白く遠い故郷への旅路 第十三話
黄金など存在しないことが明らかになり、どこの組織もこの乾ききった大地からは撤退した。
低木と砂しかないこの土地にいる強欲な者たちは、もう俺たち六人しかいない。
この辺りの住人であるカラスや死喰鳥たちは突然静けさを取り戻した乾燥地帯に寂しさを覚えているのか、それともただ物乞いをしようとしているのか、茂みに止まって装甲車とそこで屯する俺たちを遠巻きに見ている。
見通しの利く荒野で辺りを見渡しても誰かが追いかけてくる様子は全くない。動くものと言えば、時折吹く風に煽られる枯れ枝とタンブルウィードくらいなものだ。
西日が傾き始めた頃には気温は急激に下がり始めていた。時期に砂漠の夜の寒さが俺たちを包み込む。
砂と枯れ枝は生きていく為の温度を蓄えない。彼らには必要が無いからだ。その分よく燃える。
暖を取る為に焚火を起こして、フラメッシュ大尉が分けてくれたレーションを食べながらのんびりそれを囲んでいた。
砂漠を越える為にどれだけの時間を要するか分からないので、つかの間の安息は満喫しておいたほうがいいというのは誰も理解していたようだ。
ベルカとストレルカさえものんびりと休むことに文句は言わなかった。
レーションを食べているとき、ベルカが立ち上がり気まずそうに視線を左右に泳がせながら、「プリャマーフカ、まだオレたちは怖いか?」とセシリアに近づき話しかけていた。
セシリアは突然近づいてきたベルカに目を丸くして口を歪めた。そして、助けを求めるかのように俺の方を見てきた。
二人組はもうセシリアを誘拐することはない。俺は、大丈夫、と視線を送ってゆっくり頷き、特に何もせず三人を見守るだけにした。
セシリアが動揺していることに気がついたのか、ベルカは少し離れたところに腰掛けた。
遅れてストレルカが近づいてくるとベルカとセシリアの間にどっかりと座り「そりゃ、怖いよな。悲しいが、アタシらのしたことは最悪のことだからな」と意地悪そうに笑いかけた。
その勢いに圧倒されたセシリアは目を開いたまま完全に硬直した。
「謝っても、ダメそうだな」とベルカはがっかりしたように呟いた。
「ガキに嫌われて拗ねてやがんの」
「うるっせーよ」
ベルカとストレルカのふざけ合うようなやりとりの余韻が消えていくと、皆黙り込み再び食べ始めた。
頭上の空は濃紺色に落ちて、西側には茜色と朱色を残すだけになっていた。沈みかけの夕日は水平線間際で大きくなり、赤く揺らいでいる。
焚火の燃える音と時折薪の弾ける音だけに包まれた静寂の中で、ベルカとストレルカは焚火を見ながらもくもくと食べ、セシリアは二人を顎を引き伺うような上目遣いでチラチラと見ながら、落ち着かない様子でゆっくりスプーンを口に運んでいた。
しかし、茂みにいたカラスたちが大きく羽を広げて二、三度扇ぐように揺すったあとに突然低く飛び立った。
そして、爪を前に向き出しにすると、セシリアに向かって一斉に滑り込んできたのだ。
ここにいる人間の中で身体が一番小さいセシリアの食べているレーションを奪おうとしているようだ。
レーションが取られてしまうだけならいいが、鋭いくちばしや爪で攻撃されて怪我をしてしまうかもしれないと思い、咄嗟に守ろうと杖に手をかけたときだ。
「おい! あぶねェぞ!」