どうしよう
私が飲み終わるのに、ほんの30秒もかからなかった。
もともと10秒前後で飲みきれるようなものだ。
ガッと飲んで、バッと働けることができるようになっているらしいが、詳しいことは知らない。
「飲んだな。昼も食べたことだし、あとは少し待っていてもらおう」
そう言われて、親分は私が乗っている車のドアを全部閉め、ご丁寧にもチャイルドロックまで掛けた。
これで内側から開かないということらしい。
もっとも、両手両足が枷で不自由となっている現状、そこまでする必要性は感じないが。
それで、暇になった私は周りに耳を傾けることにする。
どれだけ閉めていようが、外の声はどうにか漏れ伝わってくるからだ。
「逃げ道は確保しているんだろうな」
「ああ。バイク便で指定の地点まで荷物を運んでもらうことになっている。南港にな」
二人の会話は、親分と運転手だろう。
南港ということは、犯人らはどこかのタイミングで動くつもりらしい。
南港は大阪の海側にある地名で、その名の通り、港となっていて貨客船がよく来ている。
となれば、おそらくは船に乗って、どこかに逃げるつもりだろう。
国際航路もあり、世界のあちこちに行くことができるようになっている。
どの船に乗ったかによって、私も考えを修正する必要があるだろう。
「行き先は?」
「指定通り。まずは四国、高松港だ。仲間はそこで待ってくれている。そこからは一旦車で山越え、四国山中でしばらく生活してから、高知の方向から海外だ」
「荷物はどうするつもりだ。一緒に連れて行っても足手まといになるだけだろ」
「ああ、高松港に行くのは俺らだけだ。荷物は一足先に海外の顧客へと運ぶ。貨物船の船長にはもう話はつけているんだ。あとはコンテナを1つ、そこに詰めて送るだけさ」
「なるほどな。死なないだろうな。死んだら商品価値はゼロだぞ」
親分が一番心配していることと言えば、やはり金のことなのだろう。
私が死んだら、一銭にもならないということを思っているらしく、やはりというかなんというか、そのことばかりを気にしているように聞こえる。
「親分、向こうから電話がかかってきました」
「何を言ってんだ。そんなはずはないだろ」
聞いたことがない声がすると、おそらく子分だろうと思うが、親分は想定外のことが起こったことを察したようだ。少なくとも、最初に思い浮かべていた計画は破棄することになるのは間違いない。