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黄金蠱毒 第百四十話

 だが、二人の焦る気持ちを全く理解出来ないわけではない。

 ムーバリがここにいる理由がさらに怪しくなる原因となったからだ。


 ムーバリを含めた北公の四人は、たった今聞かされたスヴェンニーの出自については知っているのだろうか。


 知っていたと仮定すると、確かにブルゼイ族への恨みを晴らすために、黄金探しのふりをしてブルゼイ族の故郷を探し出し潰そうとする可能性は大いにある。


 だが、それに、そんな程度のことに意味はあるのか。


 北公と連盟政府は今まさにこの瞬間も戦時下。カルルさんは果たすべき目的である北公の独立を最優先にしている。くだらない復讐などに食指を伸ばす余裕など無い。

 ブルゼイ族は数は多いが、散り散りでありまとまっている様子はなく潜在的脅威度はまだ低い。

 かつて見下していた相容れないスヴェンニーたちの国である北公の独立への障害たり得るかと言えば、それは考えられない。

 よって、ブルゼイ族への報復など、連盟政府との戦いで()()が付いてからで良いはずだ。

 報復を始めたことによりブルゼイ族の団結を誘発する可能性もある。


 そもそも、お互いが何故相容れないのか理由すら忘れるほど年月が経った今日に何千年も前の話をほじくり返して、今さらになって故郷を根絶やしにするというのはあまりにも幼稚で、平等主義を謳いそれに向けて挙兵した人間のやることとは到底思えない。

 カルルさんはその程度の人間ではないと直接会って話をすれば誰でも理解出来る。

 そして、ベスパロワ家は元々教皇領周辺の大きな家柄であり連盟政府にも所属していた。彼自身はスヴェンニーではない。


 確かに、それ自体、俺自身はスヴェンニーではないから思うところがないという個人の見解を交えた考えではある。

 さらに言えば、ベスパロワ家も後に都落ちしたことを考えれば連盟政府に恨みが全く無いとは思えない。

 連盟政府を討つための離反主役たるスヴェンニーを味方に付け、彼らに触発された(かもしくは圧をかけられた)結果、協力してくれた彼らの為に復讐までも実行しようと決断した可能性は充分にありうる。

 だが、仮にそうだとしても、あまりにもやることが小さすぎないだろうか。


 もし、カルルさんがスヴェンニーがブルゼイ族をルーツに持つという事実を知らなかった場合、話の全てが否定される。

 ただ一つ、黄金を見つけるということを除いて。


 これまでの経緯を思い返してみれば、カルルさんは自らが起こした内乱に対する焦りがあるようにも思える。

 北公は資源が乏しく、戦いを続ける為の武器弾薬を得る元手となる黄金を探している様子も窺える。


 しかし、その黄金は存在しない。加えてその事実などおそらく最初から知っていた可能性もゼロではない。


 ではなぜここにいるのか。

 ここで、していたこと、していることは一体何なのだ? 思考は堂々巡りになる。


 黄金探しとして始まったこの調査は、北公の本当の目的は黄金ではなく、なおかつ、ブルゼイ族への復讐でもない。

 現時点で一番念頭に置くべきは連盟政府との戦いであり、それのために優先すべき何かがビラ・ホラにはあるのかもしれないのだ。


 その“何か”が何であれ、形は変わろうとも争いを煽るものであるのは間違いない。

 俺たちがそれを独占するか、今ここで腹を立てて苛立ち足をならす者たちに全てを投げ渡すかのどちらかに結末を持っていくことに変わりは無い。


 だから、ベルカやストレルカと同じく、俺にも焦りはある。

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