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ヴァーリの使徒 第七話

「北公が私と円満に取引すれば、誰もビラ・ホラに辿り着かず悠久の眠りから起こされることなく資源も景観も守られる。

 しかし、あなたがたどり着いてしまえば、あなたを尾けている北公が必ず後を追ってビラ・ホラを占拠する!

 そんなことをさせるわけにはいきません! よく考えなさい! それも理解出来ませんか!?

 今もどこかでこの会話を聞いているムーバリは、あなたの止まることの無い勢いに間違いなくほくそ笑んでいますよ!?」


 レアもこちらが差し向けた杖に反応するように羊飼いの如何様(ケーリュケイオン)を袖から出し、ペン先をこちらに向けて右手で握った。キャップに親指を掛けると、きりきりと鼈甲が擦れる音がした。


「取引をするために計画を頓挫させておいて何が円満な取引だよ! せざるを得ない取引を強要しただけじゃないか!」


「おい、イズミ! 急げ! トンボがもう来ちまってるぞ! 早く装甲車に乗らないと置いてかれちまう!」


 ベルカの呼ぶ声がするが、そちらを振り向くことが出来ない。今目を離せば、レアに拘束される。

 背後から吹き付けている風は強くなっている。おそらくもうトンボは装甲車に足をかけている頃だろう。


「大丈夫だ! あんたらは先に行け! 何とかなる! 振り返るな!」


 装甲車の中にはアニエスがいる。以前ユリナが飛行機で砂漠に来たとき、飛行機での上空移動であったがグラントルアにポータルを繋げられていた。だから仮に置いていかれても移動魔法で繋げばいい。

 三人で行動することを絶対にしていたが、こうなっては仕方が無い。ベルカとストレルカも今や信用に値する。いざとなればセシリアを守ってくれさえするはずだ。

 だから、あいつらを確実にビラ・ホラへ行かせる為に、この二人はここで必ず足止めしなければいけない!


「ポルッカ、トンボを撃ちなさい! 翅です!」

「御意に」


 そう言うとポルッカは躊躇無く引き金を握った。

 アスプルンド零年式二十二口径の大きな破裂音がすると同時に金属の弾けるような音が聞こえた。


 しまった。俺はトンボの方へ振り返った。


 しかし、トンボはまだ力強く翅を羽ばたかせている。

 銃声で聞こえづらくなった耳にすぐに力強い翅音が戻ってきた。

 撃たれた事などまるで無かったように、大きな風を起こしながら掴んだ装甲車を離さずに今にも飛び立とうとしている。

 運良く翅にはあたらなかったようだ。だが、足に当たってしまった。とれてしまった後ろ肢が地面に落ちてもだえ苦しむように暴れ、砂を掻いてくるくると同じ所を回っている。

 可哀想に、飛び立てるだろうか、不安を抱いた次の瞬間、つなぎ合わせた金具と金具がこすれ合う音を上げてトンボはゆっくりと飛び上がったのだ。


 いける。もう大丈夫だ。


 夜明けの青空に飛び上がるトンボを見上げたそのとき、ここは必ず逃げきれるという確かな気配を強く感じ、翅の起こす振動ではない何かによって胸の奥が突き上げられるような気がした。


「利き腕ではないとな、どうも。それに使い慣れていた銃でもないともなると、やはりやりづらいな」


 ポルッカが悠長にそう言う声が聞こえてそちらへ振り返ると、突然足下が黄色く光り出した。

 トンボに気を取られた隙にレアが魔法を唱え、また俺をテッセラクトに放り込もうとしているようだ。

 放り込まれてもすぐに出てこられる。だが、二人がその間待ってはいない。ここで止めなければ執拗に追い回す。

 あちらは時間の流れが速い世界だからと言ってのんきに捕まっている暇は無い!


 すぐさま地面を炎熱系魔法で弾いて魔方陣から脱出した。巻き上がった砂が魔方陣に吸い込まれて消えていく。すんでの所で除けられたようだ。


 トンボは無事、次弾までは余裕がある。こうなればあとはレアだけだ。


 俺は杖を振り上げて「申し訳ないけど、邪魔をするなら()()()()()()()()()に帰ってくれ!」と移動魔法を唱えたときのように魔方陣を煉り上げた。


 レアはすかさず反応し「無駄です! いまさら舐めているのですか!」と手の中のペンを回し、「私たちは移動魔法への対策を心得ています。あなたもそれを知っているはず! まだ危機感が足りませんね!」と覆い被せるようにポータルを開いた。


「止まらないというのなら、その足を私たちが止めるまで! ポータルを混線させてあなたの目の前に直接伺います! 貴方を捕まえてから他の人もゆっくり捕まえることにします!」


 そして、レアはポータルが開くと同時にポルッカを伴いそこへ飛び込んだ。


――かかった!

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