人質
3人目がコンテナの荷物と化したところで、集団の足音がする。
「おっと、俺がここにいたらいけないな……」
暗殺者は身を隠すための帽子を付け、コンテナ前からあっという間に去っていく。
私の耳には何も聞こえなかったが、暗殺者にははっきりとパトカーのサイレンの音が聞こえていたようだ。
まだまだしたりないような顔が寂しげに見えたが、それよりも、親分らは逃げ出そうとしていた。
「この女はどうする」
「顔を見られてるんだ、殺せ」
運転手にアッサリと言うが、私が今こうして生きていることからも分かる通り、それは失敗に終わった。
親分は私を無理やりひざまずかせ、それから運転手が親分を見ながら何やら意味ありげにうなづいた。
それから銃を片手に持ち、運転手がまさに今私を殺そうと銃口を向ける。
私は銃口を見つめながら、自然に笑みがこぼれた。
「……不気味だな、何笑ってんだよ」
「だって、あなたたちの未来が見えるもの」
比喩表現だったが、本当に何か見えているのかと思ったのだろう。
すこし撃つのをためらった。
その瞬間、私の目の前で光がはじける。
反射的に目を閉じるが、意識を失う、ということはなかった。
目を開けると、運転手が銃を持っていた右手を強く抑えている。
親分は何かを叫びつつ、この場から逃げようとする。
途端、警官らが私たちの周りを取り囲んだ。
「人質を解放せよっ」
機動隊らしき人らが透明な盾を持って私たちのところへとにじり寄ってくる。
彼らの後ろには、メガホンを持ったスーツ姿の人がいる。
その人は、前、仲介屋の家で見たことがある警部さんだ。
それを見た親分は落ちていた銃を拾い上げ、盾へ向けて1発撃った。
「ここまで来たら、人質を殺すぞっ」
銃弾は盾に阻まれて機動隊へと届くことはなかったが、こちらへと近寄ることはなくなった。
親分はそれを見て、にやりと笑い、私を立たせて左腕で私の首を絞めつつ、右腕で銃をこめかみへと押し当てる。
これで敵にあたる機動隊の人らは身動きができなくなったと考えたのだろう。
私を人質に取り、船でも用意させて国外逃亡を図るつもりなのかもしれない。
もっとも、私はそれがうまくいくとは到底思わなかった。




