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黄金蠱毒 第百三十話

「私は双子誘拐のときにいませんでしたからあまり詳しくないのですが、大変だったようですね。

 相変わらず甘いと思いますが、変わらないあなたはさすがです」とカミュは笑ったまま頷いた。


 変わらないというのは相変わらず俺は鈍くさいということなのだろう。

 カミュとは仲がいいつもりだ。好意的な皮肉と捉えておこう。


「とにかくそれはひとまず終わりだ。本題に戻ろう」


 ヤシマの話をしにきたわけではない。気にはなるがその話はそこで打ち切った。


「文献から黄金は無いと気づいたってことは、言わなくても分かるよな。カミュも知ってる通り、共和国にも北部文献は流れている。

 カミュはユリナがどういう立場か分かってるから言っても大丈夫だけど、ユリナも北部文献を貰ってたんだ。

 でも、内容には偏りがあったらしい。それで最初は黄金があると思って捜索に参加したんだとさ。

 マゼルソンも受け取ってたけど、それに加えてルカスから直接存在しないことを聞いてたらしい。

 少し前にユリナがマゼルソンを黄金について問いただして真相を聞き出して、共和国軍というか例の先史遺構調査財団も撤退を決めたそうだ」


「やはりそうですか」と表情を真剣なものに戻した。

 冷静に、やはり、と言ったということは、文献リークの時点でいずれそうなるという可能性にも気がついていたのだろう。

 金融協会は一応にも連盟政府側として黄金捜索に参加していた。三機関協力というのは本当に名目上で、商会や政府には伝えているのか確かめる必要がある。


「クロエも後から来るってさっき言ったよな? あいつらには資金繰りで撤退するって伝えてあるのか?」


「そうです。連盟政府側にはそう伝えてあります。

 協会が下した黄金が無いという結論は、ユニオンから持たらされた極秘情報に基づいたものです。

 ユニオンは超大口顧客であり今後も取引は継続されるので、リークとはいえ良好な関係を維持する為に私たちに“良心による守秘義務”が発生します。

 それから、独自に得た話なのですが、黄金ではなく――……」


 カミュは突然口を閉じた。そして、表情筋を強ばらせて視線を動かし俺の遙か後ろで焦点を合わせた。

 彼女の視線を追いかけるように背後を見ると、クロエとシバサキが来ていたのだ。


 まだ大丈夫だろうか。俺はアニエスに目配せをしてセシリアの目を塞ぐように指示を出した。

 すると、アニエスはすぐに「セシリアちゃん、寒いから中に入ってあったかいスープでも飲もうよ」とセシリアの肩に手を回すようにして押した。

 セシリアはシバサキにはまだ気がついていないようで「スープ?」と言って目を輝かせて、アニエスと一緒に家の中へと入っていった。


 ドアが閉まりきるのを見てカミュと二人、クロエとシバサキが側に来るのを待っていると、クロエは笑顔を作りまだ遠いにもかかわらず大声で話しかけてきた。


「こんにちは、協会のカミーユさんとイズミさん。二人ともお顔が強ばっていますが、一体全体、何のお話ですか? 秘密のお話なら混ぜていただきたいですわ」


 クロエの呼びかけに答えようと口を開こうとすると、カミュが顔の前に右手をかざし何も言うなと制止してきた。


「どうも、クロエさん、こんにちは。

 先ほど作戦本部にお伺いした際にお伝えした通り、私たちヴィトー金融協会は資金が底をついたために黄金捜索からは撤退致します」


 クロエは遠くのカミュの返事を聞くと立ち止まり、シバサキの襟首を思い切り掴んで止めた。そして、苛ついた様子を見せたシバサキに睨みつけられると何かを言ってタバコを取り出して彼に差し出した。

 シバサキは舌打ちをしてぶんどると立ち止まりタバコを吸い始めた。それからクロエだけが近づいてきた。

 クロエのそれは気遣いでも何でも無く、余計なことをさせない為にそこで楔を打ったのだろう。


「それをイズミさんにお伝えしていたのですか。何もわざわざあなたが来なくても、連盟政府の代表者である私がお伝えしたというのに」


「いえ、それには及びませんよ。そちらもお忙しいようですし。

 もうお伝えしたので、私はこれで失礼させていただきます。

 あなた方も要件がないなら、もうお帰りになった方が良いのではないですか?」


 カミュは目配せをすると、クロエに「では、お先に失礼させていただきます」とくるりと背中を向けるとすたすたと帰っていった。

 隠し事の出来ない俺に秘密を話し、しばらく残って俺の口止めをするかと思ったが、意外にも素早く姿を消した。

 おそらく最後の目配せ――黄金がないという情報は敵対関係となったユニオン経由でありさらに協会独自であること、以外は言ってしまっても構わない、という合図だろう。

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