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夕暮れのマタニティー
男がいた。
『お腹の中に赤ちゃんがいます』
そう書かれたシンボルを手に
男がいた。
車両の最前列で、
満足げに腹をさすって、
ほほ笑みを浮かべて。
スマホを見て。
隣の老婆が尋ねた。
「おめでたですか?」
男は答えた。
「えぇ、幸せな気分です」
下校時刻にしては
今日はやけに物静かだった。
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下校時刻になれば、子供らはどうなるでしょうか。
各々遊びに行くかもしれません。
電車の中で騒ぎ立てて、お年寄りや妊婦さんを傷つけてしまうかもしれません。
お腹の中に赤ちゃんがいます。
その言葉はどういう意味でしょうか。
本当に赤ちゃんがいるのでしょうか。
それは誰の……いや、なんの赤ちゃんなんでしょうか。
人は人という形をしていますが、それは本当に人なのでしょうか。
もしかしたら、私一人だけが人なのでしょうか。
そもそも人とはなんなのでしょうか。
そもそも生命とはなんなのでしょうか。
どうして、私は男の形をしているのでしょうか。