…。


 晩ご飯になり出てきたのは白菜のうま煮だった。

 とびきり美味しいという訳ではなかったけど、まぁまぁの出来だった。

 調理中の音がもっと静かだったらもう少し美味しく感じられたんだろうか。



2018年11月22日(木)


 今日は久しぶりに外に出ることが出来た。

 素敵なおじ様や天ちゃんに出会えたのは嬉しかった。

 あーちと私と多神さんという世界に新しい色が足された感じがした。だけど、カラス様が私たちを裁かないかだけが気がかり。


追記

 あーちが髪を洗面所で乾かしてる時にソッとまな板と包丁を確認したらまな板に知らない傷が出来ていた。

 …あのヤロウ。

             end.






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