ヴァーリの使徒 最終話
実は俺がしたのは、移動魔法を唱えポータル開いたふりだけなのだ。
彼女は混線させたポータルを逆に利用して俺の目の前に来て捕らえるつもりだったのだろう。だが、俺がしたのは開くふりだけで実際にポータルを開いたのはレアだけだった。
これまでの経験で、レア、というよりも俺自身も含めた移動魔法の欠点を知っている者たちがポータルを混線させようとするとき、そのためだけに移動魔法を唱えるので行き先を指定していないことに俺は気がついていた。
しかし、行き先を指定しないとポータルを開くことは出来ない。だから、無意識でどこかへと繋いでいるのだ。
それを利用するために、あえてとても遠く人口密度の高いサント・プラントンという地名を言葉にして聞かせることで、無意識に彼女の思考をサント・プラントンへ誘導して開かせていたのだ。
レアはポータルの混線を利用して俺に近づくために目の前にポータルを開いて、そして、自らその行き先を確かめもせず突っ込んで行ってくれたのだ。
それはある種の賭けだった。冷静にどこにつながるかを確かめてられていたら俺の負けだった。
だが、焦っているのはレアも同じはず。冷静に確かめているはずもない。勝てない賭では無かった!
「ごめん、レア。もう止まれないんだ」
レアとポルッカはサント・プラントンの入り口である橋の横に広がる芝生に倒れ込んだが、すぐさま立ち上がった。
振り返りポータルに向けて腕を伸ばしペン先をこちらにかざしたが、諦めたように立ち止まり魔方陣を解いて腕を下ろした。
ポータルはすでに閉じかけて人が通れるほどの大きさではなくなり、さらに小さくなっていく。
「まさか、ブルゼイ族とも手を組んで、そこまで信頼関係を結んでいたとは思いもよりませんでしたね。
さすがです。でも、驚きはしない。それこそが、さすがとしか言いようのない、あなたらしさだからです。
すぐに追いつきます。どこまでも追いかけますよ。待っていなさい」
閉じていくポータルの先でレアが俺を睨め付けている。閉じきるまで彼女はその怨みがましい視線を俺から離すことは無いだろう。
強く鋭く、剣を突きつけるように睨んでいる。だが、以前ワタベに向けていたような地獄の底から見上げる不気味でおぞましいような顔はしていなかった。
きっと、そう見えているような気がしたのは俺だけで、俺はレアに対してまだ仲間であるという意識を捨てきれていないのだろう。
空を見上げると、もうトンボはかなり高く飛び立ってしまっている。遙か上空というわけではないが、装甲車が小さく見えるほどかなりの高度に登っている。あれに俺は乗り込まなければいけない。
いつまでも怨みがましい視線に答えていてはせっかく押さえ込めたのに間に合わなくなってしまう。レアから視線を外し、ポータルが閉じきる前に俺は杖を地面に向けた。
ノルデンヴィズでアニエスと喧嘩したときに使ったあの魔法で地面を弾き自分自身を吹っ飛ばして、ベルカがまだ開けてままにしてくれているドアに向かって思い切り飛び込んだ。




