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白く遠い故郷への旅路 第六話

「霧が山の上に出るとは思えないんだよな。霧なんてのは基本的に麓にでるイメージだな。

 山の上の霧は滑昇霧とかはあるが霧と言うより雲だ。先生の言うとおり、やっぱり霧そのものではないかもな」


「では、霧以外で霧を表すもの。霧、霧、霧。白いモヤモヤ……」とアニエスが人差し指を顎に突き視線を上に向けながらぶつぶつとつぶやいた後、「もしかして、霧星帯?」と顔を上げて首をかしげた。


「“山の下に消えた霧”。確かに、ビラ・ホラは山に囲まれた吹きだまりで霧星帯は見えなかったとも考えられるな。

 でも、そうだとすれば、取り囲む山がかなり高くないと厳しいぞ」


「ヒミンビョルグみたいに雪でずっと白くなるほど高い山が周囲を取り囲んでいる、とか?」とアニエスは付け加えた。


「あぁ、なるほどなぁ。ま、確かにそれで白い山とも言えねぇこともねぇな」とベルカは頷いた。


「で、その霧を見る為に高くかげなければいけない“導くもの”ってのはなんだ?

 霧星帯が見たきゃ、その山に登りゃあいい話だろ? 何かお宝でも持って登山でもするのか?」


 それまで黙って腕を組んでいたストレルカがはたと顔を上げて何かを思い出したように「スプートニク」と突然言い出し、話題の中心に躍り出てきた。


「“導くもの(スプートニク)”は、導きの星のことだ。アタシは育ての親から聞いたことがある。

 毎日同じ時間に同じ高さに上がる星があンだろ? あれをアタシらはスプートニクと呼んでた、らしい」


「導きの星……」


 導く星と言えば、元いたところならば北極星(ポラリス)だ。

 地軸の先にあり、どれほど夜が更けて天が回ろうとも夜空の中で動くことなく位置を測ることが出来る。

 レーダーやGPSと言った便利な物出てくる前は何処の国でも大体それを目印に航海をしていた。

 だが、ここは世界が違う。しかし、航海術に星を用いていたのは同じだ。

 こちらで星を目印にした航海術と言えばあれしかないと、俺はすぐさまあることが頭の中を過ったのだ。


「ナイ・ア・モモナか!」


 思い出すや否や、脊髄反射のように俺は大声を上げてしまった。

 ナイ・ア・モモナ、それはカルデロンを中心とした信天翁(アルバトロス)五大(ファミーレ・)家族(デ・シンコ)の発展に寄与した航海術における目印となる星だ。

 元を辿ればそれは共和国南方のダークエルフたちの技術でもある。

 ニイア・モモナやナイ・ア・モモナと名前にこそ地域差が出ているが、ひときわ明るくずれることなく周期的に天を巡る同じ星を目印に用いた航海術だ。

 霧星帯よりも上に浮かぶひときわ大きな星はビラ・ホラが高い山に囲まれていても見えるはず。

 そして、それが惑星や天体とは異なる動きをするというのは、空を見上げる人なら誰でも気がつく。


 砂漠は海と同じだ。

 海で海水が風に煽られて起こる波は、砂が風に煽られて出来る砂丘と同じだ。砂丘は悠久の時を要するが、やがては海の波と同じように崩れていく。

 そして、一度陸地が見えなくなってしまえば、天と地を隔てるものは水平線の一直線だけになる。


 ブルゼイ族は、高度な航海術ならぬ航漠術を持っていたのだろう。限りない砂の海を余すところなく隅々まで渡り歩き、我が手の中に治めていたのだろうか。


 ピンと来てすぐに一人で納得して、さらに勝手にロマンを広げてしまった。

 言ってから思い出したが、ナイ・ア・モモナはエスピノサ家の秘密だった。知る人はカルデロンの関係者でも無ければそこまで多くはない。


「聞いたことねぇな。何だそりゃ?」


 ベルカが口をぽかんと開けて見つめてきた。

 だが、堂々と秘密を漏らすわけにはいかないので、「霧星帯の上の辺りにある明るい星がわかるか? あれをそう呼んでる奴らがいるんだよ」ととりあえずぼんやりと誤魔化して伝えた。

ナイア・モモナは『第331部分 マルタン侵犯事件 第九話』から『第346部分 マルタン侵犯事件 第二十四話』にかけて言及しています。

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