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民の声は届く

5日目の話です。


時間で言うと幕間前後です。


2018年11月22日(木) 朝 曇り

    


 「ねぇ気付いたの…」

 「何に?」


 みーちが悩ましげな雰囲気を精一杯作り出したうちの方を一切見ずに、間髪入れずに聞いてきた。

 今日の彼女の朝ごはんはトーストをコーンスープにディップして食べるスタイルらしい。

 せめてチラ見を下さいよ。チラッとさ。


 「今日も多神さんは夢に出て来なかったわけなんだけど、それは質問や疑問を投げ掛けてないからだって」


 そりゃ何の用事も無いのに来ないわなって。

 それかうちの睡眠に対する執念に対して遠慮してくれたかのどっちかだなって思ったのよ。

  

 「あっそう。で、あーちは何か聞きたいことあるの?」

 「わざわざ聞くほどのものは無い」

 

 聞きたいのは多神さんの本当の名前くらいで、【わたにほ】について指摘とか注意があったら向こうから言ってくれるだろうしね。

 よって、むやみやたらに行動を起こさずに穏やかに過ごそうと思う。…うちって何故か不思議なことに怒られ体質だし。

 [自分のことなのに全く原因が分からない七不思議]の1つだわ。

 まぁ、あと残りの6個今すぐ言ってみろって言われてもパッとは浮かばないけど。

 うーん……でも、全部で三不思議くらいなら言えるかな?

 2つ目.言動に対して即座にツッコまれる

 3つ目.黙っているのに「うるさい」と言われる

 4つ目.常識を突然説かれる

 5つ目.普通じゃないと言われる

 ……あ、5つ言えた。


 目のピントをぼやかして、斜め下を無表情で見つめたまま自分の世界に入っていたうちに、みーちが淡々とした表情で話題を振ってきた。


 「そうそう、今日買い物に行かないともうおかず出来ないかも」

 「そろそろ兵糧が尽きるのか…」

 「戦国時代かっ!」


 みーち、やっぱり流石だね。

 同じ土俵の上に居るのがありありと分かるよ。

 きっと籠城してて疲労が溜まっているところに「食料がもうすぐ尽きますっ!」って部下が悲壮感に溢れた表情で言っているのを想像しているんでしょう?ふふふっ…あーちにはお見通しですよ。


 そこからは終始ご機嫌になり、「なんでホット牛乳でグラノーラ食べてるの?」ってみーちの冷めきった表情から放たれた質問も「冷えは女の敵だから」で華麗に返し、掃除機もうろ覚えの歌を歌いながらいつもより丁寧にかけた。えぇ、ご機嫌です。


 お勤めが終了した後に、お昼は何かなと片隅に思いつつ縄文時代のまとめをどうやろうかと本を両手に持ってソファーでウンウン唸っていたら、目の前に同居人が立った。

 何か用があるのかと思い、話を聞こうとうちが顔を上げたのと同時に、開いているページにスッと栞が挟まれた。


 「…はへ?」


 バタンッ!

 

 「痛ーい!」

 指も挟まれた。


 「いつまで引き籠るつもりだァっ!」


 本を完全に取り上げながら鬼の形相で見下ろして来た。

 表情よりも怒りの沸点が分からないところが怖い。指も痛い。


 「えっ……まだ(籠って)4日しか経ってないよ?」


 週1しか外に出ないのは流石にちょっとまずいけど、4日籠るのは許容範囲でしょ。


 「QOL(キューオーエル)ッ!QOL(キューオーエル)ッ!」

 「はわっ…」


 今、[Quality of life-生活の質]を訴えられているっ…。

 みーち1人しかこの場に居ないのに、さながら海外のデモ隊に見える。『QOL』って書かれたパネルがあったら完璧なやつだ!


 「みーちはうちに付き合って籠らずに、好きにお出掛けしてくれて良いんだよ?」


 根が真面目だから一緒に居なきゃって思ってくれていたんだろう。

 でも安心して。うちは1歩も家から出ないから大丈夫だよ。お散歩に行ってらっしゃいな。何ならお茶の1杯くらい飲んで来ても良いんだよ。

 発言の何が気に触ったのか、小鬼さんは更に目を吊り上げて怒りのボルテージを上げてきた。……最後にほにゃんって柔らかく微笑みかけたのが悪かったのだろうか。


 「買い物行かなきゃって言ったじゃん!1人で行かせる気!?それに健康になったってのに籠ってたら別の病気になるわっ!表出ろ!」

 「ひぃぃっ…」


 最後のワードが1番怖かった。

 『表出ろ』なんて普通に暮らしてたら絶対耳に入らないやつだ。

 今までの自分の人生はぬるま湯だったんだって実感した。みーちが妙に言い慣れている感じがするのは頑張って気にしない事にする。


 「わ、分かった。でもまとめ終わってからで良ー…」

 「ダメっ!今日はやらなくて良い!」


 まだご機嫌伺いの途中だったのにぶった切られた。

 夕方に外出するのは、すっかり日が短くなったし冷え込みが厳しくなって来たから嫌なんですか?

 みーちの感情の波は難しいから読めません。



《小話 実々の1年》

秋:日がつるべ落としですぐに暗くなってしまう寂しさもあって、切ない気持ちになる。

冬:寒さが骨身に染みるし、木枯らしが何とも言えない気持ちにさせる。

春:暖かくなってきて自然とウキウキしてくるけど、見えない悪魔(花粉)で憂鬱になる。

夏:日が長過ぎて、1日が長く感じられて疲れちゃう。


 結局のところ、丁度良いと思える瞬間がほぼ無いらしい。

 日本にもしも白夜があったらみーちはどうなってしまっていたんだろうか。

 ……多分、気が触れていたことでしょう。

 「眩しすぎるわ!いい加減寝かせろやっ!」ってね。

                    完



 とりあえず、こっちとしても譲れないものがあると主張せねば。

 みーちの顔色を完全に伺いながら口を開かせていただく。

  

 「でも日本史やらないと終わりに近付けないよ?日課にしちゃえば何の苦にもならないし、それにまだ旧石器終えたとこだよ?今日休むことで、万が一終わらなかった時に『あの日休まなければっ…』って後悔しない?」


 うちを見下ろす御方が、本日最高潮にお怒りになった。


 「んな1日で変わるかっ!世の中には効率っつーもんがあるでしょう!今日休むのがしんどいんなら明日その分2倍やったら良いだけでしょ!メリハリ大事っ!惰性でやるな!」

 「あうぅ…」


 みーちが〈働き方改革〉を推奨する事業主に見える。

 終業時刻になった途端に、照明もパソコンの電源も落としちゃう人だ…。

 そんでもって「残業する奴の気がしれないね」とかを口癖にしちゃうんだ。そして座右の銘はきっと「効率重視」だ。

 もう勝てない。ここに敗北宣言をしよう。


 「分かった…今日はお休みする。でも読書だけはさせて下さい。あと買い物の前に図書館に行って良いですか?読み終わったやつを新しい本に交換したいです」

 「その願い……叶えましょう!」


 おぉ…みーちから黒いものが抜けていったのが、もうすぐで視認出来そうだった。めちゃめちゃ笑顔になってくれた。

 今後の関係性もキープ出来たようで何よりです。


 「あっ!毎日ほぼ毎食作って貰ったから、お夕飯のおかずは今日はうちが作るよ。アジフライでも何かメインのお総菜買ってさ♪みーちはゴロゴロしててー」

 「えっ……もしかして1品しかあーち作らないの?」

 「え?複数は無理でしょう」


 うちはどんな簡単メニューでも1品作るのにしっかり30分以上かかってしまう特殊能力故、平行してもう1品作るのは不可能。

 たとえ、〔調理時間10分〕とレシピに記載されていても、例に漏れず30分かかる。


 「えぇー……」

 「えー…」


 しばらく「えー」の応酬を繰り広げた後、実々様が作って下さったピラフを食べ、食休みをたっぷりしてから外に出た。


 ちなみにみーちの着ている服は姉のやつで、うちの「これ着るー?」って提案は「あーちの服は合わない」とキツめに断られた。

 決してダサいのではなく、少しばかりデザインに個性がある服なだけだもん。うえーん。

 てか、双子なのに似合う服や似合う色が全然違うのは何でなんだろうか?

 各々が持つ性格が左右しているのかなぁ。うちは[明るい]で、みーちは[内弁慶]?

 ……内弁慶ってどんなジャンルなんだろ。

 少なくともカジュアルでは無いな。



*****


おやつ前  曇り


 「とっととととと到着ーっ」


 図書館に無事に着いた。

 特に道中に(いばら)や開かずの踏切があったりはしない、ごく普通の平坦な道だから無事なのは当たり前。


 早速無人の返却口に本を「さんきゅーでしたー」と労いの言葉をかけながら入れる。

 この時に、みーちの顔を視界に入れないようにするのがポイント。

 そしてすっかり使い慣れたトイレからの検索機へと足を運ぶ。


 「行くべき場所は分かってるんだけど、出版年をここで調べた方が早いでしょ?」


 言い訳がましく相方に説明をして、《縄文》と検索。ポチっとな。


 ズララララー…


 「やっぱり旧石器とは桁違いの量だねー」

 「………」


 驚くだろう?妹は無表情なんだぜ。

 早く最新の本を確認してサクッと借りに行こう。

 なんでみーちは図書館に付き合ってくれるんだろう。

 アレなの?監視役を兼ねてるの?

 うちが突然暴れ出したり、本に水をぶちまけたりすると思ってる?

 ねぇ、うちに対する信用って本当に無いの?

 悶々と色んな事を考えつつも、あっという間に本のチョイスが終わったので、前傾姿勢から体勢を変える。


 「良しっ!これでおっけーい。んじゃ行こー……おわぁっ!」


 振り向き様に後ろに居たお爺さんに綺麗な裏拳をお見舞いしてしまうところだった。

 これからは遠心力に乗せて腕を広げないようにしなきゃ。


 「ごめんなさい!当たりませんでしたか!?動く前に良く確認すれば良かったです…」


 お爺さんの体に触れるか触れないかの距離感に両手を出して、ハの字眉で誠心誠意の謝罪を口にした。

 隣を見るとみーちは、うちを批難しつつお爺さんに対しては申し訳無さそうな顔をする器用なことをしていた。


 「大丈夫だよ。こちらこそ近くを通ってしまったのがいけないんだ。お互いに気を付けようね」

 「ふわぁ……はい、気を付けます」

 「(このアホ女が)本当にすいませんでした」


 優しい笑顔で言ってくれたからうっかりアホな声が出てしまった。

 突然怒りだすような御仁でなくて本当に良かった。穏便に事が済んで何よりである。「指置いてけ!」とか言われないで良かった。


 それにしてもこのお爺さん背筋がシャンとしてて、とてつもなくお洒落さんだ。

 まさに英国紳士って感じを全面に押し出している。

 ロマンスグレーの綺麗な髪にチャップリンも被ってたような半球みたいなボーラーハット。

 上下グレンチェックのブラウンの三つ揃えを華麗に纏い、そこに髪色と似たグレーのループタイで遊び心をプラスしている。

 ダメ押しの飴色のステッキも銀縁眼鏡も最高にキマッちゃってる。

 うちの3人目のお爺ちゃんになって欲しい。孫はいりませんか?


 「もしかして双子さんかな?」

 「「一応そうです」」


 自分達でハモっといてアレだけど、なんだ「一応」って。

 眼鏡を掛けてないし背丈もほぼ一緒だから、まごうことなく双子だなって端から見たら分かるんでしょうな。

  

 「本当に良く似てるねー。……そうそうこの場所に行きたいんだけど、司書さんが何処にも見当たらなくて困っていたんだ。何処か分かるかな?」


 検索機でコピーした紙をこちらに微笑みを(たた)えながら差し出してきた。

 反射的に受け取って二人で覗き込む。

  

 「地下1階の英字小説の棚だ。結構奥まった場所なんで良ければ一緒に行きませんか?」

 「良いのかい?」

  

 お爺さんは申し訳なさそうな顔で、まだ二言しか発していないみーちに聞いてきた。


 「……はい」こくり。


 シャイなウーマンからの許可が下りました。


 「エレベーターで行きましょう。私たちも同じ階に行くつもりだったんで」

 「ありがとね」

 「ふふふっ。お気になさらず」


 気にしないで下さいな。困っている素敵なお爺ちゃんを孫(仮)は見捨てませんよ。

 そして外ではちゃんと一人称は「私」にしますよ。良い大人ですから。


 3人で乗り込み、地下1階に到着。

 なんとなく場所は分かるけど、お爺ちゃんのうちに対するポイント稼ぎのためにもノーミスで案内したい。なのですかさずフロアマップをしっかり確認。

 そしてお爺ちゃんとニコニコ笑いかけ合いながら目的地に恙無(つつがな)く着けた。

 ミッションコンプリート!

 But!最後の仕上げは怠らない。

 すかさずお爺ちゃんの求めている本を探す。なんてったって孫ですから。


 「この本じゃないですか?」

 「おぉ本当だね。何から何までありがとうね。もし良ければまた今度この老いぼれを見かけたら気軽に声を掛けておくれ、素敵なお嬢さん方」

 「はぁい。ではまた!」

 「……では失礼します」ぺこり。


 ふおぉーーーーっ!

 これは最早孫認定されたも同然だわ!

 てか、お爺ちゃん英字の小説ってどこまでジェントルマンなんですか。コナン・ドイルって表紙に書いてあったような?

 孫の好感度は天井知らずに上がりまくってるよ。

 【社交辞令】は知らない単語なので、次見掛けたら絶対声かけちゃいますYO。

 スキップをかましたいのをグッと堪えて、フロアの正反対に位置する、本来の目的地に浮わついた足取りで向かった。


 「素敵な出会いだったねー」

 「そうだった?…危うく暴行事件になるところだったじゃん」

 「未遂だから」

 「まぁお洒落なジェントルマンだったねー」

 

 お目当ての本を真っ先に確保して、他の気になる本の目次と文章をしゃがんだ姿勢でパラパラとチェックしながら会話をする。

 おお、これにしよう。キミ、うちに来ないか?ってね。

 2階にも行かないとなぁと立ち上がったところで、後方から知らない声がうちらに問いかけて来た。


 「もしかして……双子ちゃんですか?」



 あなた達が「双子」と聞くから、今日は双子バレ記念日。



思金神の格好は私の完全な趣味です。

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