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黄金蠱毒 第百二十九話

「実は、ヴィトー金融協会はユニオンから北部文献について極秘裏に情報を得る機会がありました。

 協会上層部は黄金の所在について当初から懐疑的であり、協会のユニオン・カルデロン部門の担当者が私以外の101支部の者に調査依頼をしたのです。

 ユニオン側にも情報提供を呼びかけましたが、一切の反応はありませんでした。

 しかし、直後にカリスト・エスピノサが頭目時代に作成したファイルのコピーが一部リークされました。

 経由はご存じのヤシマです。

 彼はルカス・ブエナフエンテ大統領の特別官書員次席であり国家機密でもある情報を漏洩などすれば捕まるはずですが、解任や更迭などもなく数日の謹慎を受けただけで現在も官書員次席に就いています。

 彼個人のやったこととなっていますが、リークにはおそらく大統領の指示もあったのでしょう。

 書類はほとんど分からないほどに黒塗りにされていましたが、判読可能なところだけでも黄金の存在の可能性を充分に否定できる内容でした。

 本来ならリーク情報など半信半疑で扱うべきものですが、情報提供要請してからリークまでの早さと誘導とも受け取れるほどの内容の判別のしやすさ、情報源が中枢に近接している点、ヤシマがユニオンに至るまでの経緯、協会とユニオンとのこれまでとこれからの関係性などを考慮して、その文書の内容を信用することにして私たち協会上層部も同様の結論に至りました」


 俺はヤシマが偉くなったというのはユリナから間接的にではあるが聞いていた。

 特別官書員次席、とはどのくらいだ。アメリカで言えば首席補佐官の次くらいか。

 政府中枢まで入り込んだならもう安泰だろうと思っていたが、そうでもなかったようだ。

 アイツの名前が出るときはだいたいアイツが何かしている事が多く、名前を聞くだけで条件反射のように脇の下がひやひやする。

 偉くなったというのならデスクワークに専念して、明かりのよく当たる机の上からユニオンの発展に貢献して貰いたい。


「おいおい、ヤシマは相変わらず危ないことしてんなぁ。大丈夫かよ、あいつ」


 名前が出てきたのでヤシマのことばかり気になってしまった。

 無事であるならそれはいいことだ。

 しかし、ただ無事ならいいというわけではない。思わず呆れ気味なため息が出てしまった。


 カミュは「そういう体質なのでしょう」と仕方なさげに肩と眉を上げたあと、


 「彼はユニオンのためならと大統領の背後にある大きな陰を歩くことにしたようです。

 ですが、彼には感謝すべきですよ? あなたのためでもあるみたいなので」


 と片口角を上げて小さく笑った。


「ありがたいような、恥ずかしいような」


 俺の為に動いてくれるのはありがたいと言えばありがたい。

 しかし、やってることがやってることだ。しゃーねー野郎だな、と簡単にはまとめられない。

 ため息に続いて、さらに鼻から息を吐き出して唸ってしまった。


「でもなぁ、俺はあいつに自分の罪を償えって伝えたんだ。

 罪を赦すのは俺じゃないし、もちろん神でもない。最後は結局自分自身なんだよ。

 あいつ自身が自分は陰の道を歩んでるって言うのは、自分がしてることに後ろめたさがあるんだよ。

 あいつは見た目はチンピラっぽいとこがあるけど、良心が根元から歪んでるわけじゃない。

 だから、忠義とか恩とかに縛られて誰かのために動くんじゃなくて、自分の真っ当な良心に従うべきなんだよ。

 俺のために動かれても意味が無いんだよな」

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