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白く遠い故郷への旅路 第十一話

「なるほどなぁ。こいつまるごとトンボに運んで貰うってことか」


 ルームミラーに写った後部座席に座るベルカをちらりと見ると、物珍しそうに装甲車の中を見回している。

 借りてきた装甲車を村はずれに駐めてベルカとストレルカ、エルメンガルトを迎えに行った後、トンボを待つ場所を探して乾燥地帯をぐるぐると回っていた。


 左ハンドルのマニュアル車。窓は小さく、その外側には溶接ではなく鋳造か切り出されたのか装甲と一体で全く継ぎ目のない鉄格子。後ろは観音開きのドア。武装は無く、その代わりに後付けされた座席。


 借りてきた装甲車は現金輸送車を何倍にも頑丈にしたような車だ。

 運転方法は共和国の車と大差ない。だが、あちらで乗り回していたチューダーセダンとは段違いの馬力がある。それもただ大きい車体を動かすため以上の馬力があるようだ。

 唸るエンジン音が大きく力強く、少しばかり心地よさを覚えてしまった。走りやすそうなところを選んでいるので、そのせいでスピードも出る。

 だが、スピードを出すほどに路面状況が振動で反映される。小石や舗装されていない地面の小さな凹凸でも大きくがたつくのだ。

 トンボに捕まる前にひっくり返っては元も子もない。自分を少し戒めて、柔らかく掌を押し返して馴染む革のハンドルをより強く握りしめた。



 借りに向かうとき、まだ二人が怖いというセシリアを連れていくというと、アニエスも来ることになった。

 となるとやはり二人も連れて行けと言い出した。

 だが、俺はブルゼイ族と手を組んでいることを共和国に報告していない。

 共和国軍は黄金探しから撤退したから関係が無いとは言え、この二人は一度基地を襲撃しているのでなおさら連れて行くわけにはいかなかった。

 置いていくわけがないと三回ほどなだめると、そう言うやりとりも何回目かであり、二人もさすがに信頼し始めている様子を見せたので待ってくれることになった。

 私ゃ人質かい、とエルメンガルトがギョッとしていたが、置いていこうものならベルカとストレルカよりもこの人の方が怖いので人質にはならないだろう。


 誰が行くとか行かないとかにより一悶着はあったが、装甲車は思ったよりも簡単に借りることが出来た。

 基地に行く前にユリナに連絡をすると、基地に着く頃にはすでに用意されていた。

 その場にいたフラメッシュ大尉の話では、トンボが捕まえやすいように金具を足しておいてくれたそうだ。

 よく見れば天井に手すりのようなものが何本か付いていた。さらにトンボの取っ手だけでなく、装甲車を砂地でもスタックしないように換装までしてくれた。

 ギンスブルグ家の女中たちはどうしてここまで優秀なのかと感心させられてしまった。


 免許の心配はない。

 もとよりしていなかったが、そもそもここは共和国外で車も作れていない原始人類の土地だから関係ない、轢き殺しても対物事故にすらならないぞ、とフラメッシュ大尉が豪快に笑い肩を叩いてきた。

 人間を未開人と嘲る彼女はなかなかのエルフ至上主義者のようだ。

 偏った思想の持ち主ではあるが、何度も顔を突き合わせている人間である俺に対しての当たりはそこまできつくはないのが幸いだ。



「しかし、すげぇモンだな、例の民間団体とやらの技術は。こんな鉄の塊を速く走らせられるなんてな」


 装甲車の壁をこんこんと叩く音が聞こえた。

 軽く叩いたようだが、響いた音は重く、広がるようになり、やがてじんわりと金属に吸収された。

 硬い陶器を叩いたときの振動をすぐに吸い込んで薄めていくような音ではなく、よく広がったその音は装甲車に使われている金属の弾性や粘性が強く、簡単には壊れないというのを物語っていた。


「妙な奴らだな。北公の連中とも違う銃を持ってやがる。

 北公のアスプルナントカとは違って魔法が飛んでくヤツだ。あれの威力は大したことはねぇようだ。

 が、どうやら意図的に弱くしてるみてぇだな。連盟政府にはボンクラしかいないのかと思ったぜ。

 ……いや、未だにボンクラしかいねぇんだろうなぁ」


 ルームミラー越しに後部の座席を再び見ると、ベルカがぐるぐると首を回し車内を見渡していた。そして、一通り見た後にルームミラー越しにちらりと流し目を合わせてきた。

 その視線の奥にはしらしらと光るものがあり、何かを探っている。

 ウィンストンに限っては、対峙したときこの二人に自ら正体を明かしていた。

 人間ではない者が部下にいることや技術的に圧倒的な物を見たことで、どうやらユリナたちが連盟政府の人間ではないということに気がつき、それと繋がりのある俺がその正体を知っていることにも気がついているのだろう。


 運転に集中しているので話を中途半端にしか聞いていないようなふりをして「あいつらは例外だ。動いてると舌噛むぞ」と車のエンジン音と石を踏みしめる音にかき消されるかどうかほどの声でつぶやき、ルームミラーから目を離して前を見た。

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