黄金蠱毒 第百三十九話
「おや、なんだい、また来たのかい。授業を聞く気にでもなったのかい?
しかし、これはまた意外。洟垂れイズミまで一緒かい。
事情は詳しく知らんが、あんたたちゃガキみたいにケンカしてたんじゃないのかい?」
いつの間にこの二人はエルメンガルトと接触したのか、気になることはあった。
しかし、焦りにまみれて口角泡を飛ばしている二人にあっけにとられてしまい、俺は何も言うことが出来ずに二人とエルメンガルトのやりとりを見ていることしかできなかった。
「うるせぇ、ばーさん! オレたちの喧嘩の話なんかどうでもいい! こいつらにオレらブルゼイとスヴェンニーの間柄説明してやれ! 今すぐだ!」
エルメンガルトはこの不良ブルゼイ族二人、しかもここ最近の分かる範囲での悪行の数々をある程度聞いていたはず。
それに何の抵抗も示さず、なじみの知人客でも来たかのようにドアを大きく開けて杖でドアを固定し、顎で家の中を指した。
「見張りがいないからって乱暴なガキだね。砂が入ると厄介だ。掃除すんのは私なんだ。とにかく、まずはみんな家ん中にお入んな」
エルメンガルトの意外な反応に驚いている間に、俺たちはベルカとストレルカに背中をぐいぐいと押されて家の中へと押し込まれた。
そして、無理矢理椅子に座らせられるとスヴェンニーがブルゼイ族と同祖であることを突然聞かされた。
「簡単に言えば、スヴェンニーはブルゼイ族に追い出されて恨みを持ってるってことか」
めまぐるしく事態が展開して理解が追いつかなかったが、エルメンガルトの話はさすがに元エイプルトンの教室長なだけあり理解しやすく、終わる頃には何が言いたいのかは分かった。
そのおかげで冷静な反応をして見せることはできたが、確かにこれは意外だった。
あのスヴェンニーの槍にブルゼイ族の名前が入っている理由には納得した。正確には名前ではなく、彫られていた言葉の意味を理解出来た。
槍の柄には『スヴェンニーの黎明はブルゼイ・ストリカザの日に』と彫られていた。
それには自分たちを虐げたブルゼイ族を討つことでスヴェンニーは再び栄えるという意味が込められていたのだ。
槍に込められていた、スヴェンニーには容易に持ち上げられるという魔法、と言うよりもほとんど呪いのような性質を考えれば、この二人が槍を過剰に恐れる意味も自ずと分かる。
「そうだ。だからスヴェンニーどもよりも先にビラ・ホラを見つけなきゃいけねぇんだよ。恨んでるヤツらに故郷をぶっ壊されるかもしれないんだぞ。そんなのは許せねぇ」
ベルカは拳を振り上げてテーブルを叩いた。エルメンガルトは音に肩を飛び上がらせて、渋い顔をした。
なるほど、それで焦りが出ているというワケなのか。だが、それを聞くと頭が痛くなるようなことがさらに増えた。
「何熱くなってんだよ。生きるためとかいってむちゃくちゃしてきて、自分たちの故郷なんかどうでも良いのかと思ってた」
「うるせぇ! お前に何が分かる!」
二人はカネが欲しいから早く黄金を見つけたいと言ってたはずなのに、黄金が無いと分かってもなおビラ・ホラにこだわり、さらには壊されたくないとまで言ったのは意外だった。




