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黄金蠱毒 最終話

「聞き分けのないガキみたいに怒鳴りまくるのは結構だが、どうするかあてはあるのかい?」


 渋い顔をしたままのエルメンガルトがそう尋ねると、ベルカは「それはっ」と息を飲み込んで黙り込んだ。

 咄嗟の何かを思いつかせようと視線をぐるぐる回して考えたが、何も出てこなかったようで「クソッ!」と再び怒鳴り壁を殴りつけた。


 ずしんと家が揺れるとパラパラと埃が落ちてきて黴の匂いがした。

 梁の上に溜まっていた古い埃がたたき起こされて落ちてくるのをしかめた顔でエルメンガルトは見上げ、

「こらこら、おやめ。私の家に当たり散らさないでおくれよ。もうだいぶ古いんだから」

 と物にあたり散らすベルカに注意した。

 それでもベルカはヌフーッと闘牛のように長い息を鼻から吐き出してまだ興奮状態だ。だが、申し訳なさがあるのか、僅かに肩を落とした。


「おい、ベルカ。

 俺もスヴェンニーの出自について聞いたら、色々疑問がまた増えた。だから、俺も早いとこビラ・ホラにはたどり着きたい。着かなきゃいけなくなったかもしれない。

 だけど、そうやってカッカしてたら遠ざかるぞ?」


 俺はそう言ってから、落ち着きそうになったベルカを煽ってしまったことに気がついた。

 やはりベルカは舌打ちをすると「うっせーな! ンくらいわかってら! じゃ、まずどうすんだよ!」とまたしてもいきり立ち、壁を殴ろうとした。しかし、寸でその拳を止めた。

 そして、行き場のない拳を反対の掌に当てて自らなだめると、拗ねるようにその場に尻を落としてしゃがみ込み目を閉じた。


 俺に具体的な考えは特にない。他の誰も特に何かこれといった打開策を思いついてはいないだろう。

 しかし、現在の状況はそこまで絶望的なものだろうか。

 ラジオの歌はある。この二人も歌を知っている。ブルゼイ語の翻訳が出来るエルメンガルトもいる。

 ライバルたちも見切りを付け、北公以外は全員いなくなった。鳴りを潜めて不気味にまだ居続ける北公と無駄な関わりを持たなければ、以前よりかなり動きやすい。

 自分のことしか考えていない有象無象が寄って集ってわちゃわちゃ探していたときよりも遙かに情報は多く、まとまっている気がするのだ。


 だから、これからも引き続き手元の情報を考察して手掛かりを探し続けたほうが懸命ではある。


 ストレルカはベルカとは対照的に壁に寄り掛かったままだ。

 継続して情報を探すしか無いことを理解しているのだろう。だが、人差し指はその先にあるものを落ち着きなく叩くように動いている。

 エルメンガルトはタバコを吸おうとポケットからくしゃくしゃの箱を取り出したが、視線だけをセシリアに向けると思いとどまり、箱を再びポケットにしまって腕を組んだ。


 アニエスはやや蚊帳の外にいるような感じもあるのだろう。黄金探し、ビラ・ホラ探しへの手掛かりを自分が何一つ持っていないことに申し訳なさを感じているのか、困ったような顔をして黙っている。


 そして、ついに誰も何も言わなくなった。


 乾いた風が今日は特に強い。窓枠をガタガタとならしている。

 慣れていたエルメンガルトの家の埃の匂いが少し強い。隙間風が入り込めなかった隅や角まで入り込み、先ほどの振動もあって動かなかった埃が巻き上げられたのだろう。


 焦っていても仕方が無い。まずは分かる範囲で歌の解析を行おうと提案しようとした時だ。

 セシリアが裾をくいくいと引っ張ってきた。そちらを見ると、顎を引き気味にして上目遣いでこちらを見つめている。


 ベルカの怒鳴り声に怯えてしまったのかと思い、屈んで頭と頬を撫でながら「どうした? 怖かった?」と尋ねると、ううんと首を左右に振った。

 そして、「あのね、パパ」と耳に口を近づけて両手で囲うようにすると、耳元でこしょこしょと何かを話し始めた。


 そのセシリアの三つにも満たない単語で構成された言葉を聞いたとき、小さいはずのそれは心に突風をもたらしまるで外の風の音さえも遮ったような気がした。


 黙っていることに堪えきれず、彼女の恥ずかしさにも構わず「みんな、聞いてくれ」とみんなを呼んでしまった。

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