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斯くして熊は再び立つ 最終話

「閣下がノルデンヴィズ南部戦線で勝利したことは大いに支持します。ですが、南進を始めたというのは大局で見れば大きな過ちです」


「何故ですか!? 勝利は勝利ですよ!? 大局での勝利はその積み重ねではないのですか!?」とウトリオは理解を得られない事への悲痛な声を上げた。


「確かに勝利の積み重ねは必要ではあります。

 ですが、今回の勝利は一度の戦いにおける戦術的勝利であり、これから長期にわたり幾度となく行われる戦いを勝ち抜くために必要な戦略的勝利ではないのです。

 今回の戦争は、モギレフスキー夫妻のような英雄が数人いれば戦局が変わるこれまでの戦争とは異なります。

 革新的な兵器である銃の登場により末端の兵士一人一人までが英雄ほどではないが確実な殺傷能力を持つようになりました。

 ならばこちら側が圧倒的に有利かと言えばそうではなく、電撃的に首都攻略ができていないのが現状。

 命懸けなのは相手も同じ。連盟政府は弱体化しているとは言え、二百年続いた国家。馬鹿ばかりではありません。銃に対抗すべく魔法での戦い方を的確に改めてきています。

 銃を持ち強くなったのは北公だけではなく、より強い兵器が登場したことで相手も強くなると言うことなのです。

 その状況下で私たち三人がなぜここにいるのか。イズミさんたちを追いかけながら説明致しましょう」


「それと今回の連盟への大攻勢とは関係があるのですか?」


「大いにあります。このままでは北公は大敗を喫します。負けなかったとしても、惨めな結果になるでしょう。

 侵略戦争なら撤退で済むでしょう。ですが、独立戦争においてそれがどういうことを意味するか分かりますか?

 連盟政府の四十数年前のエルフとの戦いを思い出してください。

 それは今回のような独立戦争ではなく人間とエルフの異種族間の諍いでしたが、人間が記念的勝利と讃えているとある戦いにおいて、戦う意思を失い白旗を振っていた無抵抗なエルフたちに連盟政府は何をしましたか?

 負ければ北公は完全に消滅。原動力となったかつてのスヴェリア連邦国は歴史から完全に抹消される。

 離反の主体を担ったスヴェンニーへの差別はより強烈なものへ成り下がる。差別を通り越し、人として生きることさえも否定されるかもしれない。

 あなた方もそれが分からないことはないでしょう」


 二人を追い越して私はドアへと向かった。

 付いてこないというのであれば、それまでだ。私には、閣下の目的を果たす為にしなければいけないことがある。


「あなた方に真相を話すのは些か遅すぎたようですね。

 救いがあるとすれば連盟政府、商会や協会が真実のさらに奥にある真実に気がついていないか、もしくは忘れていると言うことです。

 彼らは早々に見切りを付けて撤退したので、それは確かなのです。

 その中で唯一シバサキは残りましたが、目的がはっきりしていません。彼自身もさらなる真実には気がついていない様子ですね」


 二人は顔を見合わせて困ったようになった。

 閣下はこの目的の達成をするために、現場での最高決定権を私に与えた。それは二人も承知のことである。

 だが、独立戦争中であるにも拘わらず、それから遠ざかるような命令に従うことへの迷いがあるようだ。

 この二人は真実を知らない。故に上官命令の意義が理解出来ずに戸惑っているのだ。


 ならば、この二人を迷いから解き放つべく真実を教えよう。

 私は先ほど勿体ぶり過ぎていたのだ。真剣に国を憂い愛するこの二人には、詩的な言葉も、かえって理解を遠ざける比喩も、見てくれは立派な難しい言葉も、一切使わずに全てを伝えよう。


「二人とも急ぎなさい。戦場は前線の兵士たちに任せなさい。こちらにはこちらの戦いがあるのです。

 ここでの私たちの戦いに勝利しなければ、前線の兵士たちの勝利は遠のき、無駄な死傷を増やし、やがては敗北します。

 彼らの戦いを無駄にしたくなければ、私の指示に従いなさい。

 ですが、どうしても付いてくるのが嫌だと言うのであれば、私の話を聞いてからであれば好きにしてかまいません。

 話を聞きさえすれば、ここで私の元から離れて独立戦線に参加しても上官命令無視だの軍紀違反だのと咎めることは一切しません。必要とあらば、移動魔法でノルデンヴィズまではお送り致します。

 その結果、私が一人になったとしても、この任務を必ず完遂します。

 ですが、これから話すことは全て、私の目的が果たされるまでは誰一人に言わないでください。もちろん北公の人間でも。

 非常にまずいことになりましたよ。戦いは機を待たずして始まってしまったのですから」

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