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その槍の名は 第七話

 エルメンガルトは言い切るとブローチからそっと手を放した。


「私が言いたかない理由が分かったかい?

 おバカな祖先のおっぱじめたくだらんことで、偶然にその家柄に生まれただけの末裔が責められるなんて意味がわからんだろ」


 そして、申し訳なさそうに丸めた背中を向けると椅子へと向かっていった。


 しばらくその場にいた誰もが黙り込んでいた。

 ストレルカはいつの間にかブローチを外していて、右掌で転がし人差し指に乗せて親指で弾いて話に興味なさそうに遊んでいた。

 オレはというと、とりあえずブルゼイ族であることは間違いない。のだが、何処ぞの何家のお坊ちゃまの子孫なのか、見当もつかずにただ気まずいだけだった。


 ガラスのコップを弾いたようなピンと音がしたのでそちらを見ると、ブローチが宙を舞っていた。外の光を受けて黄色く光ると同時に「余計なお世話だね」とストレルカが言った。

 ブローチはさらに高く跳ね上がり、ストレルカの頭よりも高い放物線を描いた。やがてそれは落ちていくと、ストレルカの掌に包まれるように姿を消した。


「ばーさん、アタシのブローチにそんな御大層な意味は無い。ただの、そして唯一の親から貰った形見だ。

 大事な物ではあるが、私にとっては形見だから大事なだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

 誰かに渡すつもりもないし、歴史的価値なんざ糞食らえだよ」


 ブローチを握る拳をエルメンガルトに向けて突き出した。真っ直ぐに伸びた腕は素早く、何かを打ち砕く仕草にも見えた。

 ストレルカの動きを見たエルメンガルトは驚いたようになった。


「こりゃあ見上げた小娘だね。記憶が無ければ、それは何者でも無い、か。

 それがコズロフ家のお宝だなんてすぐに分かるのは、今の世じゃ私くらいなもんだ。

 連盟政府(世界の中心)はその私を否定した。世界の誰もが知らなければ、そいつぁ確かにタダの形見でしかないね。ぶんどって売っても生活費の足しにもならん」


 エルメンガルトはここに来て初めて笑った。笑うときにまず右目尻から皺が寄る仕草がメリザンド先生にそっくりだ。

 歴史を話す気になったのか、「やれやれ、ちょっと待ってな」と言うと先ほどの本を空いた本棚へ戻し、棚をガラガラと動かして隠すように戻した。

 そして、別の本棚の前へと移動すると人差し指で背表紙をなぞり本を探し始めた。


「しかしまぁ、歴史を聞きたいなんてのは妙な感じだな。

 教師やってたときなんざ、学生からは一言も聞いたこともない言葉だのに、放逐されてからそうやって真剣な顔で言われるのは変な感じさね。

 まして、暴れまくって洟垂れどもの邪魔しまくってたアンタたちが急にしおらしく正座して聞きたいなんてどうしちまったんだかね。

 アレかい? アンタたちは()()性懲りもなく探しモンしてんのかい?」


 高い位置にある本をとろうとして背を伸ばしたときだ。エルメンガルトがぽつりと尋ねてきた。

 鼻で笑い仕方なさに呆れるようにも聞こえたその言い方が妙に引っかかり「どういうことだ?」とオレは尋ね返した。

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