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黄金蠱毒 第百三十七話

 答えを聞いたベルカの表情にまだ勢いがあるが、そこに安堵も垣間見える。無いと分かるや否や俺たちがさっさと帰ってしまうという不安でもあったのだろう。

 俺は落ち着かせる為にまだ終わらせる意思はないことを改めて伝えることにした。


 今度は俺から、そしてゆっくりとベルカの両肩に手を置いた。二回ほど軽く叩くと、ベルカは攻撃でも仕掛けてきそうな前屈みではなくなり、表情を抑え始めた。


「俺はお前らに約束したろ。お前らにお宝の一つでも見つけてやらないとな。

 口約束だとか理屈にもなってない屁理屈ごねるつもりはないから安心しろ。またセシリアを誘拐されても困る。

 そういうわけだ。何かあればいいが、どっかで良い知らせ待ってな」


 我ながら少しわざとらしさがあるとも感じたが、諭すように目を細めて笑いかけた。


――だが、実際はそれだけではない。


 ユリナたちが北部文献を元に黄金が無いことに気づき、マゼルソン法律省長官も既に知っていたという事実から考えつく結論に、どうも腑に落ちないことが多すぎるのだ。


 マゼルソン法律省長官が知っていると言うことは、ルカス大統領も知っている。本人に確認したわけではないが、それはオージーとアンネリに会って聞いた話によって既に確定的である。

 情報の流れとしては、ルカス大統領がマゼルソン法律省長官に伝えたとも考えていいだろう。

 さらにルカス大統領がどこで知り得たのかを辿れば、それはカリスト前頭目の集めていた北部文献となる。

 大統領というユニオンでの最高位に就き、その資料へのアクセスも容易になった末に知ったのだろう。

 カリスト前頭目が集めていたその文献は古典復興運動を引き起こす原因となった。しかし、実際は古典復興運動は連盟政府内に混乱をもたらす為の北公による計画の一環っだったのだ。

 運動は、当時行われていた没落勇者たちによる十三采領弁務官理事会乗っ取り計画との相性が非常に良く、信天翁(アルバトロス)五大(ファミーレ・)家族(デ・シンコ)によるユニオンの独立やストスリアを中心とした友学連の独立という想定していた以上の成果をあげたのでさらに情報を流出させていた。


 その北部文献のリークの指示を出したのは、他でもないカルル・ベスパロワだ。カルルさんは今や北公の代表者である。

 つまり、全ての事象の起点を辿れば北公の一点に回帰する。


 だから、その北公が黄金についてどこよりも具体的に知っていてもおかしくないのだ。


 ムーバリを始めとした四人(うち一人は早期に離脱)はあくまで黄金を探しているといっているが、あちこちの組織が無いという事実に見切りを付けて素早く撤退していく中で、その気配を全く見せていない。


 だが、その北公が黄金について捜索が始まる前、文献を最初に持っていたときから既に知っていたのかどうなのか、それとも最中に気がついたのかは判断を付けられない。


 そして、ここまで知っているという前提で話を考えたが、全く知らない可能性も否定できない。


 少なくとも黄金が無いと俺が知る前後において情報共有のための集会は開かれていない。

 情報共有とは言いつつも顔を合わせれば殴り合いばかりで、これまでどの組織とも積極的にお互いの情報を交換したような記憶は無い。

 普段からこまめに連絡を取り合っているわけでもないので、共和国を始めとした黄金が無いことに気がついた勢力が律儀に北公にその事実を報告するようなことは考えられない。


 そして、情報のやりとりが行われていなかったと言うだけ彼らが知らないと決めたわけではない。


 古典復興運動はあくまで北公での作戦ではあるが、下っ端には教えないで行われたとも考えられる。

 ムーバリはカルルさんの側近であり、古典復興運動は計画的なものであったことは知っている様子だった。

 綿密に練られた極秘の作戦であるため、ポルッカ、イルマ、オスカリを始めとした(言い方は悪いが)下っ端には、行動の指示以外に充分な情報が与えられていない、もしくは知らない可能性もある。

 だが、ムーバリも知っているのは古典復興運動までで、運動自体は北部文献をリークするだけで起こせる。

 リーク元である北公も文献についての解読が完全では無く、黄金の不在について直接的なことはカルルさんさえも気がついていない可能性もあるのだ。

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