逃走
電話は携帯ではないようだ。
別室へと歩いていく音が、それを物語っている。
想定外のことが起きた時、人の動き方は2つに分かれる。
その物事に対して、動けるか、全く動かないかのどちらかだ。
ここにいるほぼ全員が、動けないほうの人間だったらしい。
工場に電話が生きているということは、ここは誰かしらが持っている工場ということだろう。
「携帯電話が逆探されたってことか?」
運転手が誰かに聞く。
車のドアが閉められているが、声ははっきり聞こえていた。
「……どうもその様子です」
「いやいやおかしいだろ。どうして逆探できないような携帯使ったっていうのに、逆探できるんだよ」
「この女、タダモノじゃないのかもしれないですね」
タダモノじゃないのは事実だとは思う。
ただ、それがどの程度か、といわれたら分からないだけだ。
もっともっとすごい人らが私の周りにあふれかえっているぶん、私が本当にすごいのかどうかということが分からなくなる。
ただ、その程度だ。
「おい、お前ら場所を動かすぞ」
「へい」
慌てた口調だ。
親分はどこか別室から戻ってきたようで、次々と矢継ぎ早に支持を出し続けた。
そのうえで、この廃工場は放棄するということも聞こえてくる。
問題が一つあるとすれば、さっきの電話がかかってきた時点で、すでに遅かったということだ。
「ねぇ」
私が声をかけるが、誰一人として反応することはない。
車に乗り込んできた面々を見て、顔つきを見る。
かなりの恐怖、怯えが顔全体を覆っている。
どこで計画を間違えたのか、という一点で考えていながらも、どうなってもまずは当初の計画通りに事をすすめようとしているようだ。
それがすでに計画として破綻していながらも。
バンはゆっくりとそれからすぐに廃工場を出た。