黄金蠱毒 第百三十六話
「おい、お前ら!」
野太い怒鳴り声の後に落ち着きの無い駆け足の音が聞こえたので振り返ると、ベルカとストレルカがこちらに向かって走ってきていた。
目が合うと「黄金郷なんか無いってどういうことだ!」とさらに怒鳴り声を上げた。脇目も振らず、目立たないことも考えていないのか、ドタドタと砂埃を巻き上げている。
いきり立つ二人組に驚き、セシリアがアニエスの後ろに隠れてしまった。
俺たちもちょうどこの二人組にそれを伝えなければと思っていたところだった。
ほとんどの組織が今やもう帰ってしまったし、今さらこの二人組とつるんでいるのがバレても誰も気にもしないだろう。
そう思い、セシリアをアニエスに任せて、特に隠れるようなことはせずにその場で立ち止まり近くへやって来るのを待った。
すると二人は足を速めてあっという間に目の前に来た。
息が上がり肩を上下させている二人組を交互に見て「聞いたのか。早いな」と言うと、ベルカが思い切り踏み込んで肩に掴みかかってきたのだ。
さらにストレルカも横に回り込み取り囲む様な位置に立ちはだかった。
「何だよ。殺気立って。俺は最初に言ったぞ。あるかどうかわからないってな」
「ンなもん関係ねェ! いつから知ってたンだよ!? 知ったならすぐに伝えに来いよ!」
掴んでいる腕の手首を押し退けるようにすると、さらに強く掴まれた。
その拍子に左腕が強く引かれて肩の古傷に痛みが走り、思わず顔をしかめてしまった。
すると僅かに腕を引く力が抜けた。そこまでの敵意はないようだ。
「ハナっから知ってたわけじゃない。お前ら騙しても意味ないしな。
確定的に無いって聞いたのは俺たちも昨日だ。
こっちから探しに行かなくてもお前らすぐ現れるだろうと思って待ってたんだよ。
つか、俺たちじゃお前らがどこにいるかなんて探せないからな」
「例のスヴェンニーのヤツらか?」
ベルカは鼻息を粗いままに尋ねてきたので「そうだ」と答えるとようやく肩から手を放した。
上着に皺が寄り脇に嫌な感覚があるので、
「友達に何を聞いたか詳しく全部教えてやるよ。で、それで気がついた後にユリナ……ストレルカを蹴り飛ばした女から呼び出されて具体的に無いって聞いたんだ」
と上着の位置を直し軽く叩いた。
「その後にもあっちこっちが無いから撤退だっつって挨拶に来て、それが終わった頃には夕方も近かったし、俺たち三人とも疲れてたからお前らへの報告は後回しにしたんだ。悪いな」
ベルカはまだ落ち着いていないようで「お前らどうするつもりだ? もうおさらばなのか?」と青筋を浮かべている。
だが、予想外にもその興奮にはただの怒りだけでなく、どこかもう終わりなのかという悲しみも混じっていた。
「独占してまで隠す必要がある物が無くなったから意味は無いし、もう終わりにして過ごしやすいとこに行ってどうやって争いを止めるか考えたいとこだけど、それでも俺たちはビラ・ホラを目指すぞ」
「なんで探すんだよ!? 時間の無駄じゃねぇかよ! お前、黄金がねぇってんならもう関係ないんだろ?」




