斯くして熊は再び立つ 第三話
ユカライネンには申し訳ないが、少々もったいぶった言い方をしてしまった。
だが、ウトリオにも話さなければいけないので、ちょうど良い。二人を並ばせて真相を話すことにしよう。
しかし、ウトリオの方はというと、いつもとは違い明らかに声が上擦っている。
わきわきとした大きな喜びを隠せない羽のような足取りとフクロウのように膨らんだ幅広の肩、いつもの硬い表情からは考えられないほどに浮かれた様子をちらつかせて、目の前へとやってきた。
どうやら全速力で走ってきたようで肩が上下に動き、息も短い。
ウトリオは連絡を早く伝えたくて仕方ない様子だ。
これから私たちに与えられている任務の核心に迫る大事な話をするというのに、聞いていなかったでは済まされない。私の話をする前にまず彼の報告を受けることにした。
ユカライネンに目配せすると、順番を察した彼女が少し頭を下げて彼に譲るように横へずれた。
「ウトリオ上尉、どうしましたか? らしくなく浮き足立っていますが、何か良いことでもありましたか?」
「ええ、朗報です!」と手に持っていた紙を握りしめ、大きな石のような拳を胸の辺りまで上げた。
「我が軍が連盟政府との戦闘を再開しました!
それだけではありません! ノルデンヴィズ南部戦線においての戦闘で歴史的大勝利を収め、ついに首都サント・プラントンへ向けて南進を再開しました!
首都に至るまでに通過するいくつかの自治領の中で降伏の意思を示すところも相次いでるとのことです!」
それを聞いたイルマも、話の途中で煮え切らなかったような表情を明るいものへと変え始めた。そして、もっと聞きたいというように上半身をウトリオの方へ向けた。
この二人にとってそれは朗報中の朗報だろう。何せ長く停滞していた前線を突破できたのだから。
喜んでいるのはこの二人だけではない。おそらく第二スヴェリア公民連邦国の軍人たちの多くは街中で、基地で、そして、戦場で、喜び勇んで銃を高く掲げているだろう。
だが、北公の人間が全員そうというわけではない。
私や閣下、それから“アスプルンド五カ年大計”を内部向けの概要だけではなく、何をどう実行していくかをより具体的に知る上級将校たちはそこには入らないのだ。
「どういうことですか?」
「どうやら、以前上佐が報告しないと指示を出されたあの情報、北公の大英雄たるモギレフスキー夫妻が生存していたというものが、確かな情報筋により将校たちにもたらされたようです!
そのおかげで我が軍の士気は烈火の如く燃え上がり、指揮する者だけでなく一般兵士のその一人一人までがさながら獅子のような奮闘ぶりを見せています!
我々北公の勝利は間近ですよ!」




