その槍の名は 最終話
何も知らないような反応をしたオレとストレルカの方へ振り向くと、またしても驚いたような顔をして瞬きを繰り返している。
「おや、驚いた。黄金なんざ無いって、聞いてないのかい? 殴り合いばっかりしてたみたいだが、顔合わせたときに聞いてそうなもんだが」
オレはストレルカの方を見ると、上半身をエルメンガルトの方へ突き出していた。そして、目が合うと肩を上げて首を左右に振っている。ストレルカも知らない様子だ。
「オイ、待てよ。どういうことだ?」
エルメンガルトに二人で詰め寄るように迫ってしまった。
オレとストレルカを交互に見上げると、両手に抱えていた分厚い本を胸元に押しつけ、再び本棚に向かうとまた本を取り出し始めた。
「ほれ、持ってけ。そのまんまだよ。ビラ・ホラは黄金郷なんかじゃない。
寝ションベン垂れのユリナには伝えたはずだ。財宝は少しばかりあるだろうが、黄金郷の可能性はほぼゼロだってな」
ユリナとイズミに限らず、あのとき酒場廃屋にいた連中は皆で情報共有をしていた。しかし、どいつもこいつも出し抜くことで精一杯でギスギスしていた。
だが、その中でもユリナとイズミはどちらかと言えば協力し合ってはいた。
そのような根底に横たわるような大事な情報をユリナが知っているということは、イズミも知らないはずがない。
黙ってやがったのか?
「イズミ、あんちくしょう……。道理で護衛なんかいねぇわけだ」
オレは反射的に分厚い本の山を受け取っていたが、テーブルの上に乱暴に放るように置いた。
カップの底に残っていた紅茶を一気に流し込み、すぐに出る準備を始めた。ストレルカもピンを付け直すとそれに続いた。
エルメンガルトはオレたちが帰ろうとしていることに気がつき、「おや、歴史はいいのかい? 寝たら半殺しにされる楽しい楽しいババァの講義が始まるよ」と抱えていた分厚い本をテーブルにずんずんと積み始めた。
「悪ィな、ばーさん。授業にゃ今集中できるような気分じゃねェ! こうしちゃいられねェ。とりあえずイズミんトコに行くぞ!」
「ばかちんが、何が分かったんだい? 何にも分かってないだろうに」
ストレルカはピタリと止まるとエルメンガルトの方へ振り返った。
「いや、ばーさんの話でわかったことがある。
ムーバリとか言う奴が持ってる槍、あれが本能的にあぶねェ理由が分かったよ。
ブルゼイ・ストリカザはアタシらの言葉で“ブルゼイを討つ者”とかいう意味だったよなァ。
洒落になンねェふざけた名前つけてやがると思ったが、スヴェンニーの復讐の槍ってェことかよ。
オマケに、わざわざアタシらブルゼイ族にわかるようにブルゼイ語で名付けてやがる。質が悪りィったらありゃしねェ。
だが、ただのイチャモンでアタシらぶっ殺しにかかってるって意味じゃないのはよく分かったさ。
だが今はンなことたァどうでもいい。とにかく出る。また来るかもしれねェからばーさんは待ってろ!」
圧倒されててあんぐり口を開けているエルメンガルトを背中に、オレたちは家を出て足早にイズミのところへ向かった。